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膵・消化管神経内分泌腫瘍

膵・消化管神経内分泌腫瘍の疫学

本邦においては膵・消化管神経内分泌腫瘍 (neuroendocrine tumor: NET)の中でも、特に膵と直腸に多く、小腸(中腸)は少ないとされますが、欧米では、消化管は小腸に多く直腸に少ないとされ、発生部位には人種差があると考えられています。

神経内分泌腫瘍の分類

膵・消化管NETは、部位や進行度だけでなく、さまざまな観点から分類され、治療方針を決めるうえで考慮されます。

1 腫瘍の発生部位による分類

NETは、部位のみでなく、発生学的な分類である前腸、中腸、後腸の3つに分けて治療方針が考慮されます。

前腸から後腸のそれぞれの臓器

前腸

肺・気管支・胃・十二指腸・膵

中腸

小腸・虫垂・結腸右半

後腸

結腸左側・直腸

 2 ステージ(進行度)の違いによる分類(TNM分類)

癌などの悪性腫瘍で一般的に用いられている分類です。
以下の3つの要素から進行度をstageI~IVに分類します。

TNM分類

  • T:腫瘍の大きさ
  • N:リンパ節への転移の有無
  • M:遠隔転移の有無

3 悪性度の違いによる分類(WHO分類)

細胞増殖に関連するKi-67指数や核分裂像の比率を用いた分類で、NETに特徴的な分類になります。Ki-67指数とは、核分裂期にある腫瘍細胞の割合のことです。

腫瘍から採取した組織を用いて、Ki67による免疫染色を行い顕微鏡で観察し、Ki67陽性細胞と陰性細胞の割合から算出します。この指数が大きいほど増殖スピードが速いことを意味します。核分裂像も同様にHE染色で、核分裂をしている細胞の個数が、20視野にいくつあるかを調べます。数字が大きいほど、増殖スピードが速いことを意味します。

膵消化管NETは2010年に、このKi67指数や核分裂像によりNET-G1,G2,NECの3つに分類されました。

膵NETについては、2017年のWHO分類にて、NECの部分が細分化され、NET-G1,G2,G3、NEC-G3の4つに分類されました。消化管NETについても2019年にWHO分類が新しくなる予定です。

膵のWHO分類2017

形態

分類/グレード

Ki-67指数

核分裂像数
(/10HPF)

特徴




PanNET G1

<3%

<2


増殖能は低く、

低から中悪性度

PanNET G2

3から20%

2から20

PanNET G3

>20%

>20




PanNEC(G3)
小細胞型

大細胞型

>20%

>20


増殖能は高く、

高悪性度

消化管のWHO分類2010

分類/グレード

Ki-67指数

核分裂像数
(/10HPF)

特徴

神経内分泌腫瘍(NET)

NET G1

≦2%

<2

高分化型
増殖能は低く、低から中悪性度

NET G2

3から20%

2から20

神経内分泌癌(NEC)
(大細胞癌

あるいは小細胞癌)

>20%

>20

低分化型
増殖能は高く、高悪性度

4 ホルモン症状の違いによる分類(TNM分類)

NETはホルモン産生症状を有する機能性(症候性)とホルモン産生症状のない非機能性(非症候性)に大別されます。これもNETに特徴的な分類になり、治療方針を決定する上でとても大切です。

機能性NET

 

主な症状

関連ホルモン

インスリノーマ

低血糖症状(冷汗、動悸、意識障害、記憶力低下、異常行動)

インスリン

ガストリノーマ

再発性消化性潰瘍、逆流性食道炎、下痢

ガストリン

グルカゴノーマ

移動性紅斑、糖尿病、体重減少、貧血

グルカゴン

VIPオーマ

水様性下痢、低カリウム血症

VIP

セロトニン産生腫瘍

皮膚潮紅、下痢、喘息、心疾患

セロトニン、アミン

 5 遺伝子疾患の有無による分類

膵・消化管NETの90%以上は孤発性に発生しますが、中には、生殖細胞系遺伝子の病的変異に伴って発生するものがあります。

頻度は5-10%と決して多くはありませんが、NETの診断を契機に発見されることもあり、NETの治療方針の決定に重要であることはもちろん、遺伝性疾患の治療も必要であり、注意が必要です。

変異する遺伝子の種類により、NETを生じうる遺伝性疾患には、さまざまなものがありますが、なかでも多発性内分泌腫瘍症1型(Multiple endocrine neoplasia type 1 : MEN1)が最も多いとされます。MEN1を有する患者さんにおける膵・消化管NETの罹病率は約60%とされます。

