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分子腫瘍学分野
- 2024年9月20日
- 当研究室が大塚製薬と共同開発した国内初の造血器腫瘍遺伝子パネル検査「ヘムサイト®」の製造販売が承認されました
- 2024年9月10日
- 任意研修生 堀江沙良が慶應義塾大学医学部第一回若手研究者リトリート 優秀口演発表賞を受賞
- 2024年6月28日
- 任意研修生 伊藤勇太が第63回(2023年度)日本リンパ網内系学会総会 学術奨励賞を受賞
- 2024年4月24日
- 任意研修生 伊藤勇太らによる論文がCancer Researchに掲載されました(外部サイトにリンクします)
- 2024年4月13日
- 任意研修生 堀江沙良が6NCリトリート2024 ポスターセッション理事長賞を受賞
研究活動
1. 次世代シーケンス技術を利用したがんの遺伝子解析
近年、次世代シーケンス技術の発達により、様々な悪性腫瘍において遺伝子異常の全体像が明らかとなってきました。そのような流れの中で、我々は成熟リンパ系腫瘍を中心として網羅的な遺伝子解析に取り組んでいます。特に、成人T細胞白血病リンパ腫では、全エクソン解析やRNAシーケンスなどの包括的な解析により世界に先駆けて遺伝子異常の全体像を解明し、その臨床的な意義を明らかにしてきました(Kataoka K, Nat Genet, 2015; Kataoka K, Blood, 2018)。また、全ゲノム解析により構造異常や非コード領域変異も解析し、PD-L1ゲノム異常などの新規異常を同定しました(Kataoka K, Nature, 2016; Kogure Y, Blood, 2022)。さらに、末梢性T細胞リンパ腫-非特定型や節外性NK/T細胞リンパ腫の遺伝子解析を行い、T/NK細胞腫瘍における遺伝子異常の類似点や相違点を解明しました(Watatani Y, Leukemia, 2019; Ito Y, Cancer Res, 2024)。また、B細胞リンパ腫や多発性骨髄腫などの造血器腫瘍に加えて(Kataoka K, Leukemia, 2019; Kogure Y, Blood, 2024)、固形がんも含む様々な悪性腫瘍の遺伝解析研究を実施しています(Tabata M, Cell Rep, 2023)。
2. 遺伝子改変マウスモデルやCRISPRスクリーニングを用いた悪性リンパ腫の分子病態の解明
我々が明らかにした遺伝子異常を再現する動物モデルを開発し、悪性リンパ腫の分子病態の解明やバイオマーカーや創薬標的の同定に取り組んでいます。これまでに成人T細胞白血病リンパ腫で高頻度に認められるCICのアイソフォーム特異的な機能喪失型変異(Kogure Y, Blood, 2022)や節外性NK/T細胞リンパ腫で特徴的なX染色体上のドライバー異常で最も高頻度であるMSN変異・欠失(Ito Y, Cancer Res, 2024)を再現するマウスを作成し、その生体内における役割を解析してきました。最近では、動物モデルを用いて、後述する単一細胞解析で認められた新規分画・分子異常などの役割も検討しています。一方、このような遺伝子改変マウスでは多くの遺伝子異常を同時に検証するのは困難であるため、生体内CRISPRスクリーニング法を開発し、腫瘍発症に寄与する遺伝子異常を高効率に検証しています。
3. 免疫回避に関わるPD-L1/PD-L2ゲノム異常の同定とバイオマーカーとしての検討
成人T細胞白血病リンパ腫におけるPD-L1ゲノム異常の発見に基づいて全がん解析を行い、同異常が様々な悪性腫瘍に存在し、がん免疫からの回避に関与することを明らかにしました(Kataoka K, Nature, 2016; Kataoka K, Leukemia, 2019)。さらに、PD-L1ゲノム異常はウイルス関連リンパ腫に多い一方で、PD-L2ゲノム異常がB細胞リンパ腫に特異的に存在することを明らかにしました(Kataoka K, Leukemia, 2019)。さらに、CRISPRスクリーニングを用いてPD-L2の発現制御機構を解明し、B細胞リンパ腫特異的な転写開始点を同定しました(Shingaki S, Leukemia, 2022)。また、臨床試験の附随研究として、節外性NK/T細胞リンパ腫などにおいて、PD-L1ゲノム異常が免疫チェックポイント阻害剤のバイオマーカーとしての有用であるか検討しています。
4. 単一細胞マルチオミクス解析技術を用いた腫瘍の不均一性と微小環境の解明
トランスクリプトームや100を超える細胞表面マーカー、T/B細胞受容体レパトアを単一細胞から同時測定可能な単一細胞マルチオミクス解析を用いて、悪性リンパ腫を中心に腫瘍の不均一性や微小環境の解明に取り組んでいます。特に、成人T細胞白血病リンパ腫では、HTLV-1による前腫瘍状態からの多段階発がん機構や微小環境の変化について明らかにしました(Koya J, Blood Cancer Discov, 2021)。最近では、ヒト検体における多細胞エコシステム解明に加えて、マウスリンパ腫モデルの病態解明(Shingaki S, Leukemia, 2022)や造血幹細胞移植後検体の免疫再構築の解析などに単一細胞解析を応用しています。
5. がん種横断的解析による新規の遺伝学的発がん機構の解明
