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「いつでも、どこでも、だれでもが、がん情報を得られる地域づくりの第一歩」(in 盛岡)

日時:2017年1月23日(月曜日)13時から16時30分
場所:いわて県民情報交流センター(アイーナ)

国立がん研究センターでは、がんをはじめとする健康や医療に関する情報を、生活の中で身近に感じられるような環境づくりを目指して、図書館と医療機関が連携したプロジェクトを進めています。その取り組みの一環として、九州・沖縄地区での開催に引き続き、岩手県盛岡市にて、公立図書館とがん相談支援センターの新たな連携や活動状況を広く紹介し、各地域での住民を対象にした医療・健康情報の連携に係る課題等について話し会う場を設け、取り組みをさらに推進する機会として開催されました。

概要とあいさつ

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「いつでも、どこでも、だれでもが、がんの情報を得られる地域づくりの第一歩」を全体テーマとして、第1部として図書館とがん相談支援センターの連携の意義の説明と他地域での連携事例の報告、第2部としてシンポジウムと地域別ブレークアウトセッションの2部構成で行われました。 開会にあたり、国立がん研究センターがん対策情報センター若尾文彦センター長(ビデオメッセージ)より「国民の2人に1人ががんにかかる時代となり、正しい情報を伝えることが重要だが、まだまだ認知度の低いがん相談支援センターと地域住民にとって非常に身近ながら正確な医療情報の提供が難しい図書館とが相互補完し、地域住民のための連携・共同の在り方、可能性について話し合っていただきたい」とのあいさつがありました。

また、開催地である岩手県立図書館工藤館長より「これまでも県担当課と連携し健康増進普及月間や乳がん月間に医療情報を提供してきたが、今回紹介される連携事例を参考により充実した医療情報の提供につなげていきたい」とのあいさつがありました。

はじめに

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「図書館とがん相談支援センター連携プロジェクトについて」
国立がん研究センターがん対策情報センター 八巻知香子

まず、主に図書館関係者向けに、がん相談支援センターの成り立ちと果たすべき役割、特徴(無料で、誰でも、何でも聞ける)の説明があり、その後、重大な意思決定が一時に押し寄せるがんと診断された時に、大きなショックの中、慌てて情報を集めて難しい判断をするのではなく、罹患(りかん)前の無関心期に少しでも情報のありかや情報の中身に触れてもらえないかと考えたことが、図書館とがん相談支援センターの連携を考えたきっかけであったと語られました。
特に図書館では、健康な人が構えずに情報を手に取れる点、病院が正面から取り組むのは難しい終末期の患者の方が死に向き合う場面で必要となる情報がそろっている点で強みが発揮できるのではないかと話がありました。

 

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「公共図書館からみたがん相談支援センターとの連携の意義」
慶應義塾大学名誉教授 田村俊作

まず、主に医療関係者向けに、公共図書館の特徴として、あらゆるジャンルの本が置いてあり、誰でも気軽に立ち寄れる場所であるとの説明があり、利用者が自発的に調べ物をするだけでなく資料の適切な利活用を目的とした案内サービス(司書によるレファレンスサービス)も提供されているとのお話がありました。
あらゆるジャンルの本があるということは、一方で、特定の領域のより専門性が高い情報に入り込むことは難しくなるため、それを連携によって解決していこうという考え方があり、図書館とがん相談支援センターと連携することは、図書館にとって医療健康情報提供の強力なサポーターが得られるメリットがあり、がん相談支援センターにとっては病院の外しかもあらゆる人々が気軽に訪れる場所にサービス窓口が作れる点が挙げられる、とのことでありました。

取組報告

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  • 和歌山県での取り組み

発表者:松田公利(和歌山県立図書館)

冒頭に和歌山県立図書館のがんコーナーの紹介があり、図書館のがん情報提供に関する姿勢を示したがんコーナーを設置したことにより、それを契機としてNPO法人との連携による講演会やがん患者サロンの開設が実現し、実際に利用した県民の声が県知事に届いたことから県担当部局に連携が広がり、県のがん対策施策報告書に載るまでになったとのお話がありました。