膵消化管NETの原因となる遺伝性腫瘍の一覧

  • 多発性内分泌腫瘍症1型
    (Multiple Endocrine Neoplasia type 1: MEN-1)
  • フォンヒッペル・リンドウ病
    (von Hippel-Lindau disease: VHL)
  • 神経線維腫症1型
    (type 1 neurofibromatosis: NF1)
  • 結節性硬化症
    (tuberous sclerosis complex: TSC)

神経内分泌腫瘍の診断

画像診断組織診断の両者が重要です。

消化管NETは、胃カメラや大腸カメラにて直接腫瘍を観察し、病変を生検することが可能です。小腸NETに対しても、近年の内視鏡診断の進歩から、カプセル内視鏡や小腸内視鏡を使って診断することが可能となりました(内視鏡検査・治療を参照)。

一方、膵NETは腹部USや超音波内視鏡(EUS)、造影CT、MRI検査などで発見されます。

インスリノーマやガストリノーマなどの機能性NETは、非常に小さくて見つかりにくいことがあり注意が必要です。組織診断は、超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)により行われます。組織診断は、NETかどうかの診断に加えて、前述のKi67指数や悪性度分類を正確に診断することも大切です。

オクトレオスキャン(ソマトスタチン受容体シンチグラフィー)

高分化NET(NETG1、G2,一部のNET-G3)はソマトスタチン受容体という、本来、神経内分泌細胞に備わっている受容体を高頻度で発現しています。その特徴を利用し、ソマトスタチンの類似物質であるペンテトレオチドに診断用の放射性同位元素であるインジウム(111In)を標識した放射性医薬品(商品名:オクトレオスキャン)を注射し、撮影を行うことで、全身のNETの存在部位がわかります。NETが疑われるものの既存の画像診断法では病巣を確認できていない場合に有効です。また、ソマトスタチン受容体の発現の有無を調べることで、ソマトスタチン受容体を用いた治療薬(ソマトスタチンアナログ製剤やPRRTなど)の

治療適応を考慮する際にも用いられます。

神経内分泌腫瘍(NETG1からG3)の治療

NETの治療には、手術、局所療法、薬物療法があります。

外科手術

NETの治療法の第一選択は手術(内視鏡切除、外科的切除)で、根治を望むことができる治療です。NETの場合は、遠隔転移を有する場合(特に肝転移)でも、外科的切除は考慮されます。また、外科切除で腫瘍を全て取り切ることが困難な場合でも、減量手術による機能性症状の緩和や予後の延長が期待できる可能性もあります。

局所療法

NETでは腫瘍が肝臓に転移することが多く、肝臓に転移した腫瘍はすべて切除できないことがあります。その場合は、カテーテルを使って肝臓のがん細胞を死滅させたり、針を用いて腫瘍を焼く、ラジオ波焼灼術などの局所療法を行います。

薬物療法

近年、膵・消化管原発の神経内分泌腫瘍を中心に新たな薬物療法が開発され日本でも使用されています。

ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチド)

元来、ソマトスタチンアナログ製剤は、機能性NETに対する症状緩和を目的として投与されていました。しかし、オクトレオチドやランレオチドには非機能性NETに対して、抗腫瘍効果を有することも臨床試験の結果、証明されました。この結果、オクトレオチドは、消化管NETに、ランレオチドは、膵消化管NETに対して保険適応となっています。

エベロリムス

エベロリムスは、NETの細胞増殖に中心的に関わるmTORを標的とした薬剤です。膵NETにおいて治療効果が認められ2011年から使用されてきましたが、肺、消化管、原発不明のNETに対してもその有効性が証明され、2016年からは、全てのNETに対して使用可能となっています。

スニチニブ

スニチニブは血管新生増殖因子受容体を特異的に阻害する薬剤です。膵NETに対し有効性が示唆されたため、2011年より膵NETに対して使用されます。

ストレプトゾシン

ストレプトゾシンはニトロウレア系に属するアルキル化剤であり、WHO分類によるNETの概念が提唱される以前に臨床試験での安全性と有効性が検証され、欧州においてはエベロリムスやスニチニブが登場する前から使用されています。日本でも2015年より膵消化管NETに対して使用されます。

放射性核種標識ペプチド療法(Peptide receptor radionuclide therapy;PRRT)

PRRTとは、NETにあるソマトスタチン受容体に親和性の高いペプチドに放射性物質(ラジオアイソトープ)を結合させた薬剤を患者さんに注射し、体中から放射線照射する治療で内用療法とも言われています。欧米で行われた臨床試験(NETTER-1)において、中腸原発のNETに対し有効性が報告されました。NETの治療法として欧米では広く行われていますが、日本では、現在、臨床試験において、その安全性、有効性を確認している段階です。

肱岡 範
  • 希少がんセンター 肝胆膵腫瘍担当 肱岡 範(ひじおか すすむ)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 肝胆膵内科