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遺伝性淡明細胞型腎細胞癌における腫瘍内および腫瘍間の遺伝的免疫学的不均一性

Von Hippel-Lindau(VHL)病に伴う遺伝性淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)は同一患者内に時間的・空間的に多発、再発を繰り返すことが特徴です。これまでの報告から同一患者内に生じる異なる腫瘍は独立したクローンであることが分かっており、その遺伝子異常の全体像は孤発性ccRCCと類似しているとされていましたが、希少疾患であることから、十分な検体数を用いた評価はされておらず、両者の相違点については依然としてよく分かっていませんでした。一方、VHL病に伴う遺伝性ccRCCは同一患者という同じ免疫学的背景下で、異なる遺伝子異常を有する腫瘍の免疫微小環境を比較するのに適したモデルの一つと考えられます。そこで我々は東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学教室(佐藤悠佑講師)と共同で遺伝性ccRCCの多部位シーケンスを行いました(Tabata M, et al., Cell Rep, 2023)。

まず、RNAシーケンスによる発現解析を行い、階層的クラスタリングを適用したところ、腫瘍検体は免疫関連遺伝子の発現が高いhotクラスターと低いcoldクラスターに分類されました。これはnCounterの解析や免疫組織化学染色の結果とも一致していました。さらに、免疫hotな腫瘍を有する割合は患者によって偏りがある、ことを発見しました。また、発現解析の結果を利用して、異なる患者間・同一患者内における異なる腫瘍間・同一腫瘍内の遺伝子異常と免疫微小環境を比較しました。すると、免疫環境は、同一腫瘍間>同一患者内の異なる腫瘍間>異なる患者間の順でよく類似することが分かりました。これらの結果から、免疫微小環境には腫瘍因子と患者因子の両方が影響を与えていることが示唆されました。このような、遺伝性ccRCCの不均一性を考慮することは、免疫治療を含む治療戦略を改善する上で重要な鍵となると考えられます。

また、遺伝性ccRCCの全エクソン解析を実施しました。日本人の孤発性ccRCCの遺伝子異常の全体像と比較すると、遺伝性ccRCCでは遺伝子異常の数、特にドライバー変異の数が少ないことを発見しました。このことは、ccRCCにおいて生殖細胞系列のVHL遺伝子異常は体細胞ドライバー変異よりも強く発がんに寄与する可能性を示唆し、遺伝性ccRCCの多発傾向や早期発症を説明するものです。

遺伝的免疫学的不均一性の画像

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