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RSウイルス感染症について

RSウイルスとは?

RSウイルス(respiratory syncytial virus)は呼吸器感染症を引き起こすウイルスで、2歳までにほぼ100%の子供が少なくとも1度は感染するとされています。症状は発熱、鼻汁など軽い風邪様の症状から重い肺炎まで様々です。若い健康成人の場合重症化することは稀ですが、高齢者では注意が必要です。

 

参考:RSウイルス感染症による入院患者における年齢別死亡リスク米国のデータ(外部サイトにリンクします

年齢 死亡率 50-59歳を比較対象とした
死亡のリスク(オッズ比)
50-59歳 3%  
60-64歳 5.3% 1.8
66-74歳 6.4% 2.21
75-84歳 9% 3.19
85歳以上 11.7% 4.28

注:オッズ比:高齢者がRSウイルス感染症への感染後に死亡する確率を、生存する確率で割った値をオッズと呼びます。このオッズ(高齢者がRSウイルス感染症後の死亡オッズ)を50-59歳のRSウイルス感染症後の死亡オッズで割った値がオッズ比です。両者のオッズが同じ場合オッズ比が1となります。高齢者の死亡オッズの方が高い場合にオッズ比は1を超えます。

 

 がん患者さんは特に危険!

がん患者さんの様に体の抵抗力が弱っている場合、RSウイルス感染症が肺炎を合併し重症化するリスクが高くなります。米国での大規模データ研究では、がん患者さんがRSウイルス感染症にかかった場合、がんでない患者さんと比較して死亡のリスクが高いことが報告されています(オッズ比2.48)。平均年齢60歳166人のRSウイルス感染症にかかった血液がん患者さんについて調べたドイツの研究では、半数以上の患者さんは肺炎を合併し、22%の患者さんがRSウイルス感染症のために集中治療室に入院していたことを報告しています。スペインでの60歳以上を対象とした研究では、RSウイルス感染症に罹患した際の入院のリスクは、基礎疾患の中で血液がんが最も高い(3.78倍)ことが報告されています。

 

参考文献



予防が重要

インフルエンザや新型コロナウイルス感染症と異なり、現在国内で承認された抗ウイルス薬はありません。このため、特に予防が重要となります。

日々の手洗い、うがいが重要となります。RSウイルス感染症は冬の流行が中心でしたが、2021年には夏にも流行がみられました。他にも、夏場でもインフルエンザと診断される場合や、夏場に流行するウイルス(新型コロナやパラインフルエンザウイルスなど)もありますので、一年中、手洗いやうがいをしっかりと行う必要があります。また、体調のすぐれない人との接触もなるべく避けましょう。

 

RSウイルスワクチンについて

ワクチンの効果

2023年以降2種類のRSウイルスワクチンが国内で使用されています。いずれも60歳以上の成人への適応を有していますが、それに加えて、グラクソ・スミスクライン株式会社のワクチンは50歳以上の「RSウイルスによる感染症が重症化するリスクが高いと考えられる者」への適応を有し、ファイザー株式会社のワクチンは「妊婦」への適応を有しています。

がん患者さんを対象としたワクチンの大規模臨床試験は行われていませんが、60歳以上の成人を対象とした臨床研究では接種から2年目までの感染予防のワクチン効果注1は75-85%と報告されています。60歳以上の重症化リスクを有する成人において、肺炎へのワクチン効果が90%以上であったとの報告もあります。

また、米国での60歳以上(年齢中央値75.9歳)の成人14.6万人へのワクチン接種後3-6ヵ月間の感染予防効果が78.1%との報告があり、うち1.5万人の免疫不全患者さんでは71.6%の効果だったとの報告もあります。

同様に米国での60歳以上(年齢中央値74歳)のRSウイルス検査を受けた78万人のデータ解析では、ワクチン効果が75.1%(免疫不全患者さん:60-74歳67.0%、75歳以上73.1%)と報告されています。この研究では、ワクチンを接種した患者さんで頻度は低いものの、ギランバレー症候群注2が増加したことが報告されています。(グラクソ・スミスクライン株式会社のワクチンで5.2件/100万回接種、ファイザー株式会社のワクチンで18.2件/100万回)

2025年4月末現在、米国では75歳以上の成人の47.5%、60-74歳のRSウイルス感染症が重症化するリスクが高い成人の38.1%が接種をしていると報告されています。

(モデルナ・ジャパン株式会社のmRNAワクチンも国内承認されていますが、2025年8月時点では流通していません。)

注1:ワクチン効果:ワクチン未接種のがん患者さん1万人が研究期間中に100人RSウイルス感染症を発症し、ワクチンを接種したがん患者さんでは1万人中20人発症した場合のワクチン効果は80%となります。(100人発症するところ、80人の発症を予防したという意味。)

注2:ギランバレー症候群:手足の神経が炎症を起こし、筋力低下やしびれなどの感覚障害をおこす疾患です。

 

参考文献

  1.  Melgar Mらの報告( MMWR Morb Mortal Wkly Rep.2023)(外部サイトにリンクします)
  2. Feldman RGらの報告(Clin Infect Dis. 2024)(外部サイトにリンクします)
  3. Bajema KLらの報告(Lancet Infect Dis. 2025)(外部サイトにリンクします)
  4. 米国CDCの報告(外部サイトにリンクします。)

 

ワクチンの副反応

がん患者さんは健康な人よりもワクチンの副反応(副作用)が多くなるという心配はなく、ワクチン接種によるがんの増悪、重篤な副反応の増加もないとされています。もし何らかのアレルギーがあるようでしたら、接種時に必ず申告してください。

ワクチンを接種することによってワクチン由来のRSウイルス感染症にかかる危険性はありません。しかし上記の通りワクチン効果は100%ではないので、ワクチン接種後でもRSウイルス感染症にかかる可能性はありますのでご注意ください。

更新日:2025年10月31日