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いつでも、どこでも、だれでもが、がんの情報を得られる地域づくりの第一歩(in東京)

日時:2019年2月1日(金曜日) 13時から17時40分
場所:東京都立中央図書館 多目的ホール(有栖川記念公園内)

 国立がん研究センターでは、がんをはじめとする健康や医療に関する情報を、生活の中で身近に感じられるような環境づくりを目指して、図書館と医療機関が連携したプロジェクトを進めています。その取り組みの一環として、九州・沖縄地区、東北地区、中部地区、中国・四国地区での開催に続き、首都圏の公共図書館とがん相談支援センターの新たな連携や活動状況を広く紹介し、各地域での住民を対象にした医療・健康情報の連携に係る課題などについて話し合う場を設け、取り組みをさらに推進する集まりが開催されました。

概要

 開会にあたり、東京都立中央図書館サービス部情報サービス課の原信夫課長より、「地域の課題解決のためビジネス支援、法律情報、健康医療情報を重点サービスと位置付けており、健康医療情報サービスでは専門的な情報は図書館のみでの対応が困難なため、医療機関との連携が必要であり、このワークショップが首都圏の公共図書館と医療機関との連携のきっかけとなることを期待したい」との挨拶がありました。picture_001.jpg
 続いて、医療機関と公共図書館の双方の立場から見えてきた、公共図書館とがん相談支援センターが連携する意義および全国の成功事例について、司会を務めた八巻知香子室長(国立がん研究センターがん対策情報センター)と田村俊作名誉教授(慶應義塾大学)から紹介されました。その後、首都圏の連携事例の報告に移りました。picture_003.jpgpicture_002.jpg

東京都立中央図書館での取組

都立中央図書館における健康・医療情報の提供と、都内医療機関との連携の可能性

発表者:西林里紗(東京都立中央図書館 サービス部 情報サービス課)

 都立中央図書館では平成16年6月に医療情報コーナーを、平成17年6月に闘病記文庫を4階に開設し、平成18年にはコーナーの名称を健康・医療情報コーナーに変更しました。平成21年1月の中央図書館リニューアルオープンを機に1階に移設し、平成30年には東京都内の他館に先駆けてがん情報ギフトを受け入れています。医療機関との連携では、東京都立広尾病院、墨東病院で出張展示を、東京医科歯科大学市民公開講座ではがん相談支援センターと共同ブースを開設して出張展示を、日本赤十字社医療センターがん相談支援センターの「がん患者セミナー」では、平成29年と30年に都立中央図書館の職員が「がん情報の調べ方と図書館活用」の講師を担当した、との報告がありました。picture_004.jpg
 この報告に対し、日本赤十字社医療センターがん相談支援センターの黒木由里子氏より、セミナーには日本赤十字社医療センターの患者だけでなく地域住民も参加したこと、また、インターネットが苦手な60代以上の患者でも本なら落ち着いて読めるため、受診の前や後に都立中央図書館に立ち寄る方もいるとのことです。がん相談支援センターとして、図書館と一緒に何ができるのか、初めは想像がつかなかったが、セミナー参加者からの「近くの図書館で見当たらない本を図書館が他の図書館から取り寄せてくれるサービスがあることを知ることができて良かった」などの反応を目の当たりにして、病院の中だけでなく地域の図書館とつながっていくことが、何より患者さんに役に立つことだと実感した、とコメントがありました。picture_005.jpg

大田区立蒲田駅前図書館での取組

長崎市立図書館と大田区立図書館での医療情報サービス支援からみた連携のかたち

発表者:井上彩(大田区立蒲田駅前図書館・JMLAヘルスサイエンス情報専門員基礎)

 指定管理制度の下で運営される長崎市立図書館にてがん情報サービスを、大田区立蒲田駅前図書館にて医療介護情報サービスを担当した経験にもとづいて、公共図書館で医療情報サービスを実施するためには、多様な人々が利用しやすい図書館という場所、知識とこころを支えるさまざまな本、あらゆる資料を活用・提供して人と本を繋ぐ司書、および住民の今のニーズ把握の4つの特性を活かすことが重要であるものの、医学知識が乏しく、情報の正確性判断や専門書の購入が困難なため、図書館内の資料だけでは難しいレファレンスに対応しづらいことから、行政および医療機関との連携が重要であるが、連携を継続することは困難であるため、お互いに共通認識を持ってコミュニケーションを維持する必要がある、との報告がありました。picture_006.jpg

