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禁煙支援の方法論:行動科学とは

ポイント

  • 行動科学とは、科学的な根拠を持って人の行動の法則性を明らかにする学問です。
  • 「変容ステージ」は対象者の行動の準備性を5段階に分類します。
  • ステージは「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」に分類されます。
  • ステージにはそれぞれに対象者の心理的特徴があります。
  • 心理的特徴に合わせた支援を行うことで、ステージを変化させることができます。

行動科学とは

行動科学は、1940年代にシカゴ大学の心理学者ミラー(James G. Miller)を中心としたグループによって考え出された学問で、第2次世界大戦後、保健医療分野で積極的に用いられるようになりました。行動科学は、科学的な根拠を持って人の行動の法則性を明らかにし、その法則を用いて対象者の行動変容を促すことの総称とされています。行動科学を用いることにより、対象者の行動を阻害する要因や促進する要因をアセスメントし、対象者の強みを活かしながら行動変容が進むように関わることができます。行動科学の理論は数多く存在し、個人レベルを扱うものから、地域、社会レベルに適応させる理論まで様々です。ここでは、個人を対象とした健康教育によく用いられる「変容ステージ(James O Prochaska, 19893)」1)について説明します。

変容ステージとは

James O Prochaskaは、人の行動への準備性を5段階に分類し「変容ステージ」と名づけました。ステージはそれぞれ、「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」と呼ばれています。対象者は無関心期から維持期までの間を行ったり来たりしながら行動を変化させていきます。通常、対象者は数回の逆戻り(ステージの逆行)を体験すると言われています。

図1. 変容ステージ
Prochaska JO, et al. Am Psychol 19922) より改編

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変容ステージを用いた禁煙支援3)4)

日本では多くの場合「タバコを今すぐやめたい」という準備期の対象者を見つけ出し、禁煙を促すことに変容ステージを利用しています。しかしProchaskaは、変容ステージには、それぞれのステージに心理的特徴があり、その特徴に合わせた支援を行うことで次のステージに進ませることができると述べています。そのため、禁煙する気のない人にも声掛けをし、次のステージに進めるような関わりが求められます。

変容ステージとそれぞれのステージの心理的特徴について、表1に示します。

表1. 変容ステージとそれぞれのステージの心理的特徴3)
ステージ 心理的特徴
無関心期 6ヵ月以内に禁煙する気がない 医療職からの助言に対して抵抗を示す。
関心期 6ヵ月以内に禁煙したいが1ヵ月以内ではない 禁煙する価値と喫煙し続ける価値の両方を持つ(両価性:アンビバレンス)
準備期 1ヵ月以内に禁煙したい 決心する、具体的な禁煙方法を探す
実行期 禁煙を開始して6ヵ月以内 実行のための努力、継続への負担が入り乱れる、逆戻りの危険
維持期 禁煙を開始して6ヵ月以上 禁煙の効果を感じる。自立に向かう

 

1) Prochaska, J O, Velicer, WF. The Transtheoretical model of health behavior change. Am J Health promot 1997. 12(1); 38-48.

2) Prochaska JO, DiClemente CC, Norcross JC. In search of how people change. Applications to addictive behaviors. Am Psychol 1992. 47(9):1102-14.

3) 谷口千枝著,田中英夫編. 禁煙治療のためのカウンセリングテクニック エキスパート編.看護の科学社,東京,2011.

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