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いつでも、どこでも、だれでもが、がんの情報を得られる地域づくりの第一歩(in広島)

日時:2018年12月14日(金曜日) 13時から17時40分
場所:広島国際会議場 大会議室 ダリアI(平和記念公園内)

 国立がん研究センターでは、がんをはじめとする健康や医療に関する情報を、生活の中で身近に感じられるような環境づくりを目指して、図書館と医療機関が連携したプロジェクトを進めています。その取り組みの一環として、九州・沖縄地区、東北地区、中部地区での開催に引き続き、広島市にて、中国・四国地区の公共図書館とがん相談支援センターの新たな連携や活動状況を広く紹介し、各地域での住民を対象にした医療・健康情報の連携に係る課題などについて話し合う場を設け、取り組みをさらに推進する集まりが開催されました。

概要

 開会にあたり、広島県立図書館の植田佳宏副館長より、「がんは早期発見により治る病気になった。公共図書館は地域に住む誰もががんをはじめとする医療情報に触れられる場所だが、図書館員にとって医療レファレンスは悩みの種なので、がん相談支援センターと公共図書館の協力が重要であり、意見交換の場を活用してほしい」との挨拶がありました。picture_001.jpg
 続いて、医療機関と公共図書館の双方の立場から見えてきた、公共図書館とがん相談支援センターが連携する意義について、司会を務めた八巻知香子室長(国立がん研究センターがん対策情報センター)と田村俊作名誉教授(慶應義塾大学)から紹介されました。その後、連携の成功事例が報告されました。

鳥取県での取組

県の健康医療情報制作と連動した図書館・医療機関の取組

発表者:佐伯真由佳(鳥取県立図書館)、藤松義人(鳥取中央病院)

 県立図書館からは、平成17年度に開始した医療・健康情報サービスを推進するために患者会、病院、医師会、看護協会、行政、大学からの外部委員と図書館員で構成する「県民のための健康情報サービス委員会」の役割と、この委員会で構築された人と人とのつながりが、個々の連携に大きな効果を発揮しているとの紹介がありました。中央病院からは、全国で展開されているがん患者サロンを病院内に開設するとともに、患者家族のための情報収集基地としてパンフレットなどを展示する患者図書室を、がん相談担当者と事務担当者の協力で立ち上げたことが紹介されました。県立の図書館との連携では、病院主催の市民講座を県立図書館で開催し、その際に出張がん相談を実施しているとの報告がありました。picture_003.jpg発表写真2(鳥取県立図書館)

高知県での取組

健康医療情報における病院図書室と公共図書館の連携

発表者:橋田圭介(高知県・高知市病院企業団立高知医療センター図書室)

 「医療の主人公は患者さん」との基本理念のもと、患者には「受ける権利」「選べる権利」「守られる権利」があるとする「高知医療センター患者さんの権利章典」を2005年の開院時に設定したことが紹介されました。県内の公共図書館との連携を進めており、オーテピア高知図書館の「健康・安心・防災情報サービス」との間で分担購入を進め、地域医療連携研修会に公共図書館員の参加を促すとともに、県内公立図書館司書への医療健康情報サービス研修を実施しています。高知医療センターのなるほどライブラリでは、医療従事者用図書室と患者用図書室を併設し、患者の知る権利を情報面で支援しています。たとえば、医学書は2~4年で改訂され、古い本は患者に誤った情報を提供しかねないため、改訂版が出版されると資料の差し替えを行っているとの報告がありました。picture_004.jpg

堺市(大阪府)での取組

医療機関・図書館連携プロジェクトを進める中で見えてきたもの

発表者:古谷緑(堺市立総合医療センター)、原田敦史(堺市立健康福祉プラザ)

 がん専門相談員の古谷さんから、国立がん研究センター、ひといき、視聴覚障害者センター、堺市立図書館、堺市立総合医療センター、大阪労災病院、堺市役所を巻き込むがん情報普及のための医療・福祉・図書館の連携プロジェクトが紹介されました。公共図書館の立場からは、堺市立図書館のサービス網の中で医療健康情報を担う西図書館のがん情報コーナーと電子書籍提供サービスが紹介されました。がん相談支援センターの立場からは、視覚障害のある患者への対応を全体で考えられる研修の企画・運営や、病院で開催する患者・市民向け講座での協力が紹介されました。健康福祉プラザ点字図書館からは、視覚障害のある患者が情報を集めることが極めて困難であることから、視覚障害者への情報提供の取り組みが紹介されました。picture_006.jpgpicture_005.jpg