次に、がん相談支援センターとの連携について具体的な取り組みが紹介されました。講演会が好評でありながらも継続的に実施するには予算が厳しい図書館から体験者の講演会を定期的に行っていた和歌山県立医科大学附属病院に共催を持ちかけ、平成26年度から予算を病院側、場所を図書館が提供する形で公開講座を開催しているそうです。予算を持った機関が企画を持ちかけ、図書館が場を提供する形が有効だと考えられているそうです。

 

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発表者:雑賀祐子(和歌山県立医科大学附属病院)

まず和歌山県および和歌山県のがんの状況の紹介があり、その後、がん相談支援センターが独自で開催していたサバイバーから話を聞く講演会を和歌山県立図書館とコラボすることになった経緯が紹介されました。がん相談支援センター単独で開催していた際の「一般の方への広報が難しい」、「講師の選定が難しい」といった悩みが、一般の方が気軽に訪れ、本を通して著者の方を幅広く知ることができる図書館との連携により解消されたそうです。 加えて、他機関との連携の取り組みとしてがんサロン勉強会が紹介され、院外サロンを設置している県立図書館からも参加を得て、活発な意見交換がされたことと年1回の定期開催が決まったことが報告されました。

 

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  • 福岡県での取り組み

発表者:織田久美子(社会保険田川病院)

福岡県では平成27年春の福岡県立図書館、福岡市立総合図書館への訪問にて重要な「出会い」があり、同年秋には相談員が平成27年度、平成28年度の公共図書館等職員レファレンス研修に「医療情報の探し方」の講師として参加し、司書とがん相談員がお互いの仕事や特徴を知ることになった経緯の紹介がありました。その後、広大なエリアを2つの拠点病院では十分に支えきれない筑豊ブロックにて、その差し迫った状況から拠点病院がん相談員と飯塚市立図書館との「がん情報普及のための連携会議」を定期的に持つことになり、具体的な連携の取り組みを積み重ね、筑豊地区内の他の図書館との連携へ発展した流れが紹介されました。その取組内容を筑豊地区の活動としてがん専門相談員連絡会議で報告したことから今ではブロック単位、施設単位での連携の取り組みに少しずつ広がってきていることが報告されました。

 

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発表者:田中宏尚(飯塚市立飯塚図書館)

平成27年から始まった「がん情報普及のための連携会議」を踏まえて、飯塚市立飯塚図書館が取り組んだ連携取り組みについて具体的に紹介がありました。
まず、がん検診の啓発、がん関連パンフレット等の配布、がん相談支援センターの案内の3つの軸でがん情報コーナーを設置したところから始まり、現在では、がん検診・がん相談支援センターの情報、がんの冊子およびがんに関する書籍、がん闘病記という形に拡充されており、加えて情報鮮度を維持する目的から出版年の明記を行い、最新情報の収集として新聞情報のスクラップも行っているそうです。
また、図書館を会場としたイベントではがん情報コーナーを設け、平成28年度の飯塚図書館まつりではがん情報ブースに加えてがん専門相談員の協力を得て出張相談も行ったとの報告がありました。

 

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  • 北海道での取り組み

発表者:木川幸一(国立病院機構北海道がんセンター)

北海道では、平成27年に医療空白圏である浦河町の町立図書館を中心にしてがん拠点病院に近隣の町役場の保健福祉課を巻き込み地域の中核病院のメディカルスタッフにも入ってもらって何かをやろうと第1回日高がん情報講座が企画され、隣接する町から定員を超える80人以上の参加があった、平成29年2月にはより大きな会場で第2回が予定されているとのお話でした。
この取り組みに参加した王子総合病院(苫小牧)では市中央図書館と共催の講演会が、また北海道がんセンター(札幌)では市中央図書館への資料提供や相互の施設紹介が、進んでいると報告がありました。

 

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発表者:山田史恵(浦河町立図書館)

