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診断のためのバイオマーカーの開発

希少がんは発生頻度によって定義される疾患概念であり、組織学的に多種多様な悪性腫瘍が含まれます。個々の希少ながんの症例数は少ないですが、すべてを合計するとかなりの数になります。具体的には、本邦では、新規にがんに罹患する方の約15%が希少がんと診断されています[PubMed](外部リンク)。一方、個々の希少ながんは患者さんの数が少ないことから、他の悪性腫瘍に比べてさまざまな医療・受療上の課題が存在します。そして、個々の希少ながんは独自の分子背景が存在するため、それぞれに固有の臨床的な課題が存在します。 我々は、臨床的な課題を基礎研究の技術や成果で解決することを目指しています。

希少がん研究分野で現在取り組んでいる、あるいはこれから行おうとしている研究テーマをご紹介します。

診断のためのバイオマーカー開発

肉腫の浸潤性を評価するためのバイオマーカー開発

肉腫の悪性度や浸潤の範囲を正確に評価することは、外科的切除において重要です。たとえば、中高齢者に好発する代表的な軟部肉腫である粘液線維肉腫は、 浸潤性性格を有し、外科的切除後の高い再発率が臨床的に問題となっています。粘液線維肉腫の根治のためには、腫瘍の浸潤範囲を正確に決定し、完全に腫瘍を取り除く外科的切除が必要です。しかしながら、今のところ、粘液線維肉腫の浸潤性や腫瘍の浸潤範囲を正確に評価するための有効な診断技術が存在しないのが実情です。粘液線維肉腫の治療成績を向上するためには、腫瘍の浸潤性性格を反映するような特徴的な遺伝子を見出し、組織学的バイオマーカーとしての新しい診断技術の開発が求められています。

希少がん研究分野では、臨床検体を用いたプロテオーム解析によって、粘液線維肉腫の浸潤性に関わる特徴的なタンパク質を多数特定しました。このうちのDiscoidin, CUB and LCCL domain-containing protein 2 (DCBLD2) については免疫染色によって粘液線維肉腫の浸潤性を強く反映し、腫瘍浸潤範囲を明確に区別できることを見出しました[PubMed](外部リンク)。DCBLD2は治療標的の候補になりうる機能を有しており、創薬標的としての可能性を検討中です。
DCBLD2.png

肉腫の診断のためのバイオマーカー開発

肉腫は組織型によって治療方針が異なる場合があることから、正確な診断が求められています。肉腫の組織型は歴史的に形態学を基本として決定されてきました。分子生物学的研究が進み、近年では組織型の鑑別診断に遺伝子情報が活用されるようになってきたものの、分子背景は依然として謎であり、正確な診断のために一層の研究が求められています。

希少がん研究分野では、臨床検体(手術検体、血液検体)を用いた網羅的な解析を行い、肉腫のそれぞれの組織型に特有のプロファイル(変異、RNAおよびタンパク質発現パターン)を決定しようとしています。我々は初期のプロテオーム解析から、そのようなプロファイルが存在することを見出しています[PubMed](外部リンク)。今までの研究をゲノム、トランスクリプトームのレベルでも行い、また、メタ解析の結果も統合し、病理診断の補助となるバイオマーカーを同定しようとしています。