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成人T細胞白血病リンパ腫における網羅的遺伝子解析

成人T細胞白血病リンパ腫の統合解析

次世代シーケンサーを用いた大規模かつ系統的な遺伝子解析研究が盛んに行われる中で、我々は世界に先駆けて、多数の成人T細胞白血病リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma: ATL)患者の検体を用いた、全エクソン解析・全ゲノム解析による変異および構造異常の検出、RNAシーケンスによる融合遺伝子の同定、マイクロアレイによるコピー数解析やDNAメチル化解析を含む、包括的な遺伝子解析を行ってきました。その結果、ATLにおける遺伝子異常の全体像を解明し、PLCG1PRKCBVAV1などの機能獲得型変異や、CTLA4::CD28融合遺伝子などの構造異常を含む、多数の新規の遺伝子異常を同定してきました(Kataoka K et al., Nat Genet, 2015; Kogure Y et al., Cancer Sci, 2017)。さらに、これらの遺伝子異常が臨床的因子とともに予後に影響を与えることを明らかにしてきました(Kataoka K et al., Blood, 2018)。

ATLにおける遺伝子異常の全体像

図:ATLにおける遺伝子異常の全体像(Kataoka K et al., Nat Genet, 2015

成人T細胞白血病リンパ腫の全ゲノム解析

このようなATLの統合解析により病態に関する多数の知見を得ることができましたが、このとき行われた解析はエクソン領域を中心とした解析であり、未解明のゲノム領域が残されていました。そこで、我々は国内外の施設から150例のATLサンプルを収集し、高深度全ゲノム解析を行いました(Kogure Y et al., Blood, 2022)。これによりタンパクコード・非コード変異、構造異常、コピー数異常のデータを同時に解析することが可能となり、合計56個のドライバー遺伝子を同定しました。この中には、以前は解析されていなかったエクソンに多数の異常を認めたCIC遺伝子(ATLの33%)や、構造異常によるC末端切断が高頻度に起きていたREL遺伝子(ATLの13%、GCB型のDLBCLで13%)等の11個の新規遺伝子が含まれていました。また、タンパク非コード領域ではスプライス部位の変異を繰り返し認めました。更に、全ゲノム解析による遺伝子異常の情報を用いて、ATL患者を二群に分類でき、この分類は臨床所見や予後と関連していることを明らかにしました。このように全ゲノム解析は、様々な種類の異常を包括的に同定することができ、今後のがん研究において不可欠な技術と考えられます。また、本研究で得られた知見は難治性血液がんであるATLの新たな診断法や治療薬の開発につながる基盤となることが期待されます。

全ゲノム解析で解明されたATLのゲノム異常の全体像

図:全ゲノム解析で解明されたATLのゲノム異常の全体像(Kogure Y et al., Blood, 2022

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