前述の個別疾患における着想・発見を基盤として、様々ながん種由来の多数例のオミクスデータを統合的に扱うがん種横断的解析により新規の遺伝学的発がん機構の同定とその生物学的・臨床的意義の解明を目指しています。前述のPD-L1ゲノム異常(Kataoka K, Nature, 2016)に加えて、「がん遺伝子における複数変異」(Saito Y, Koya J, Nature, 2020)や「エピゲノム制御因子のドライバー変異の共存」(Horie S, Saito Y, Cancer Discov, 2024)という新たなメカニズムを同定し、その遺伝学的特徴や生物学的・臨床的意義を解明しました。さらに、がん種横断的解析を進めて、トランスクリプトームと体細胞異常の関係(McClure MB, Cancer Res Commun, 2023)や、生殖細胞系列のがん発症リスクが体細胞異常に与える影響(Namba S, Saito Y, Cancer Res, 2023)について網羅的に解明しました。
6. 遺伝子異常の臨床応用と個別化医療への展開
臨床試験・治験と連携して、診断、分子分類および予後予測における遺伝子異常の意義の確立に取り組んでいます。後方視的に患者予後と遺伝子異常の関連を評価するのみならず、JCOG臨床試験や企業治験の附随研究として、より質の高いエビデンスの創出を目指しています。最近では、再発・難治多発性骨髄腫における循環腫瘍DNA(ctDNA)変異の予後予測能について明らかにしました(Kogure Y, Blood, 2024)。さらに、遺伝子解析で得られた知見を個別化医療へ応用するために、大塚製薬株式会社にと共同で造血器腫瘍遺伝子パネル検査を開発し、前向き臨床試験にて検証しています(Fukuhara S, Oshikawa-Kumade Y, Kogure Y, Cancer Sci, 2022)。
主要文献
- Ito Y, et al. Comprehensive genetic profiling reveals frequent alterations of driver genes on the X chromosome in extranodal NK/T-cell lymphoma. Cancer Res. 2024. Epub ahead of print. [38657099]
- Kogure Y, et al. ctDNA improves prognostic prediction in relapsed/refractory MM receiving ixazomib, lenalidomide, and dexamethasone. Blood. 143(23):2401-2413, 2024. [38427753]
- Horie S, Saito Y (co-first/co-corresponding), et al. Pan-cancer comparative and integrative analyses of driver alterations using Japanese and international genomic databases. Cancer Discov. 14(5):786-803, 2024 [38276885]
- Tabata M, Sato Y, Kogure Y, et al. Inter- and intra-tumor heterogeneity of genetic and immune profiles in inherited renal cell carcinoma. Cell Rep. 42(7):112736, 2023 [37405915]
- McClure MB, et al. Landscape of Genetic Alterations Underlying Hallmark Signature Changes in Cancer Reveals TP53 Aneuploidy-driven Metabolic Reprogramming. Cancer Res Commun. 3(2):281-296, 2023. [36860655]
- Shingaki S, Koya J (co-first), Yuasa M (co-first), et al. Tumor-promoting function and regulatory landscape of PD-L2 in B-cell lymphoma. Leukemia. 37:492-496, 2023. [36522456]
- Namba S, Saito Y (co-first), et al. Common germline risk variants impact somatic alterations and clinical features across cancers. Cancer Res, 83(1):20-27, 2022 [36286845]
- Fukuhara S, Oshikawa-Kumade Y (co-first), Kogure Y (co-first), et al. Feasibility and clinical utility of comprehensive genomic profiling of hematological malignancies. Cancer Sci, 113:2763-2777, 2022. [35579198]
