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骨肉腫、Ewing肉腫の個別化医療を目指したバイオマーカー開発のためのプロテオーム解析

菊田 一貴

抄録

幼小児期に好発する悪性骨腫瘍である骨肉腫、Ewing肉腫は、骨軟部腫瘍を専門とする整形外科医が治療に携わる2大原発性骨腫瘍である。これら2つの骨腫瘍は、外科的治療、放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的治療により、治療成績は向上してきた。骨肉腫では、化学療法によって生存率が劇的に改善し、Ewing肉腫では、末梢血幹細胞移植併用の強力な大量化学療法により治療成績が向上している。

しかしながら、化学療法非奏効の骨肉腫や、診断時遠隔転移を認めるEwing肉腫の症例の予後は未だ予後不良である。現在の診断技術では治療効果をあらかじめ予測することはできないため、治療抵抗性であることが後になって判明する症例であっても、画一的な治療を施行せぜるを得ないというのが臨床的な問題的となっている。分子背景をみきわめた個別化医療を可能にする技術開発が今後のさらなる治療成績向上の重要な鍵となる。

我々は、骨肉腫、Ewing肉腫の個別化医療の実現を目指し、治療前に治療効果を予測できるようなバイオマーカー開発を目的に、蛍光二次元電気泳動法によるプロテオーム解析をおこなった。使用したサンプルは切開生検によって得られた腫瘍組織であり、国立がん研究センター中央病院の症例を研究対象とした。骨肉腫では化学療法奏効性が異なる2群間、Ewing肉腫では予後が異なる2群間のタンパク質プロファイルを比較し、2群間で発現が異なるタンパク質を同定し、バイオマーカーとしての有用性を検討した。その結果、骨肉腫では化学療法奏効性を予測するタンパク質としてperoxiredoxin 2を、Ewing肉腫では予後を予測するタンパク質としてnucleophosminを見出した。これらのタンパク質のバイオマーカーとしての有用性は国立がん研究センターと慶応義塾大学病院の多施設共同研究によって実証された。

本研究で得られた結果は、多施設の検証実験を継続しつつ、民間企業と共同で実用化しようとしている。骨肉腫、Ewing肉腫の病態解明や新規治法開発への発展を目指し細胞株を用いた研究も進行している。本研究のさらなる発展が、骨肉腫、Ewing肉腫の今後の治療成績向上の一助になるよう、臨床応用を目指して研究を続けて行きたい。

関連論文

  1. Kikuta K, Tochigi N, Saito S, Shimoda T, Morioka H, Toyama Y, Hosono A, Suehara Y, Beppu Y, Kawai A, Hirohashi S, Kondo T. Peroxiredoxin 2 as a chemotherapy responsiveness biomarker candidate in osteosarcoma revealed by proteomics. Proteomics Clin Appl. 2010;4(5):560-7. [PubMed](外部リンク)
  2. Kikuta K, Tochigi N, Shimoda T, Yabe H, Morioka H, Toyama Y, Hosono A, Beppu Y, Kawai A, Hirohashi S, Kondo T. Nucleophosmin as a candidate prognostic biomarker of Ewing's sarcoma revealed by proteomics. Clin Cancer Res. 2009;15(8):2885-94. [PubMed](外部リンク)