2021年に死亡した患者遺族を対象とした調査結果から見える実態と課題人生の最終段階の医療および療養生活の質に関する調査結果報告(令和5年度調査)
2025年7月3日
国立研究開発法人国立がん研究センター
国立研究開発法人国立がん研究センター(東京都中央区、理事長:間野 博行)がん対策研究所(所長:松岡 豊)では、厚生労働省の委託事業として、2021年に死亡した患者さんのご遺族を対象に、人生の最終段階で受けた医療や療養生活の実態を把握する全国調査を実施し、その結果をまとめました。
本調査は、2018~2019年度に実施した前回調査と同一の調査項目を用いており、調査時点における社会的背景の違い等に留意する必要ではありますが、一定の比較が可能です。今回の調査は、新型コロナウイルス感染症の流行期と実施時期が重なったことから、特殊な社会環境下における人生の最終段階の医療や療養生活に関する情報も得られました。
調査対象は、がんを含む主要10疾患(がん、心疾患、脳血管疾患、肺炎、腎不全、血管性等の認知症、アルツハイマー病、慢性閉塞性肺疾患、誤嚥性肺炎、老衰)により死亡した患者のご遺族です。人生の最終段階にある患者本人に直接調査を行うことは困難なため、ご遺族の視点を通じて医療や療養生活の実態を評価しています。
調査結果のポイント
死亡場所で受けたケアの質
- 医療者はつらい症状にすみやかに対応していたとする割合は65~81%であり、がん・心疾患・脳血管疾患では前回(2017~2018年死亡)より2~3ポイント低下しました。
- 死亡場所での医療に満足していた遺族は65~81%であり、がん・肺炎・腎不全では前回より2~5ポイント増加しました。
医療に関する希望の話し合い
- 医師と患者の間で最期の療養場所について話し合いがあった割合は23~53%であり、がんを含む5疾患では、前回より8~17ポイント増加しました。
新型コロナウイルス感染症の看取りへの影響
- 入院・入所していたため、面会制限により思うように面会できなかったとする遺族は61~82%でした。
- 特にがんでは、面会制限を避けて自宅療養を選択した割合が11%と相対的にやや高くなっていました。
死亡前1カ月間の療養生活の質
- からだの苦痛が少なかったとされた割合は37~53%であり、がんでは前回から4ポイント低下しました。
- 望んだ場所で過ごせた割合は37~60%であり、がんを含む5疾患では、前回より2~15ポイント増加しました。
調査概要
本調査は、2021年に死亡した患者の人口動態統計(死亡票)情報をもとに、以下の10の死因に該当する患者のご遺族を対象に、郵送による自記式アンケート調査実施しました。
対象死因(10疾患)
がん、心疾患、脳血管疾患、肺炎、腎不全、血管性等の認知症、アルツハイマー病、慢性閉塞性肺疾患、誤嚥性肺炎、老衰調査期間 2024年2~4月
主な調査内容
- 死亡場所で受けたケアの質
- 医療に関する希望の話し合い
- 新型コロナウイルス感染症の看取りへの影響
- 死亡前1か月間の療養生活の質
調査票は26,969名に送付され、宛先不明等による不達が5,570件でした。調査票の返送数は、回答拒否も含めて計13,352 名(62.4%)、うち有効回答数は10,890 名(50.9%)でした。
主な結果
本調査により、人生の最終段階における医療や療養生活の質について、前回(2019年調査)と比較して、医師との療養場所の話し合いや望んだ場所で過ごせた割合の増加が確認されました。一方で、がん患者における苦痛の緩和では、依然として回答割合が低い水準にとどまっていることが示されました。
調査対象となった患者の疾患や年齢等の分布は母集団と概ね同様であり、平均死亡年齢は87.5歳でした。調査に回答したご遺族は主に配偶者または子であり、性別は女性がやや多く、平均年齢は68.5歳でした。
死亡場所で受けたケアの質
医療者は患者のつらい症状にすみやかに対応していたとする回答は、全体で65~81%と比較的高い割合を示しました(図1)。一方で、がん・心疾患・脳血管疾患では2019年調査と比べて2~3ポイント減少がみられました。死亡場所での医療に対する満足度は65~81%で、がん・肺炎・腎不全では前回調査より2~5ポイントの増加がありました。
【図1 医療者はつらい症状にすみやかに対応していた割合】
医療に関する希望の話し合い
患者と医師の間で最期の療養場所について話し合いがあったとする割合は、全体で25~53%でした。前回調査と比べて8~17ポイントの増加がありました(図2)。
【図2 患者と医師間で最期の療養場所に関する話し合いがあった割合】
新型コロナウイルス感染症の看取りへの影響
入院・入所していたため、面会制限のために「思うように面会ができなかった」と回答した遺族は、全体で61~82%と高い割合を示しました。特にがんでは、面会制限を避けるために自宅療養を選択した割合11%であり、他の疾患と比べて高い割合でした(図3)。
【図3 新型コロナウイルス感染症の看取りへの影響】
死亡前1カ月間の療養生活の質
からだの苦痛が少なかったと評価された割合は全体で37~53%であり、がんでは前回調査から4ポイント低下しました(図4)。望んだ場所で過ごせた割合は37~60%で、がんを含む5疾患で前回調査より2~15ポイント増加しました。
【図4 からだの苦痛が少なく過ごせた割合】
まとめ
- 本調査は、2021年にがんを含む10の主要死因で亡くなられた患者のご遺族10,890名から回答を得て、人生の最終段階における医療と療養生活の実態を把握しました。
- 調査対象となった2021年は、新型コロナウイルス感染症の流行により、面会制限や行動制限、在宅療養の増加など、医療提供環境に大きな変化が生じた時期でした。こうした背景は、調査結果にも一定の影響を与えている可能性があり、前回調査(2017~2018年死亡)との比較にあたっては、社会的文脈を踏まえた慎重な解釈が求められます。
- 死亡場所で受けたケアについて、「医療者が患者のつらい症状にすみやかに対応していた」との回答は全体で65~81%と比較的高い水準でしたが、がん・心疾患・脳血管疾患では前回調査と比べてやや低下していました。一方、「医療に満足していた」との回答は、がん・肺炎・腎不全において前回より増加していました。
- 「患者と医師の間で最期の療養場所について話し合いがあった」との回答や、「望んだ場所で過ごせた」との評価は、いずれも前回調査より増加していました。在宅療養の選択肢が拡大したことが、これらの結果の背景にある可能性があります。
- また、「からだの苦痛が少なかった」とされたがん患者の割合は37%で、老衰(53%)と比較して相対的に低く、さらに前回調査と比べて4ポイントの低下がみられました。
- 今後は、調査の継続実施に加え、最期の過ごし方に関する話し合いの実態把握や、レセプト等の他のデータと連結した多面的な分析を進めることで、人生の最終段階における医療の質向上と政策立案への活用を図っていく予定です。
- 最後に、本調査にご協力いただいたご遺族および関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。
お問い合わせ先
本調査に関する問い合わせ先
国立研究法人国立がん研究センター がん対策研究所
遺族調査事務局 (担当:高橋/中澤)
〒104-0045 東京都中央区築地 5-1-1
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