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-司書の力を活かし、医療資源と繋がる、地域の情報基地へ-健康医療情報の地域資源としての公共図書館

日時:2019年11月13日(水曜日) 10時から11時30分

場所:パシフィコ横浜

登壇者:

  • パネリスト:井元有里(逗子市立図書館)
  • パネリスト:原有樹(石川県がん安心生活サポートハウス)
  • パネリスト:山本輝子(埼玉県立久喜図書館)
  • パネリスト:原田敦史(堺市立健康福祉プラザ)
  • コーディネーター:田村俊作(慶應義塾大)
  • コーディネーター:八巻知香子(国立がん研究センター)

国立がん研究センターでは、がんをはじめとする健康や医療に関する情報を、生活の中で身近に感じられるような環境づくりを目指して、図書館と医療機関が連携したプロジェクトを進めています。その取り組みをより多くの方々に知っていただくことを目指して、第21回図書館総合展(2019年11月12~14日)において、「健康医療情報の地域資源としての公共図書館」というテーマでフォーラムを開催しました。当日は、全国の公共図書館や医学図書館、病院図書館の職員を中心に、100名を超える方に参加いただき、立ち見の出る盛況となりました。

概要

開会にあたり、国立がん研究センターがん対策情報センターの八巻知香子室長からこのフォーラムの企画意図について紹介がありました。

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2人に1人はがんになる時代となっても、罹患して初めて情報を探し始めることが多いと思われます。全国に400箇所以上のがん診療連携拠点病院があり、がん相談支援センターが設置されていますが、まだ十分に知られていません。他方、公共図書館はよく知られている機関で小さな町村にもあり、人の生死への向き合い方など、医療以外の多様な内容も扱っています。そこで公共図書館とがん相談支援センターがつながり、公共図書館で信頼できるがん情報を提供することで、お互いの強みを生かして、質の高い情報を市民に届けられる環境づくりをしていきたい、そのための一環としてこのフォーラムを企画しました。
これまでの国立がん研究センターがこのテーマに関して行ってきたプロジェクト、そして、市民や法人からの寄付を財源としてがんに関するパンフレットのセットを公共図書館に届ける「がん情報ギフト」プロジェクトの紹介がありました。

次に、図書館情報学・人文情報学がご専門で、本プロジェクトにもご協力いただいている田村俊作名誉教授(慶應義塾大学)の司会・進行のもと、4名の登壇者の方々より、図書館と医療機関の連携の取り組みとその意義についてご紹介いただきました。登壇者は、神奈川県逗子市立図書館、石川県がん安心生活サポートハウス、埼玉県立久喜図書館、大阪府堺市立健康福祉プラザよりお越しいただきました

逗子市立図書館での取り組み

「図書館のもつ資源を活かした健康・医療情報サービス」

発表者:井元有里(逗子市立図書館)

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逗子市は、高齢化率が31%を超えて、様々な課題があります。2014年4月、国立がん研究センターとの連携プロジェクトへの参加と同時期に健康・医療情報コーナーを設置し、医学・医療関連の本や雑誌、国立がん研究センターのパンフレットなどをおいています。このコーナーは周囲に気兼ねなく利用者が本を手に取れるように少し奥まったところに設置したので、別途、入り口の正面にコーナーの認知度を上げるために毎月のテーマ展示や、認知症サポートコーナーを置いています。

2014年からのプロジェクトでは、国立がん研究センターの他、横浜市立大学付属病院、神奈川県立がん相談支援センター、逗子市国保健康課、慶應義塾大学文学部からのメンバーが参加して取り組みを考え、医師の講演会、映画の上映と寸劇の企画などの取り組みを行いました。図書館では、がんにまつわる物語の紹介を幕間ブックトークとしてスライドショーで作成し、また違った形で皆さんに興味・関心を持っていただくことができました。これは次年度につながり、「あるあるカフェ&ミニミニブックトーク」という、検査や健康に関する物語のスライドショーとブックトークのスライドショーを制作したところ大変好評でした。

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さらに、「生と死を考えるコーナー」を新設しました。病院では死に関わるテーマの本や情報を扱うことが難しい場面が多いですが、図書館では多様なテーマの本を扱うことが可能です。市民の生活の場である図書館ならではの強みを活かした試みです。また、図書館内巡りを楽しみながら健康維持もできるよう「逗子市立図書館おさんぽmap」を作成しました。今後も逗子図書館は、プロジェクトへの参加によって連携できた方々や組織との関係を財産にして、実際に医療情報を提供する窓口となるために、地域のがん拠点病院との連携を深めると共に、丁寧に選書を行い、職員の研修も行いながら、地域の資源を資源とするための努力を続けていきたいとい考えています。

「つどい場はなうめ」での取り組み

「つどい場はなうめの司書活動 ~びぶりお・カフェでお気に入りのお話を~」

発表者:原有樹氏(石川県がん安心生活サポートハウス)

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「つどい場はなうめ」は、石川県のがん対策を推進するために石川県済生会金沢病院に委託された事業として、2013年に始まりました。ここでは、看護師に医療相談ができるだけでなく、がんを経験したピアサポーターや患者同士の交流などもできます。図書スペースも設けられ、がんや闘病記だけでなく、死生観や人生観を扱ったものや小説や漫画などもあります。元気がない時でも読みやすいからでしょうか、漫画の闘病記はよく読まれているということでした。

