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デスモイド腫瘍(ですもいどしゅよう)

更新日 : 2021年3月11日

公開日:2019年11月12日

デスモイド腫瘍とは?

デスモイド腫瘍(desmoid tumor)は別名デスモイド型線維腫症ともいわれる腫瘍性疾患であり、軟部腫瘍の一種として分類されます。「デスモイド」という名前の由来は、ギリシア語の”desmos”(腱のような)から来ており、筋線維芽細胞が主体である黄白色で硬い外観の腫瘍の特徴を表しています。

デスモイド腫瘍の好発年齢は15~60歳ですが、比較的若い世代に多く発生し、発生年齢のピークは40歳といわれています。また女性は男性の2~3倍の発生頻度と言われています。発生頻度は、人口100万人あたり年間2-4人程度であり、本邦では年間3~400人程度の方が新たに罹患されていると予想されます。

デスモイド腫瘍は術後の高い局所再発率が特徴的ですが、その一方で遠隔転移を起こすことはありません。したがって分類上は良性と悪性の間の「中間群」腫瘍とされています。

デスモイド腫瘍はその発生様式から、大きく2つのグループに分けられます。一つは散発性のものであり、全体の90%前後を占めています。若年成人の女性の発症が多く、全身のあらゆる部位に発生しますが、特に四肢・体幹に多く見られます。これに対し、家族性腺腫性ポリポーシス(familial adenomatous polyposis; FAP)に関連するデスモイド腫瘍は、男性が多く、比較的若い世代に発症します。発生部位は腹腔内が大半を占めます。

desmoid1.jpgまた別の分類法として、発生部位で分ける方法もあります。腹腔外デスモイドは身体のいかなる部位にも発生しますが、四肢・体幹が大半を占めます。そのほとんどが散発性であり、約10%で多発性発症を認めます。またしばしば手術創や外傷の後に発生することが知られています。これに対し、腹腔内デスモイドは大部分がFAPに関連しており、多くの場合は他の要因による画像検査で偶然見つかることが多いとされています。

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デスモイド腫瘍の症状と診断

デスモイド腫瘍の症状として、四肢・体幹などに発生した場合では腫瘤の触知の他に腫瘍の圧迫による神経障害や疼痛が出ることがあります。一方腹腔内腫瘍の場合、腹痛や腹部腫瘤、腸管穿孔などの症状を呈することもあります。また頭頸部領域に発生した場合、稀に重要臓器への浸潤や気管閉塞などを生じることで、致死的となることも報告されています。

デスモイド腫瘍の画像診断で最も有用なのはMRIです。その線維成分主体の腫瘍組成から、T1およびT2強調画像において低信号領域を広く認めることが多いですが、多くの場合内部は不均一であり、時にT2で高信号領域を認めることもあります。また腫瘍の活動度と造影効果を持つ領域の割合は相関し、薬物療法の治療効果を反映する可能性も示唆されています。また同様にFDG-PETによるFDGの集積度合いは治療効果の予測に有用であるとの報告もあります。

デスモイド腫瘍の病理診断は、他の軟部腫瘍との鑑別において重要です。通常は針生検によって病理診断が得られることが多いのですが、線維性の悪性軟部腫瘍を否定するために、場合によっては切開生検が必要となることもあります。デスモイド腫瘍は希少疾患であり、針生検の実施および病理診断に関しては、それぞれ軟部腫瘍専門医および軟部腫瘍専門病理医が行うことが望ましいと考えられます。

散発性デスモイド腫瘍の80%はβカテニン遺伝子変異を持っており、これはFAP患者における生殖細胞系列のAPC遺伝子変異とは相補排他的です。すなわち、βカテニン遺伝子変異を持っていないデスモイド腫瘍患者においては、FAP関連デスモイド腫瘍である可能性があり、大腸内視鏡などの精査が推奨されます。また、近年βカテニン遺伝子の変異型による再発率の差に関するいくつかの報告がありますが、現時点でははっきりとしたことはわかっていない状況です。今後この変異型が、薬物療法の奏効性を反映するバイオマーカーとして働くことが明らかになるかもしれません。 

デスモイド腫瘍の治療

従来デスモイド腫瘍の治療は、軟部悪性腫瘍と同様、十分な切除縁をもって広範切除を行うことが推奨されてきました。しかしながら近年いくつかの比較的大規模な後方視的観察研究の結果から、切除縁評価と術後再発率との間には有意な相関は見られないことがわかりました。さらには、約50%のデスモイド腫瘍患者においては、無治療経過観察でも腫瘍の増大は認められず、また約5−10%の患者では自然縮小することがわかりました。これらの結果をもとに、最近では無症状のデスモイド腫瘍に対しては、まず慎重に経過観察(watchful waiting, active surveillance)を行なっていくことが提案されてきています。

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腫瘍増大が認められた場合や腫瘍による圧迫症状が強い場合には、外科治療が考慮されますが、軟部悪性腫瘍のような広範切除は必ずしも必要ではなく、特に四肢や腹腔内、後腹膜発生例では、機能温存を優先させた切除縁設定が許容されます。また、発生部位ごとに再発率をみると、四肢発生腫瘍は体幹発生よりも再発率が高く、また体幹のなかでも腹壁発生は、他の部位に比べ良好な成績を示すことがわかっています。

デスモイド腫瘍に対する放射線療法の有効性に関してもいくつかの報告があり、特に切除不能進行例においては根治的治療として56Gyの放射線治療が推奨されます。また再発性腫瘍に対する手術療法と放射線療法の併用療法は、手術単独と比較し優れた局所制御率を示しています。しかしながら線維化や浮腫、病的骨折や血行障害などの重篤な放射線治療後合併症は著しいQOL低下に関与し、これに加えて二次発がんのリスクを勘案すると、デスモイド腫瘍に対する放射線治療の適応は慎重になるべきです。

慎重な経過観察後に腫瘍が増大傾向にある時、症状が強く見られる場合(神経圧迫症状による神経痛や麻痺症状など)や、発生部位により腫瘍増大が生命に関わるような場合(頸部や縦隔発生など)では、全身化学療法が考慮されます。最初には鎮痛薬(COX2選択的阻害剤)が用いられることが多いのですが、それでも効果がない場合、抗エストロゲン薬を用いたホルモン療法、もしくは抗がん剤の一種であるメトトレキサートとビンブラスチンの低容量療法が試みられます。さらに効果が見られない場合、抗がん剤であるドキソルビシン、あるいはソラフェニブやパゾパニブなどの分子標的治療薬が提案されます(なお、デスモイド腫瘍に対する抗がん剤使用は適応外となります)。

執筆協力者

川井 章
  • 川井 章(かわい あきら)
  • 希少がんセンター長 
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科
岩田 慎太郎(いわた しんたろう
  • 岩田 慎太郎(いわた しんたろう)
  • 希少がんセンター 
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科