最初に連携の話が出た平成26年10月段階では、浦河町立図書館では「がん」に特化したサービスはなかったが、平成27年に入って初回のワーキンググループ打ち合わせ(4月)において、医療過疎で情報弱者を抱える地域に対する医療情報の提供は公共図書館の責任であり、図書館が地域の病院と連携して情報発信の拠点となるべきとの考え方に基づいて浦河赤十字病院とつながりを持ち、同年10月からは病院への移動図書館車の巡回が実現し、今後も返却ポストの設置やブックリストの配置、利用拡大のための周知の相互協力などの連携を進めていくとのお話がありました。
また、平成27年11月の第1回日高がん情報講座に向けて図書館では「がん情報コーナー」を設置したが、本年度は罹患(りかん)率の高いがん種ごとに、近隣の3図書館がお薦めの本を、病院が相談先の情報を提供し、日高独自のパンフレットを制作する取り組みを行っている。
加えて、「がん」に関する蔵書のリスト(15項目197タイトル、随時更新)を作成したとの報告がありました。

シンポジウム

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取組報告の登壇者6名に、大阪南医療センターの萬谷和広氏、堺市立健康福祉プラザ原田敦史点字図書館長を加えた8名のパネリストでシンポジウムを行いました。萬谷さんからは河内長野市立図書館と協働されている相互紹介と市民講座の内容について簡単なご紹介がありました。 原田さんからは国立がん研究センターと連携し始めた経緯と堺市での取り組みの紹介があった後、会場からの質疑を受けながらディスカッションが進みました。

「がん相談は科学的根拠に基づいて行うことが大前提だが、がん情報コーナーの図書の選書基準はどうなっているか」という質問に対しては、「公共図書館は偏りなく幅広く情報提供し、利用者側で判断をしてもらうのが基本スタンス。ただ、いいことばかりをうたっているような怪しい情報については相談支援センターに相談するようにしている」「公共図書館としての立場や利用者ニーズに応える必要性は理解できるので、幅広く書籍をそろえることには反対していないが、怪しいと思われる情報を求める利用者が居たらぜひがん相談支援センターに誘導してもらうようにお願いしている」といった、実践の中で考えられてきた方針が紹介されました。

「さまざまながんの種類がある中で、どの図書館がどのがんの情報を十分に置いている、どの分野に強い、といった情報があれば利用者にとって便利だと思うが、それは可能か」という質問に対しては、現在ががんに関する情報提供を充実していこうという段階のため、どこの図書館の蔵書が充実しているかといった連係情報はまだないこと、一方、具体的なニーズから考えた場合、希少がんを含めどの病院でどの位の症例を扱っているか等の情報はがん相談支援センターで提供できるのでぜひ誘導してもらいたいという意見が出されました。

「がんサロンの参加人数が増えず固定化している。図書館でのサロンについて詳細を知りたい」という病院からの質問については、月1回、第一日曜の午後に実施している。参加人数というより患者の方が悩んだ時に行ける場所があるということに意義があると考えている、という和歌山県立図書館の例が具体的に紹介されました。

図書館のさまざまな機能の中で、医療情報を扱う際の姿勢についても質問が出され、あらゆる情報を提供すべき公共図書館が、医療情報の提供を特に強調する際の論拠についても議論されました。各図書館がどの分野に力を入れるのかは、地域のニーズによるであろうこと、ただ多くの地域において医療過疎や高齢者が多くて遠くに行けないなど、地域の利用者のニーズが高いことが顕在化しており、これに取り組むことは図書館の一つの役割であろうという意見が複数出されました。

地域別関係者ブレークアウトセッション

約20分間、県別に分かれたテーブルごとに、図書館関係者、病院関係者、県担当者がそれぞれに自己紹介を行い、今後の連携のためにお互いを知る(ネットワーキング)と共に、先に報告された取り組みを参考に自分たちにできそうなこと話し合いました。短い時間ではありましたが、各地域で顔の見える関係の第一歩となった様子がうかがえました。

総括

閉会にあたり、慶應義塾大学名誉教授 田村俊作氏による総括がありました。
田村氏からは、この日の紹介された事例の中には、持続可能な連携にするためにはお互いにメリットのある関係を築くことや連携の取り組みの成果をマスコミにつなげて周りの評価を勝ち取る、小さな取り組みを他地域や他施設の取り組みに広げるなど、多くのヒントがあったこと、どの事例でも出会いは重要で、せっかくのこの機会をきっかけにそれぞれの地域でつながっていってもらいたいことが述べられました。
そして、今回の出会いを連携の取り組みにつなげていくのは皆さん自身であり、そこにわれわれも一緒になってサービス充実に向けてがんばっていければとの言葉で閉会しました。

プログラム

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