筑豊地区での取組

がん情報普及のための連携会議からはじまった図書館・がん診療連携拠点病院の関係

発表者:田中宏尚(飯塚市立飯塚図書館)、織田久美子(社会保険田川病院がん相談支援センター)

 福岡県の中央に位置する飯塚図書館からは、2016年4月に飯塚病院と社会保険田川病院との間でがん情報普及のための連携会議を開催したとの報告がありました。また、公共図書館の取り組みとして、図書ラベルに出版年を明記、市内各館にがん情報コーナーを設置、ホームページでがん情報サービスを紹介、がん情報ブース開設とがん専門相談員による出張相談実施の状況が紹介されました。地域の公共図書館が共同で実施したアンケート調査結果も報告されました。病院側からは、がん相談支援センターの存在が市民に知られていない、相談者にとって病院の敷居は高いとの課題があり、拠点病院が少ない筑豊地域では多職種との連携の必要性が認識されており、地域の公共図書館訪問、図書館の研修会に県がん専門相談員が講師としての参加などを通じて、筑豊地区の公共図書館との連携が始まったことが紹介されました。図書館で開催される医療情報セミナーに病院から講師を派遣し、がん情報ブースでがん相談支援センターの広報ポスターの展示、出張相談などの活動を実施していることが紹介されました。picture_007.jpgpicture_008.jpg

シンポジウム「がんの情報を得られる地域づくりの第一歩」

 上記の発表を受けて、中国・四国ブロックのがん専門相談員や図書館員、医療関係の自治体職員より、これまでの経験やこれからの連携へ向けた抱負が語られました。

 岡山県立図書館の那須祐子さんは、「まずはできるところから」との意図でブックリストやパスファインダーの作成などから始めたことを紹介されました。連携先の岡山大学病院の石橋京子さんは、図書館での講演会で講師として呼ばれたことをきっかけとして関わりが始まり、9月のがん征圧週間で展示をする予定を聞き、がん相談支援センターとして協力したこと、今年はその2回目の展示に協力する中で、互いに訪問しながら役割について理解を深めてきたことを話されました。本日の講演を聴いて公共図書館との連携は必要であるとの思いがさらに強くなったそうです。

 広島市立図書館の鈴木洋美さんが広島市民病院との連携を始めたのは、研修でがん専門相談支援員と知り合い、病院を訪れてからだそうです。広島市民病院がん専門相談員の中津千恵子さんは、診察を受けた後に「図書館に寄って帰ります」という患者さんによく出会うとのことです。この日のワークショップで図書館が、病気に対して「無関心期」にある人たちに予防や検診について働きかけるのに重要な場所だと気付かされたとの感想が述べられました。広島県がん対策課の関野弘美さんも、課に異動になってすぐに情報収集のために市立図書館と市民病院を訪れたそうです。これからも市民にとって身近な図書館で情報を届けられるようにしたいとのことでした。

 宇部市健康増進課の武田真奈美さんからは、全国でも珍しく、市が先導して地域の病院の病院リストを作ってきた経緯が紹介されました。現在も病気について無関心な層に働きかけていくのに図書館でピンクリボンの展示を行ったりしていること、図書館と行政とは目的を共有していると感じているので、いつでも積極的に働き掛けてほしいと呼びかけがありました。

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 地域別に分かれてテーブルにつき、図書館関係者、病院関係者、がん対策の行政担当者がそれぞれに自己紹介を行い、今後の連携のためにお互いを知る(ネットワーキング)と共に、先に報告された取り組みを参考に自分たちにできそうなことを話し合う時間に移りました。短い時間ではありましたが、各地域で顔の見える関係の第一歩となった様子がうかがえました。

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プログラム

講演内容一覧・資料

主催・協力・後援・協賛

【主催】国立がん研究センターがん対策情報センター

【協力】科学研究費助成事業「市民の健康支援のための価値互酬型サービスを支える知識共同体
    の構築」(池谷班)、広島県立図書館

【後援】広島県、鳥取県、島根県、岡山県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、
    広島県がん診療連携協議会情報提供・相談支援部会、島根県がん対策推進協議会、
    岡山県がん診療連携協議会相談支援部会、香川県がん診療連携協議会相談支援部会、
    徳島県がん診療連携協議会相談支援部会、高知がん診療連携協議会がん相談支援部会、
    広島県公共図書館協会、岡山県図書館協会、山口県図書館協会、鳥取県図書館協会、
    島根県図書館協会、四国地区公共図書館連絡協議会、日本図書館協会、
    医療の質に関する研究会(順不同)

【協賛】住友生命保険相互会社