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横断的がんマルチオミクス解析による新規の発がん機構の解明

同一がん遺伝子における複数変異

我々は、発表当時過去最大規模の症例数である6万例を超える大規模ながんゲノムデータについて、スーパーコンピューターを用いた遺伝子解析を行い、同一がん遺伝子内における複数変異が相乗的に機能するという新たな発がん機構を解明しました(Saito Y, Koya J et al., Nature, 2020)。従来、がん遺伝子は単独で変異が生じることが多いと考えられてきましたが、PIK3CA遺伝子・EGFR遺伝子などの一部のがん遺伝子では複数の変異が生じやすいことが明らかになりました。これらの変異は単独では機能的に弱い変異ですが、複数生じることで相乗効果により強い発がん促進作用を示しました。特にPIK3CA遺伝子で複数変異を持つ場合は、単独変異よりもより強い下流シグナルの活性化や当該遺伝子への依存度が認められ、特異的な阻害剤に対して感受性を示しました。これらの結果は、同一がん遺伝子内の複数変異が発がんに関与する新たな遺伝学的メカニズムであることを示しています。

 横断的がんマルチオミクス解析

遺伝的がんリスク体質ががん特性に与える影響

我々は体細胞異常に遺伝的素因が与える影響を理解するために、生殖細胞系列バリアントに着目した研究も進めています。大阪大学の遺伝統計学教室(岡田随象教授)と共同で、各個人の「遺伝的がんリスク体質」を強く反映するスコアであるポリジェニック・リスク・スコア(PRS)を構築し、遺伝的がんリスク体質の特性を網羅的に調べたところ、遺伝的がんリスク体質を持つ人は、さまざまな種類のがんにおいて、若い年齢でがんを発症し、がんに蓄積している体細胞異常(体細胞変異やコピー数異常)が少ないことが分かりました (Namba S, Saito Y et al., Cancer Res, 2023)。本研究成果によって「遺伝的がんリスク体質」の理解が進み、がんの予防や個別化医療を推進することに役立つと期待されます。



遺伝的がんリスク

がん遺伝子パネル検査データを用いた日本人がん遺伝子異常の特徴を解明

我々は国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター(C-CAT)に登録された約5万例を解析し、がん種横断的に日本人のドライバー遺伝子異常と臨床的有用性を明らかにしました(Horie S, Saito Y et al., Cancer Discov, 2024)。米国癌学会シーケンスプロジェクト(GENIE)のがん遺伝子パネル検査データと比較し、様々な種類のがんにおいてTP53遺伝子変異の頻度が高いなどの日本人のがんゲノム異常の特徴を明らかにしました。 また、C-CAT、GENIE、米国のがんゲノムアトラス(TCGA)のデータを統合した共存排他解析を行うことで、エピゲノム制御因子変異が共存しやすいことを見出しました。これらの変異の共存は、増殖関連の遺伝子発現変化や細胞増殖への依存関係の変化を介して、がんの生存に有利に働くことを明らかにしました。
がん遺伝子パネル検査データ

このように、当研究室は多様ながん種由来の様々な解析プラットフォームによるデータを統合的に扱うがん種横断的ゲノム解析を進めており、がんゲノム異常の全体像と発がん機序の解明に取り組んでいます。

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