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公的統計を活用したわが国の健康格差分析の包括的研究

研究概要

健康格差(地域や社会経済状況の違いによる集団における健康状態の差)の縮小は公衆衛生学の重要な目的であり、わが国においても「健康日本(第二次)」で到達目標に挙げられています。その一方で、欧米と比べて比較的に社会格差が小さいとされるわが国において具体的にどのような健康格差があるのかについて研究の蓄積が乏しいのが現状です。健康格差の評価項目には社会経済的要因ごと『死亡率』や喫煙・飲酒などの『生活習慣』、健康診断・がん検診受診などの『医療・保健サービス利用』が含まれます。そこで、本研究グループでは人口動態統計や国民生活基礎調査などの公的統計の活用法を検討し、わが国の健康格差について網羅的・長期的に分析して将来の対策につなげるための包括的研究を実施しています。
これまでに国勢調査と人口動態統計のデータリンケージ(Japanese census-linked mortality databaseの開発)および国民生活基礎調査の分析により、わが国の健康格差の実態を明らかにするとともにデータリンケージにより既存の医療健康データをより深く分析するための基盤技術の開発を行っています。
【参考】
公的統計と医療ビッグデータによる健康格差の解明と健康政策への実装(科研費 研究成果トピックス)
       公的調査を活用した健康格差研究

研究内容

  • 国勢調査と人口動態統計の新たなリンケージ手法を開発し、2020年国勢調査(約1.09億人)と人口動態統計死亡票(約235万人)をリンケージした新しい死亡データベース(the 2020 Japanese census-linked mortality database)を作成した。これにより、COVID-19死亡率の社会人口学的特徴を初めて分析した。【図1】
    論文発表:
    Tanaka H, Katanoda K, Nakaya T, Kobayashi Y. Sociodemographic patterns of COVID-19 mortality: the 2020 Japanese census-linked mortality database. Lancet Reg Health West Pac. 2025;60:101609.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40933026/(外部サイトにリンクします)
    研究内容の詳細はこちら(研究トピックス)
      図1 2020年国勢調査と人口動態統計のデータリンケージ
     図1 2020年国勢調査と人口動態統計のデータリンケージ

  • 2010年国勢調査と人口動態統計の個票データリンケージにより、日本人の教育歴ごとの死因別死亡率を初めて推計した。全死因では男女ともに「大学以上卒業者」と比べて、「高校卒業者」は約1.2倍、「中学卒業者」は約1.4倍死亡率が高いことが明らかになった。【図2】
    論文発表:
    Tanaka H, Katanoda K, Togawa K, Kobayashi Y. Educational inequalities in all-cause and cause-specific mortality in Japan: national census-linked mortality data for 2010-15. Int J Epidemiol. 2024.14;53(2):dyae031. 
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38537248/(外部サイトにリンクします)
    研究内容の詳細はこちら(研究トピックス)

    図1_教育歴別年齢調整死亡率(30-79歳、2010-2015年)を表したグラフの画像
    図2 教育歴別年齢調整死亡率(30-79歳、2010-2015年)

  • 国民生活基礎調査の個票データを分析し、社会経済状況(学歴・職業・所得)とがん検診受診率、主観的健康感の関連を分析している。また、喫煙・飲酒などの生活習慣の社会格差を分析している。最新の2022年データでも「中学卒業者」や「高校卒業者」は「大学以上卒業者」に比べてがん検診受診率が低く、喫煙率が高いことが明らかになった。【図3】【図4】
    論文発表:
    Gyeltshen T, Tanaka H, Katanoda K. Trends in socioeconomic inequalities in cancer screening participation before and after the COVID-19 pandemic in Japan. Journal of Epidemiology. 2025;35(10):451-459.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40383631/(外部サイトにリンクします)

    Tanaka H, Mackenbach JP, Kobayashi Y. Widening socioeconomic inequalities in smoking in Japan, 2001-2016. J Epidemiol. 2021;31(6):369-77.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32595181/(外部サイトにリンクします)


    図3 教育歴別肺がん検診受診率(40-69歳、過去1年、2022年国民生活基礎調査)修正版

    図3 教育歴別肺がん検診受診率(40-69歳、過去1年、2022年国民生活基礎調査) 



    図4 教育歴別喫煙率(25-64歳、2022年国民生活基礎調査)
    図4 教育歴別喫煙率(25-64歳、2022年国民生活基礎調査)

  • 上記で分析した研究結果をもとに、わが国の健康格差は他の国と比べてどのような特徴があるのか国際比較研究を行っており、日本の主観的健康感の社会格差が欧米と比べて小さいことを明らかにした。
    論文発表:
    Tanaka H, Nusselder WJ, Kobayashi Y, Mackenbach JP. Socioeconomic inequalities in self-rated health in Japan, 32 European countries and the United States: an international comparative study. Scandinavian Journal of Public Health. 2023;51(8):1161-1172.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35538617/(外部サイトにリンクします)

本研究への支援

  • 科学研究費助成事業:若手研究(23K16341)
    『公的統計と医療ビッグデータを活用したわが国の健康格差分析と対策のための包括的研究』(研究代表者:田中宏和)
    https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-23K16341/(外部サイトにリンクします)
  • 科学研究費助成事業:研究活動スタート支援(21K21188)
    『わが国の健康格差と人口問題の解決に向けた公的統計データの活用法とその国際比較研究』(研究代表者:田中宏和)
    https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-21K21188/(外部サイトにリンクします)