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日本のがん診療における高齢者機能評価実装の阻害・促進要因について、実装研究フレームワークを用いたインタビュー調査

更新日 : 2024年2月6日

背景

高齢者機能評価(GA)は、高齢者の身体的、精神的、心理社会的な問題を多面的に評価する老年医学の手法です。日常診療で見逃されていた問題の発見、治療方針の決定に有用であり、国内外のガイドラインで推奨されていますが、日本のがん診療では普及していません。今回私たちは、実装研究のための統合フレームワーク(Consolidated Framework for Implementation ResearchCFIRを用いて、日本のがん診療でのGA実装の阻害・促進要因のインタビュー調査を行いました。 

 

方法

2020年7月から9月の期間に、がん診療拠点病院10施設に勤務する医師、看護師、管理者等16名を対象に、CFIRに基づいた半構造化インタビューを行いました。コーディング結果に基づいて、GA実装への正または負の影響と強さに関してCFIRのコンストラクトをランク付けし、GAを日常診療で実施している施設(HI)と実施できていない施設(LI)で比較しました。 

 

結果

本研究で評価したCFIRの5ドメイン24コンストラクトのうち、HIとLIで15のコンストラクトが大きく異なりました。HIでは、GAは自己記入式(介入の特性:適応性)を採用したり、モバイル端末上のアプリを使用(介入の特性:デザインの質とパッケージ)するなどの工夫をしていましたHIでは、医療従事者は日常の高齢がん診療に対して大きな問題があると感じており(内的セッティング:変化への切迫感)、GAは日常のワークフローに適合していると感じている(内的セッティング適合性)一方で、LIでは日常診療に問題を感じておらず、GAが余分な仕事とみなされていました。HIではGAの有用性が医療従事者の間で広く認識されており(個人特性:介入に対する知識と信念)、GAの院内での優先度が高く(内的セッティング:相対的優先度)、病院幹部、マネージャー、看護師長から強いサポートを得て(内的セッティングリーダーの巻き込み)、看護師、医師、チャンピオンなど、様々なステークホルダーが巻き込まれていました(プロセス:エンゲージング)。 

 

結論

本調査では、GAの実装のためには、個人のGAの有用性の認識や、GAを簡便に実施するための工夫だけではなく、院内でのGAの優先度や様々なステークホルダーの巻き込みなど、組織要因への取り組みが必要であることが示唆されました。 

発表論文

Matsuoka A, Mizutani T, Kaji Y, Yaguchi-Saito A, Odawara M, Saito J, Fujimori M, Uchitomi Y, Shimazu T. Barriers and facilitators to implementing geriatric assessment in daily oncology practice in Japan: A qualitative study using an implementation framework. J Geriatr Oncol. 2023;14(8):101625. doi:10.1016/j.jgo.2023.101625. 

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図1.本研究で同定された高齢者機能評価実装の阻害・促進要因