 この報告に対し、東邦大学医療センター大森病院でがん相談を担当している祖父江由紀子氏は、図書館ががん情報の普及に尽力していることを知らなかったが、今後連携していきたい、とのコメントが、東邦大学医学メディアセンター(東邦大学医療センター大森病院からだのとしょしつ担当)の岡田光世氏からは、患者向けの質の高い資料が少ないため、患者が情報をどの程度吸収し活用できるかが課題である、同としょしつの児玉閲氏からは、公共図書館における医学書の選書に協力できる可能性についてのコメントがありました。picture_009.jpgpicture_008.jpgpicture_007.jpg

葛飾区立中央図書館での取組

葛飾区立中央図書館の医療健康情報サービス

発表者:森斉丈(葛飾区立中央図書館)

 金町駅前に2009年に開設された中央図書館は、面積5,077m2、450席の大規模なワンフロア図書館で、課題解決型サービスの一環としてビジネス支援、法律情報、医療健康情報などの生活に密着したサービスを提供しています。医療健康情報関連資料コーナーでは、医療・健康情報に関する資料を、独自分類(V1:病気・健康、V2:検査、V3:診療ガイドライン、V4:薬、V5:病院情報)により別置し、がん情報サービスの冊子を含むパンフレット類や、日本対がん協会のがん相談ホットラインのチラシなどを置いています。また、闘病記コーナーでは、資料を病名別に分類しています。2013年度にサービス内容を見直し、「借りる資料から手元に置いておける資料へ」とのキャッチフレーズのもと、「がんと暮らす情報コーナー」を新設し、がん関連のフリーペーパーを置いています。2013年から毎年「医療健康情報講演会」を開催しています。レファレンスでは、薬や疾病の詳細情報、診断結果の理解を深めるための検査方法の詳細、医療機関の評判確認のための病院情報、病気になった時の保険、補助金、公共料金の支払いに関する問い合わせがあります。医療健康情報サービスの今後の課題として、限られたスペースにも関わらず増加する資料、地域のニーズに応じた講演会・セミナーの充実、区の他部署や地域医療団体との連携、メディカル・カフェの開催が挙げられました。picture_010.jpg

 この報告に対し、江戸川病院がん相談支援センターの川野絵里香氏より、図書館で具体的な相談が寄せられていることを知らなかったけれど、この地域は高齢者が多く、インターネットではなく本を頼りにする人が多いのが現状で、取り残されているため、身近な図書館で情報を調べることができることを認識しました。当院では医師が地域住民に正しい医療情報を提供しており、がんサロンで図書館との連携が取れるとよいと感じました。図書館のメリットは、リラックスしたところで話ができることで、我々も外に出ていく機会を求めており、図書館との連携に期待したい、とのコメントがありました。picture_011.jpg

 都立墨東病院がん相談支援センターの菊池由生子氏は、多くの患者に相談の場があることを知らせる努力をしているが、10月に開催した緩和ケアのイベントでは、地域住民が来る場所として医療機関の敷居の高さを感じました。病院が所在する区のイベントに医師が出向いた際には多くの住民が参加してくれたことから、院内で開催するより図書館のセミナーに医師が出向くことの効果を感じました。医療機関でも小さな情報室を設けて情報を提供しているので、地域の図書館で健康医療情報サービスを実施していることや、相談の場を紹介したい、とのコメントがありました。picture_012.jpg

 シンポジウム「がんの情報を得られる地域づくりの第一歩」

実践者からのヒントを踏まえて可能性を探る

登壇者:吉田奈緒子(埼玉県立久喜図書館)、舟田彰(川崎市立宮前図書館)、
    長谷川尚子(東京都立駒込病院)、品田雄市(東京医科大学病院)

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 埼玉県立久喜図書館の吉田奈緒子氏から、久喜図書館の健康医療情報サービスではがん情報の提供に重点を置き、がん情報コーナーの設置のほか、毎年夏に、県内などのがん患者会のパネル展示と併せてがんに関する講演会を開催している。この夏はAYA世代に関する講演会を実施し、県の疾病対策課から県のAYA世代がんに関する報告、がん相談支援センターの案内、患者会のPRタイムといった様々な情報を提供する1日となった、との報告がありました。

