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日本の中小事業所での慢性疾患予防戦略策定のための実装マッピングの活用

更新日 : 2022年10月20日

はじめに

~職場における健康増進活動を促進させる戦略を考える~
 職場における健康増進活動は、従業員の慢性疾患発症を予防するだけでなく、経済的損失のリスクを軽減するのに役立つことが知られています。しかし、これらの活動は、特に中小事業所において十分に実施されていません。この研究では、なぜ実施されていないのか、どうしたら実施できるのか、を分析し、日本の中小事業所で健康増進活動を職場で定着させるコツ(これを実装戦略と呼びます)を提案することを目的にしています。

方法

 先行研究(Saito et al.,2022、研究概要)において、15の中小事業所および保健師 20 名を対象にインタビューを行い職場での健康増進活動を行う際の阻害・促進要因が特定されています。この研究では、その阻害・促進要因をもとに、実装戦略を導き出すために実装マッピング(IM)という手法を使い、分析を行いました。

結果

 IMでは5つの分析過程がありますが(図1)、この研究ではタスク2と3を実施しました。タスク2では、まず職場で健康増進活動を実施する時に必要な「誰」が「何」をするべきか、という行動目標を特定しました。まず、「誰」にあたる重要な実施者として事業主と健康管理担当者の2名を特定しました。そして、彼らがその行動目標をいつ(活動を導入する時期、実施する時期、持続させる時期)実施するのか振り分け、22個の行動目標が特定されました。
 タスク3では、行動目標に取り組むための実装戦略を決めました。IMでは、実装戦略を特定する時に、行動目標を実施できない理由(決定要因)に合わせて行動変容テクニックを選び、組み合わせること重要視しています。例えば、「どうやるのか知らないからできない」場合には情報提供を行い、行動目標を実施しやすいようにサポートします。また「自信がなくてできない」という場合には一緒に段取りを考え、褒めたり励ましたりしながら行動目標を実施できるようにサポートします。最終的に16個の実装戦略を、中小事業所の健康増進活動を定着させるための実装戦略とすることにしました(図2に実装戦略の組み立て方の一例を示します)。実装戦略を決定する過程では、中小事業所の健康増進活動の担当者や事業主、全国健康保険協会の保健師と話し合いを行い、意見を取り入れながら進めました。

考察

 中小事業所における健康増進活動の実装戦略として、自社の健康課題を把握したり、従業員の要望を聞くこと、社会的に求められている行動を意識するといった社内だけでなく社会を意識した16の実装戦略が特定されました。
 その中で、過去の研究では見られなかった実装戦略が特定されました。1つ目は「活動に従業員を巻き込む」というものです。これは中小事業所の利点である目の届く距離間や、意見の集約や反映をしやすいことと関係しています。2つ目は「事業主による健康増進活動の実施宣言」をすることです。今後研究が必要ですが、鶴の一声によって、大きく物事が動くのは特にアジア圏の大きな特徴かもしれません。そのほかにも他者の目線を意識させることにより望ましい行動を促すといった戦略も日本の文化を反映した戦略と言えるでしょう。

 他の国で、あるいは他の会社でうまくいった活動をそのまま自分の会社で展開しようとすると上手くいかないことが多くあります。自分の住む地域や会社の文化風土、従業員の要望、活動のネックになっていることを良く理解したうえで活動を展開することが、定着させるためのカギになりそうです。

fig1.5process.PNG 

図1.実装マッピングにおける5つの分析過程

 

 Fig2.Structure.png

図2.実装戦略の組み立て方の例

 

発表論文

Odawara M, Saito J, Yaguchi-Saito A, Fujimori M, Uchitomi Y and Shimazu T. Using implementation mapping to develop strategies for preventing non-communicable diseases in Japanese small- and medium-sized enterprises. Front. Public Health, 2022. 10:873769.
https://doi.org/10.3389/fpubh.2022.873769(外部サイトにリンクします)