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連携大学院生インタビュー 吉松 有紀
吉松 有紀

東京大学 大学院 医学系研究科 病因・病理学専攻
現職(2022年4月から)
栃木県立がんセンター研究所 医療シーズ探索プロジェクト リーダー
国立がん研究センター研究所 希少がん研究分野 客員研究員
NCC在籍期間
2003年4月から2010年3月、2016年9月から現在2025年
指導者(役職は当時)
清野 透(ウイルス部 部長)
廣橋 説雄(総長/東京大学 連携教授)
中釜 斉(副所長/東京大学 連携教授)
(画像は、当時のIDカードの写真です)
研究所に来るきっかけ
大学の先輩方が旧・国立がんセンターで研修生としてお世話になっており、私も教授より垣添忠生先生、清野透先生をご紹介いただき、研究に参加する機会を得ました。研究所では、がん研究に真摯に取り組む研究者の姿に感銘を受け、将来はがん研究者になりたいと強く思うようになりました。
がんに立ち向かう研究者の姿勢や、臨床の先生方が患者さんのために新しい治療法や診断法を届けようとする熱意に触れ、「自分にも何かできることがあるのではないか」と感じるようになりました。その思いが、研究者としての進路を真剣に考える原動力となり、医学研究、とりわけがんの発がん機構の解明や治療開発に貢献したいという志につながっていきました。
研究所での生活
ウイルスによる発がん機構に関心があった私は、清野透先生から「子宮頸がんの発がん機構の解明」という研究テーマをいただきました。博士課程では講義を受講して単位を取得しますが、がんについて深く学びたいという思いから、さまざまな講義に積極的に参加し、がん研究の基礎を築きました。当時は本郷と築地を行き来していましたが、現在ではがんセンター内のセミナー受講でも単位取得ができるようです。研究所では、高い水準が求められるプロフェッショナル集団の一員として、昼夜を問わず努力しました。
毎週行われるジャーナルクラブや研究進捗報告会では、活発な議論が交わされていました。連携教授の廣橋説雄先生からは定期的にご指導いただき、最終学年には中釜斉先生が指導教官を引き継いでくださいました。お二人の先生からは、がん研究を俯瞰的に捉える視点の重要性をご教示いただきました。
研究所の近くには築地場外市場が、徒歩圏内には銀座や月島といった魅力的なエリアがあります。お花見の季節には屋形船で隅田川沿いの桜を楽しんだり、実験で煮詰まったときには皇居周辺をランニングしたり、銀座でショッピングを楽しんだりもしました。海外からのゲストには歌舞伎座や築地本願寺をご案内することもあり、充実した大学院生活を送ることができました。
研究所で得たこと
研究所には個性豊かな方々が集まっており、日々のディスカッションを通じて得られた知見は、その後の研究生活においてかけがえのない財産となっています。世界に先駆けて優れた研究成果を挙げたときの感動を語ってくださる先生もおられ、研究にかける情熱やその感動を共有できたことは、今でも鮮明に記憶に残っています。仮説を論理的に構築し、それを実験医学的に証明するというプロセスなど、研究の基礎となる力を研究所で培うことができました。共通機器室には最先端かつ高性能な実験機器が整備され、研究費も十分に確保されていたため、実験に専念できる環境が整っていました。
2010年にアメリカ・シアトルにあるフレッド・ハッチンソンがん研究センター(Fred Hutchinson Cancer Research Center, FHCRC)に留学しました。研究所からの推薦を受け、「平成21年度(2009年)第12回 神澤医学賞 海外留学助成金(子宮頸がん多段階発がん機構の解析)」のご支援をいただきました。FHCRCでは、2008年にヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頸がんの原因であることを発見し、ノーベル生理学・医学賞を受賞されたハラルド・ツア・ハウゼン先生と共同研究されていたデニス・ギャロウェイ博士のもとで、引き続きウイルスとがんに関する研究を行いました。その後、出産を機にワシントン大学病院(University of Washington Medical Center)のオリビア・バーミンガム・マクドノー博士の研究室に異動し、再生医療の研究を開始しましたが、ビザの関係で2016年に帰国しました。シアトルで出会った先生とは、帰国後も交流が続いています。
国立がん研究センター研究所の特長
研究所の大きな特長の一つは、国内最大級のがん専門病院である中央病院が隣接していることです。臨床に直結した研究を行う上で、臨床医との日常的な交流は非常に貴重であり、診療から生まれる臨床的な疑問や、患者さんに対する強い思いは、研究者にとって大きな刺激となります。また、新鮮な臨床検体およびそれに付随する詳細な臨床情報を研究に活用できる点も、他の研究機関にはない大きな利点です。国立がん研究センターでがん研究に携われることの意義とありがたさを実感しています。
後輩へのアドバイス
私が所属していた希少がん研究分野には、長崎大学、千葉大学、東京医科歯科大学の大学院生が在籍していました。分野長の近藤格先生は、若手研究者の育成に非常に熱心であり、論文の読み方やまとめ方といった基礎的なスキルから研究生活全般に至るまで、きめ細やかな指導をされていました。学生の皆さんはさまざまな賞を受賞し、その成果は高く評価されています。清野透先生のウイルス部でお世話になった先生方や、共に切磋琢磨した同期の仲間たちは、かけがえのない大切な存在です。女性の場合、出産や育児によりキャリア継続が難しくなることもありますが、国立がん研究センターでは、職場の理解を得ながら家庭と研究を両立されている方も多くいらっしゃいます。研究職はライフイベントに柔軟に対応しながら長く続けられる職業であり、女性にも適していると感じています。
大学院進学を検討する段階から、興味のある分野の研究室をいくつか訪問し、自分と相性の良い指導教員や研究テーマを見つけられると良いと思います。国立がん研究センターには、多くの優れた研究者が在籍しており、ライフワークとして取り組みたいと思えるテーマや、将来の自分を重ね合わせたくなるような憧れの先生と出会える機会があるはずです。
皆さんがより良い研究に取り組み、実りある研究生活を送られることを、心より願っております。
主要論文
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