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「J-PDXライブラリーの取扱い及び利用に係る倫理ポリシー」を策定

国立研究開発法人国立がん研究センター(以下、「国立がん研究センター」)は、2018年に日本医療研究開発機構(AMED)医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)「がん医療推進のための日本人がん患者由来PDXライブラリー整備事業」の採択を発端として[1]、日本人の特性を加味した効率的な新薬開発を目指したがん患者腫瘍移植モデル(以下、「PDXモデル」)を産業活用するための基盤整備を行って参りました。作成された日本人がん患者由来のPDXモデルは、J-PDX運営委員会の管理・運営のもと「J-PDXライブラリー」として樹立・保管・管理を行っております。J-PDXライブラリーでは患者さんの腫瘍組織およびPDXモデルの解析情報を、臨床情報と併せて一元管理し、抗がん薬の効果をマウスとヒトで相互比較することで、創薬研究開発への貢献を目指しています。

このたび、J-PDXライブラリーの取扱い及び利用に関して、がん研究における科学性や利便性だけでなく、倫理性をも考慮したPDXモデルの開発・利活用を促進するために、J-PDXライブラリー運営委員会ならびに日本医療研究開発機構 令和4年度医薬品等規制調和・評価研究事業「PDXモデルを用いた創薬開発研究における課題整理と標準化に関する研究」研究班が中心となって「J-PDXライブラリーの取扱い及び利用に係る倫理ポリシー」を策定しました。

 日本人における抗がん薬の創薬研究開発を推進することを目的とするJ-PDXライブラリーは、新規抗がん薬の臨床試験の対象となる進行・再発期のがん、抗がん薬の開発が進みにくい希少がんを重点的ターゲットとして、患者様からご提供いただいた生体試料からPDXモデルを作製し、そこから得られるPDX試料を詳細な臨床情報とともに格納しています。こうした詳細な臨床情報が附帯するPDX試料から成るライブラリーは、世界的に見ても大変貴重なものです。J-PDXライブラリーに収められたこれらPDX試料と臨床情報は、国内外の教育研究機関及び製薬企業等へ提供され、がんの克服を目指して、抗がん薬の開発や医学研究の発展に資する研究開発に利活用されています。国立がん研究センターでは、本ポリシーに基づき、J-PDXライブラリーに収めたPDX試料と臨床情報を倫理的に適切な方法で取り扱いながら、J-PDXライブラリーを運営していきます。

患者腫瘍移植モデル(PDXモデル)とは

PDXモデルは、患者様から摘出した腫瘍を免疫不全マウスへ直接移植することで作製される担がんモデルです。従来、抗がん薬の評価系として用いられてきたがん細胞株や、細胞株を免疫不全マウスへ移植した細胞株移植モデルに比べ、腫瘍の不均一性など患者腫瘍の特性を維持したモデルとなっています。抗がん薬の評価系としても、実際のがん患者における治療効果をより良く再現可能であり、抗がん薬の創薬開発における重要な評価系として期待されています[2,3,4]。抗がん薬の臨床開発では、がん種や組織型、遺伝子異常、治療歴などの臨床情報に基づき臨床試験を実施する対象集団を選択します[5]。このためPDXモデルの利活用にあたっては、利用するPDXモデルの情報のみならず、試料をご提供いただいた患者様の臨床情報に基づき、利用するモデルの選択や結果の解釈を行うことが重要となります。

ポリシー策定の背景

創薬開発や医学研究におけるPDXモデルの有用性に国際的にも注目が集まる中、PDX試料は実験動物を介して長期間にわたり繰り返して利用することが可能なものであることから、外部に提供されたPDX試料と臨床情報が、不特定多数の無責任な研究者や研究機関に無制限かつ無秩序に広まり、乱用されることで、ご協力くださった患者様の尊厳が毀損されかねない事態が生じることが懸念されます。また、日本国内では、個人情報の漏洩・流出事件などが相次ぐ中、個人情報の適切な取扱いと保護が社会から強く求められるようになっており、それを受けて、個人情報保護法についても改正が繰り返されて規制の強化と厳罰化が年々進んでいます。さらに近年は、バイオバンクをはじめとした、人に由来する試料・情報を収集・保管し、創薬開発や医学研究に対して広く提供していく仕組みを永続的なものとしていくうえで、社会的受容性や信頼性を担保した倫理的な在り方とそのための体制整備の重要性が国際的にも指摘されるようになっています[6]。

これらの状況に鑑み、科学性・利便性だけでなく、倫理性を考慮したPDXモデルの開発・利活用を推進するために、「J-PDXライブラリーの取扱い及び利用に係る倫理ポリシー」をこの度策定しました。

参考文献

  1. Yagishita S, Kato K, Takahashi M, Imai T, Yatabe Y, Kuwata T, et al. Characterization of the large-scale Japanese patient-derived xenograft (J-PDX) library. Cancer Sci. 2021;112(6):2454-66.(外部サイトにリンクします)
  2. Aparicio S, Hidalgo M, Kung AL. Examining the utility of patient-derived xenograft mouse models. Nat Rev Cancer. 2015;15(5):311-6.(外部サイトにリンクします)
  3. Gao H, Korn JM, Ferretti S, Monahan JE, Wang Y, Singh M, et al. High-throughput screening using patient-derived tumor xenografts to predict clinical trial drug response. Nat Med. 2015;21(11):1318-25.(外部サイトにリンクします)
  4. Hidalgo M, Amant F, Biankin AV, Budinská E, Byrne AT, Caldas C, et al. Patient-derived xenograft models: an emerging platform for translational cancer research. Cancer Discov. 2014;4(9):998-1013.(外部サイトにリンクします)
  5. Tosi D, Laghzali Y, Vinches M, Alexandre M, Homicsko K, Fasolo A, et al. Clinical Development Strategies and Outcomes in First-in-Human Trials of Monoclonal Antibodies. J Clin Oncol. 2015;33(19):2158-65.(外部サイトにリンクします)
  6. Yassin R, Lockhart N, Del Riego MG, Pitt K, Thomas JW, Weiss L, et al. Custodianship as an Ethical Framework for Biospecimen-Based Research. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2010;19(4):1012-5.(外部サイトにリンクします)

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