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キーワード:リキッドバイオプシー,新薬開発リキッドバイオプシーを用いたトランスレーショナル研究で新薬開発を加速させる

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リキッドバイオプシーとは

血液等の体液を用いるリキッドバイオプシーは、低侵襲かつ経時的モニタリングが可能な次世代のがん病態解析法であり、その技術の早急な確立が望まれています。リキッドバイオプシーの測定対象は、血漿に含まれるcell-free DNA/RNA (cfDNA/RNA)、血球成分に存在する循環がん細胞 (circulating tumor cells, CTC)、エキソソームに存在するタンパク質や核酸等があります。現在臨床応用されているリキッドバイオプシー検査は分子診断に基づいた治療法の選択に利用されていますが、潜在的用途は多岐に渡り、手術後の微小残存病変の測定、治療効果のモニタリング、がんの早期診断、治療抵抗性の機序解明などが挙げられます。特に近年ではがんの早期診断への応用が期待されており、感度向上のために様々なモダリティを組み合わせた統合解析が注目されています。

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ctDNA解析を用いた創薬開発

これまでに私共の研究室では組織検体を用いる遺伝子パネル検査である東大オンコパネルの開発を行ってきましたが、リキッドバイオプシー検査としてし、東大オンコパネルリキッド (TOP-L)を構築しました。TOP-LのDNAパネルは737遺伝子を対象とし、白血球とペア解析することで生殖細胞系列バリアントとクローン性造血による変異を区別できること、分子バーコードを用いることで低いアレル頻度の変異を同定できることが特徴です。更に、比較的ターゲット領域が広範囲であるため、TMB/MSI(遺伝子変異量/マイクロサテライト不安定性)の解析が可能であると期待されています。また、TOP-LはRNAパネルによる高精度の融合遺伝子同定と1390遺伝子の発現量解析を目指して開発を進めています。

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リキッドバイオプシーは経時的な分子プロファイリングが可能であるため、新薬開発における耐性化機序の解明に有用な解析ツールにもなります。国立がん研究センター中央病院にてがん化やがん細胞の増殖に関連するMDM2遺伝子の増幅を有する内膜肉腫の患者さんに対してMDM2阻害剤 (ミラデメタン)の有効性を評価する第1b/2相医師主導治験が実施されました。10人中2人 (20%)の患者さんに、腫瘍の30%以上の奏効が認められ、内膜肉腫に対してMDM2阻害剤が有効である可能性が示されました。また、同時に治療前、2サイクル目開始時、病勢進行時に血中cfDNA解析を行うことでMDM2阻害剤の耐性化にTP53遺伝子変異が関連することを明らかにしました。

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本研究によって、MDM2阻害剤であるミラデメタンがMDM2増幅を有する内膜肉腫の患者さんに有効である可能性が示唆され、今後さらなる評価が行われていくことが期待されます。またMDM2阻害剤で治療中に順次血中ctDNA解析をし、TP53変異のモニタリングを行うことで、病勢を評価できる可能性があります。

このように国立がん研究センターでは、腫瘍組織や血液検体を経時的に採取・解析することで、抗がん剤の効果をみるだけでなく、効果予測のマーカーや効果を減弱する原因 (耐性) を見出すTR (トランスレーショナル・リサーチ) を推進する体制が築地キャンパス内の中央病院と研究所の連携によって確立されつつあり、私共の研究室も今後より一層、病院各科との連携を強め、新薬開発に向けてさらに研究を加速させることに貢献していきます。

プレスリリース

標準治療のない超希少がん内膜肉腫でのMDM2阻害剤の有効性を確認 MDM2阻害剤耐性に関連する遺伝子異常も同時に報告(2023年7月13日)
全ゲノム解析によってスキルス胃がんの治療標的を同定 難治性がんに対する新たな治療法開発の可能性(2021年8月17日)

研究者について

細胞情報学分野 分野長 高阪 真路

キーワード

リキッドバイオプシー,東大オンコパネル,トランスレーショナル研究,新薬開発