- Kogure Y, Koya J (co-first), et al. Whole-genome landscape of adult T-cell leukemia/lymphoma. Blood. 139(7):967-982, 2022. [34695199]
- Koya J, Saito Y (co-first), et al. Single-cell analysis of the multicellular ecosystem in viral carcinogenesis by HTLV-1. Blood Cancer Discov. 2:450-467, 2021. [34661162]
- Saito Y, Koya J (co-first), Araki M, et al. Landscape and function of multiple mutations within individual oncogenes. Nature. 582:95-99, 2020 [32494066]
- Kataoka K, Miyoshi H, Sakata S, et al. Frequent structural variations involving programmed death ligands in Epstein-Barr virus-associated lymphomas. Leukemia, 33:1687-1699, 2019 [30683910]
- Kataoka K, Iwanaga M, Yasunaga J, et al. Prognostic relevance of integrated genetic profiling in adult T-cell leukemia/lymphoma. Blood. 131:215-225, 2018 [29084771].
- Takeda Y, Kataoka K (co-first), Yamagishi J, et al. A TLR3-Specific Adjuvant Relieves Innate Resistance to PD-L1 Blockade without Cytokine Toxicity in Tumor Vaccine Immunotherapy. Cell Rep, 19:1874-1887, 2017 [28564605]
- Koya J, Kataoka K, Sato T, et al. DNMT3A R882 mutants interact with polycomb proteins to block haematopoietic stem and leukaemic cell differentiation. Nat Commun, 7:10924, 2016 [27010239]
- Kataoka K, Shiraishi Y, Takeda Y, et al. Aberrant PD-L1 expression through 3'-UTR disruption in multiple cancers. Nature, 534:402-406, 2016 [27281199]
- Kataoka K, Nagata Y, Kitanaka A, et al. Integrated molecular analysis of adult T cell leukemia/lymphoma. Nat Genet, 47:1304-1315, 2015 [26437031]
- Kataoka K, Sato T, Yoshimi A, et al. Evi1 is essential for hematopoietic stem cell self-renewal, and its expression marks hematopoietic cells with long-term multilineage repopulating activity. J Exp Med, 28:2403-2416, 2011 [22084405]
当分野の研究プロジェクトに興味をお持ちの方へ
最近、日本でも臨床シーケンスを導入した「がんゲノム医療」が推進されつつあり、遺伝子異常やシーケンス技術に対する理解が臨床現場でも求められるようになってきています。分子腫瘍学分野では、分子生物学手法や動物モデルを用いた生物学的研究や、バイオインフォマティクスを駆使したゲノム解析などに興味がある基礎研究者(を目指す方)から、臨床シーケンスなどの橋渡し研究などに興味がある臨床医まで、幅広く人材を求めております。特に、当分野の研究プロジェクトに興味を持ち、がんゲノム異常の最新の知見や最先端の遺伝子解析技術を一緒に学びながら、積極的に研究に取り組んでいただける方を募集しています。リサーチレジデント(外部リンク)、ポスドク・研修生・外来研究員の応募をご希望の大学生・大学院生・臨床医の方は、遠慮なく片岡(kekataok●ncc.go.jp)までお問い合わせください。連携大学院(社会人の方も可)で医学博士などの学位を取得することも可能です。研究室の見学や相談も随時受け付けています。
共同研究の募集
分子腫瘍学分野では、臨床検体を用いたゲノム解析研究(症例報告から大規模な遺伝子解析研究まで)や、遺伝子解析を含む橋渡し研究、基礎研究(マウス実験等)における遺伝子解析の補助など、がんに関係する研究であれば、形式を問わず積極的に共同研究を進めたいと考えています。興味をお持ちの方は片岡(kekataok●ncc.go.jp)までお気軽にご連絡ください。