 川崎市立宮前図書館の舟田彰氏からは、専門情報への全方位の入り口ということで敷居の低い図書館は、行政情報を得る格好の場所であり、医療健康情報や介護だけでなく幅広い領域の資料を提供している強みを生かした取り組みを行っています。しかし、このような図書館の取り組みが医療の場に十分に伝わっていないことを改めて感じました。がん情報から離れた話になりますが、他機関との連携の必要性について申し上げさせていただきますと、私自身、公民館と図書館での勤務経験があります。公民館は社会教育施設として人を巻き込んでいく強みがあります。高齢化が進む中でシニアの役割が重要なので、アクティブシニアの方たちによる読み聞かせボランティアの養成セミナーを実施して、市民と図書館と公民館、そして行政が手を組んで、実践者である市民ボランティアとともに地域を支える取り組みをしています。過去にはNPO法人のキャンサーリボンと連携してがんのセミナーを開催したこともあり、行政や医療機関だけでなくNPO法人などの機関と繋がることで新たな展開が生まれた、との報告がありました。

 都立駒込病院の長谷川尚子氏からは、浦安市立図書館や本駒込の図書館の取り組みに感銘を受けたこと、駒込病院では患者サポートを実施しており、子供向けコーナーを設けて、本屋のポップのように患者サポートセンター長の顔写真とコメントを入れて検診の資料を置けるとよいと考えていること、学習指導要領で医者に生徒のがん教育を依頼させることが多い、との報告がありました。また、子供が参加する野球部のお母さんと話をしていると、がんの検診を受けたことがない人が多いことに気付いたため、その方たちに啓発ができるとよいと思うが、まだ具体化はしていない、とのことでした。

 東京医科大学病院のがん相談支援センターの品田雄市氏は、図書館が持つ公共性と病院が持つ専門性を繋ぐことが重要だと感じているが、がん拠点病院として学校に出前講座を開催しているのみで、社会教育の場である図書館で市民に対して我々の知識やノウハウを十分提供できていないので、地域に出ていく糸口として図書館との連携に期待できる一方で、その限界を感じている、と指摘がありました。最近は活字離れが進んでおり、若者はスマホに、高齢者は視力低下で活字から離れているため、本を読んで考えながら自分の意見をまとめていくという時間がなくなってきているのではないか。がん相談支援センターに来る患者は即刻情報を入手できることを求めており、図書館に行ってゆっくり考えてくださいというのも難しくなっている。それらを踏まえて活字を読むのが困難な人たちに拠点病院や図書館は本を通してどういう情報を提供できるのか考えさせられました、とのコメントがありました。

 埼玉県立がんセンターの城谷法子氏は、図書館でがん相談支援センターを実施したところ大盛況で、病院では出会えない方から相談を受け、専門情報を求めている方には、病院のがん相談支援センターを紹介できましたが、これは図書館と連携することで実現したため、今後は開催頻度を増やしていきたい、とのコメントがありました。

 目黒区立八雲中央図書館の高木潤子氏からは、大橋病院との交流を開始し、目黒区と東邦大学病院との協定に基づき連携の話を進めており、患者や家族に専門的な情報や資料を提供できるような連携を期待している、とのコメントがありました。

 由利本荘市中央図書館(秋田県)の古川淳氏は、がん相談支援センターと連携し、病院内で開催されるがんサロンに図書館職員が参加して、ニーズへの対応を探っている、とのことでした。また、移動文庫では、患者の心のケアに繋がるような闘病記や読み物と、病気に関する専門性の高い資料も提供している、とのコメントがありました。

 東京都の相談支援部会の長谷川尚子氏は、がん相談支援センターの職員の研修、首都圏の横のつながりの研修を通じて相談員の質の担保に取り組んでおり、顔の見える連携を図書館とも進めていきたい、とのコメントがありました。

 ワークショップの最後に、池谷のぞみ教授(慶應義塾大学)からは、公共図書館と病院が連携することで市民に情報が効率的に伝わるとともに、地域で生活する上での安心感を得られないかを考え、5年間に渡ってこのワークショップを開催してきました。首都圏は他の地域と異なり選択肢が多く、市民が抱えている問題も異なるため、地域の事例報告からアイディアを共有できる機会が得られたら、それを第一歩と位置付けて連携を進めればよいと思います。我々は多くの連携事例を紹介できるので、頼りにしていただければありがたい、との挨拶がありました。picture_014.jpg

プログラム

講演内容一覧・資料

主催・協力・後援

【主催】国立がん研究センターがん対策情報センター

【協力】東京都立中央図書館、科学研究費助成事業「市民の健康支援のための価値互酬型
    サービスを支える知識共同体の構築」(池谷班)

【後援】東京都、東京都図書館協会、東京都がん診療連携協議会相談・情報部会、
    日本図書館協会、医療の質に関する研究会(順不同)