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心臓の肉腫(しんぞうのにくしゅ)

更新日 : 2023年10月5日

公開日:2020年10月29日

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心臓にできる腫瘍

全身に発生する腫瘍について、臓器ごとの発生頻度を調べたときに、心臓から発生する頻度は0.1%以下と非常にまれではあるものの、心臓からも腫瘍が発生します。また、心臓にできる腫瘍のうち約70%は良性腫瘍で、悪性腫瘍は約30%程度と言われています。
良性腫瘍の中では粘液腫という腫瘍が最も多く良性腫瘍の50%程度で、心臓腫瘍全体の30−40%を占める割合となります。粘液腫以外の良性腫瘍には、脂肪腫、乳頭状弾性線維腫、横紋筋腫、線維腫、血管腫、奇形腫などがあります。これら良性腫瘍は、症状の有無や腫瘍塞栓のリスクに応じて手術の適応を判断します。

心臓にできる悪性腫瘍は、原発性(心臓から発生するもの)のものと転移性(他の臓器に発生した腫瘍が心臓に転移するもの)のものに分類されます。心臓原発の悪性腫瘍は、頻度の多いものとして、悪性中皮腫、悪性リンパ腫、肉腫が挙げられます。これらは切除可能な場合は切除が第一選択となりますが、完全切除できた場合でも再発するリスクが高く、化学療法や放射線治療の追加が検討されます。しかしいずれも治療成績が悪く、ベストな治療が見つかっていないのが実情です。

心臓にできる肉腫とは?

大きな概念でいうと肉腫とは、全身の骨や軟部組織(脂肪、筋肉、神経など)から発生する悪性腫瘍です。(肉腫についての説明はこちらをご参照ください)

心臓にできる肉腫自体非常にまれな疾患ですが、さらに4-50%程度が内膜肉腫、25%程度が血管肉腫、20%程度が未分化肉腫、その他滑膜肉腫、平滑筋肉腫などに分類され、その多くが血管を発生母地とします。

心臓にできる肉腫の発症年齢は、他の臓器にできる肉腫と比較して若年齢で発症し、さらに治療成績が他の臓器に発生する場合よりも悪いことが分かっています。

検査、診断、治療について

心臓にできる肉腫の主な症状として、階段昇降などの軽い運動での息切れ、動悸、顔面や上半身のむくみ(浮腫)などの症状が見られることがあります。

腫瘍の存在そのものは、心臓超音波検査やCT検査などで容易に分かりますが、腫瘍の質的診断、つまりどのタイプの腫瘍であるかは、生検または切除による病理診断で確定します。以下、心臓にできやすい肉腫の中で、内膜肉腫と血管肉腫について説明します。

内膜肉腫

内膜肉腫は心臓や肺動脈といった体の循環を司る大血管を原発とする非常にまれな疾患です。遠隔転移がない場合には外科的切除が第一選択となります。しかし多くの場合は肺動脈や大動脈などの大血管が原発であることから完全切除は困難であり、根治は難しく、標準的な治療法も未だ確立していません。また、近年の遺伝子解析の結果から、内膜肉腫では60-70%にMDM2という遺伝子の増幅がみられることがわかっています。MDM2はがん抑制遺伝子のひとつであるp53の作用を制御するたんぱく質です。MDM2遺伝子が増幅することでがん抑制遺伝子であるp53の作用が抑えられてしまい、腫瘍形成や腫瘍増殖が生じると考えられています。よってMDM2を阻害することでp53を活性化し、p53 を有するがん細胞に細胞死をもたらすことが期待されています。近年、わが国でもこのMDM2遺伝子を直接ターゲットとした阻害薬の治験が行われています。

血管肉腫

血管肉腫は、主に成人の皮膚、軟部組織、乳房、骨、肝臓、脾臓などに発生することが多い肉腫ですが、一部の血管肉腫は、下大静脈や肺動脈、大動脈に発生します。遠隔転移がなく切除可能な場合は手術が第一選択となりますが、切除困難な場合や遠隔転移を有する血管肉腫に対しては抗がん剤治療が中心となります。血管肉腫は一般的に抗がん剤が効きづらい肉腫とされていましたが、最近の研究では血管肉腫に対してパクリタキセルなどのタキサン系薬剤が有効であることが示され、血管肉腫に対してパクリタキセルは保険適用となっています。

希少がんリーフレット

 心臓の肉腫

執筆協力者

須藤 一起(すどう かずき)
  • 須藤 一起(すどう かずき)
  • 希少がんセンター
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 腫瘍内科 先端医療科
下井 辰徳(しもい たつのり)
  • 下井 辰徳(しもい たつのり)
  • 希少がんセンター
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 腫瘍内科
米盛 勧(よねもり かん)
  • 米盛 勧(よねもり かん)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 腫瘍内科 先端医療科
小島 勇貴(こじま ゆうき)
  • 小島 勇貴(こじま ゆうき)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 腫瘍内科 

 査読協力者

川井 章
  • 川井 章(かわい あきら)
  • 希少がんセンター長
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科