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せん妄に関する研究

診療におけるせん妄について

高齢者の診療が増えるにつれ、せん妄の問題がどの施設でも課題になりつつあります。せん妄は、死亡率や合併症の増加に加え、退院後の死亡率の上昇や再入院にも関連します。せん妄への対策は、単なる不穏への対応だけではなく、一般・急性期病院のケアの質にも直結する課題です。

従来、せん妄対策と言えば、転倒・転落を防ぐための環境整備であったり、興奮を鎮めるための声かけであったり、「せん妄になってしまった後の問題行動への対処」が中心でした。また、見当識をつけるために、時計やカレンダーを置いても、せん妄自体の症状の改善というよりも対症療法的な関わりに留まっていたこともあります。「せん妄になったらどうしようもないし、ましてや防ぎようもない」と思われがちでした。

しかし、せん妄への対応はこの数年で大きく変わりつつあります。特に、予防的なケアをすることにより、内科・外科を問わずせん妄の発症率を下げるとともに、転倒・転落を減らすこともできることが示されつつあります。今までの「せん妄になったらどうしようもない」から、「せん妄は適切なアセスメントとケアをチームで提供することにより、予防できる」ことが見えてきました。

せん妄に関する研究について

精神腫瘍学開発分野では、せん妄に関する研究として下記の研究に取り組んでいます。

  • 「がん治療中のせん妄の発症予防を目指した多職種せん妄対応プログラムの開発」:DELTAプログラム
  • 「抗がん治療中のせん妄の発症と重症化の予防に対する通常ケアと多職種せん妄初期対応プログラムとの多施設クラスターランダム化比較試験」(平成28年度から30年度日本医療研究開発機構研究費・令和元から3年度日本医療研究開発機構研究費)

「がん治療中のせん妄の発症予防を目指した多職種せん妄対応プログラムの開発」:DELTA(DELirium Team Approach)プログラム

DELTAプログラム開発の経緯

わが国においても、せん妄に対して様々な取り組みがなされてきました。たとえば、知識や経験のあるスタッフから病棟スタッフに対して講義をしたり、病棟にリンクナースを配置したりするなどの試みはなされてきましたが、主な取り組みは環境整備が中心で、せん妄の原因となる身体的な要因を減らすことを目指した取り組みや、せん妄を予防することを意識した取り組みは残念ながらありませんでした。

また、海外で開発された介入プログラムをわが国の臨床に導入する試みもありましたが、医療職の配置数の違いや多数のボランティアを動員する必要があり、わが国の一般的な病棟では、そのまま導入することは現実的ではありませんでした。

そこで精神腫瘍学開発分野では、医療者の配置が少ない医療体制でもできるせん妄対策はどのようなものか、を考えることから始めました。まず病棟のスタッフがせん妄をケアするうえで、どのような対応をして、どのような困難を感じているのかをインタビューで確認し2つの課題を明らかにしました。

個人レベルでの課題

  • “せん妄”の症状を観察・評価でき、自信をもってせん妄と判断する
  • 判断から具体的な次の行動をとることができる

チームレベルでの課題

  • “せん妄”を見る目線を揃えて情報を共有する

DELTAプログラムの目的

これらの課題に対して、どのようにすれば臨床現場の行動を変えることができるのかを看護のエキスパートと行動科学の専門家とともに話し合い、具体的な行動に自然とつなげることを目指して次のような工夫を凝らしました。

  1. せん妄発見の手がかりになる場面を出して、具体的な行動を観察・評価することを体験する。
  2. せん妄を見つけたところから具体的な対応までの流れをシート1枚に「見える化」し、シートを見れば次に何をすればよいかがそのままつかめるようにする。

上記のような工夫を加えた、せん妄の発見と対処を行うための対策がDELTAプログラムです。

DELTAプログラムの概要

DELTAプログラムは看護師教育を目的とした「教育プログラム」と、実際に入院患者に多職種で対応する「運用プログラム」の2つのプログラムからなります。

図:DELTAプログラムの構成

DELTAプログラム構成図2

DELTAプログラム :教育プログラム

教育プログラムは講義と動画を用いたトレーニング、ロールプレイを用いてせん妄対応を学習するプログラムです。1回のプログラムは90分で行います。

教育プログラムでは看護師がせん妄を早期発見し対応を行うことができることの他に、予防的ケアの理解実践やせん妄患者へのケアの理解実践ができることを目標としています。

講義では“せん妄の概要”、 “せん妄のアセスメント方法”、 “せん妄ハイリスク患者・せん妄患者への具体的な対応方法”について説明を行います。特に、具体的な対応方法のポイントとして実際に使用される抗精神病薬の特徴や使用方法のみではなく、日常に看護師が行うことができる脱水予防や環境調整などの具体的なケア内容も説明が行われています。

図:講義内容の例(STEP1:せん妄のリスク評価と対応、STEP2:せん妄症状のチェック、STEP3:せん妄対応)

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資料は下記せん妄アセスメントシートをご覧ください。

DELTAプログラム :運用プログラム

運用プログラムでは看護師に必要な対応の流れを1枚のアセスメントシートにまとめて、いつでも閲覧できるようにしています。入院時から全入院患者を対象にスクリーニングを行い、ハイリスクやせん妄症状があると判断されると個別の看護計画を立て、情報を多職種と共有し薬剤の調整や対応方法について相談を行います。入院中、看護師は定期的(およそ週1回)にケア方法の見直しや新たにリスク要因が出現していないかを再評価を行ってモニタリングを行っています。

せん妄アセスメントシート(2017年02月27日版)

注:教育のため自由にご利用いただいて構いませんが、再配布、ネット上への転載はご遠慮ください。お問い合わせは精神腫瘍学開発分野までお願いいたします。

せん妄アセスメントシート(547KB)

「抗がん治療中のせん妄の発症と重症化の予防に対する通常ケアと多職種せん妄初期対応プログラムとの多施設クラスターランダム化比較試験」

概要・目的

抗がん治療中のせん妄の発症と重症化の予防に対し、せん妄の非薬物療法による多職種せん妄初期対応プログラム(DELirium Team Approach-program;DELTA program)を行うことで、通常のせん妄ケアと比して、医療安全上の事象の発生割合が低下するか否かを、多施設クラスターランダム化比較試験にて検証することを目的としています。

図:研究の流れ

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