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司書ボランティアとしての活動は、1)図書の分類や書架整理をすること、2)ポップやブックトークによる本の紹介をすること、3)「びぶりお・カフェ」と呼ばれる、図書を使ったイベントを開催することです。「びぶりお・カフェ」は、2018年5月から隔月で開いていて、本を通して体験や思いを語り、聴くことで、世界を広げることを目的にしています。テーマを決めて本を紹介し、それをきっかけに参加者が話を始める形です。『赤毛のアン』、『顔を失くして「私」を見つけた』といった特定の作品をテーマにして関連の著作を紹介したり、「冬にまつわるお話」という形でテーマを設定する場合もあります。参加者は、患者さんやその家族、ピアサポーター、専門員などです。最初に司書がテーマの図書と関連図書を紹介し、その後は参加者同士で会話が弾みます。本の話や病気の話、LGBTの話に及ぶこともあるそうです。症状が優れない時は、淡々とストーリーが進むミステリーを読みたくなるという話も出ました。
「つどい場はなうめ」ではこのように、患者さんとその家族の方々により豊かな生活を送ってもらうために、医療健康情報に限定しないでさまざまな本を手にとってもらう活動もしています。司書の活動はボランティアのため、活動時間が十分とは言えないと感じていますが、今後も活動を続けていきたいと考えています。

埼玉県立久喜図書館での取り組み

「健康・医療情報サービスと障害者サービスの協力によるコーナーづくり」

発表者:山本輝子氏(埼玉県立久喜図書館)

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久喜図書館は、2009年に健康・医療情報コーナーを設置し、病気・治療に関する情報だけでなく、心や生活を支えるような情報、健康でいるための情報など幅広くアクセスできるよう資料をご用意しています。健康・医療に関する約8,800冊の図書と60タイトルの雑誌をご利用いただけるほか、県民の健康・医療情報収集をサポートする冊子『健康・医療情報リサーチガイド@埼玉』も作成し、配布しています。また、ウェブサイトでは各種疾患の調べ方案内や、連携機関や調査に役立つリンク集などもご覧いただけます。

障害者サービスでは、サピエ(視覚障害者を始め、目で文字を読むことが困難な方々に対して、さまざまな情報を点字、音声データで提供するネットワーク)や国立国会図書館を通じて全国の資料を相互利用し提供しています。また、利用者の調査・研究をサポートする対面朗読や、音訳者研修会の定期的な開催を行ってきました。2009年の著作権法の改正で、視覚障害でない方も障害者用資料を利用することが可能になったことより、公共図書館でデイジー(デジタル録音図書)などの資料を提供する意義が高まったと感じます。

2015年に、健康・医療情報、障害者サービス、子ども図書室に関わる3つの担当が連携し、発達障害に関する講演会と資料展示を行いました。1)発達障害関連資料とパスファインダー、支援機関等のパネル展示、2)障害者用資料の展示と体験会、3)子どもが発達障害を知るための本・資料のリストから構成されていました。すると、利用者の方々から大きな反響がありました。3つのサービス担当者が関わったことで、多角的な情報提供ができたことが功を奏したのだと考えられます。

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これを契機に、常設の「見て・聴いて・感じる読書コーナー」を設置するに至りました。コーナーで扱う資料は、3つの担当者がそれぞれの強みを生かして選びました。健康・医療情報からは発達障害関連資料や親の会のパンフレットを、子ども図書室からは布絵本紹介パネルやユニバーサル絵本を、そして障害者サービスはデイジーと原本、LLブック、マルチメディアデイジー等を紹介しています。このコーナーの設置以来、視覚障害者以外の読書が困難な方のサピエへの登録が増加しました。活字が読みにくくても図書館が利用できると思ってもらう第一歩になればと考えています。

 さらに、教員の研修会場での出張展示も実施しました。最近、子ども図書室にも、特別のニーズのある子どもたち向けの本を展示した「りんごの棚」を設けました。今後もこのような多角的なコーナーを作っていけるよう、担当者同士のより一層の連携や、マルチメディアデイジーをより気軽に利用してもらえる機会を増やすことを検討しています。

堺市健康福祉プラザ視覚・聴覚障害者センターでの取り組み

「障害のある方にも命に関わる情報を等しく届けられる社会に向けて」

発表者:原田敦史氏(堺市健康福祉プラザ)

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国立がん研究センターとの連携プロジェクト参加した際には、関係者にも視聴覚障害について広く知ってもらいたい、医療情報提供の仕組みを考えたいと考えていました。それは、前センター長が視覚障害でがんを発症し、専門的な情報を入手できないことを体験したということも関係しています。見えない人が大きな病にかかるということがどういうことなのか。自分自身で情報収集することが難しいため、家族や友人に依存することが多く、書籍から情報を得られる人は少ないのが実情です。点字図書館に登録しているのは、視聴覚障害者の2割弱にとどまっており、情報が届いていない可能性があります。他方で、サピエ(視覚障害者を始め、目で文字を読むことが困難な方々に対して、さまざまな情報を点字、音声データで提供するネットワーク)に医療に関連したタイトル数は多いわけではありません。専門書は金額が高く、読むことができる音読ボランティアも限られています。したがって文学よりも時間がかかります。国立がん研究センター発行の資料を堺市で音声にしていますが、周回遅れになることもあります。

プロジェクトに参加してよかったことは、本来の目的としていた、医療情報をしっかり届けるという目標がある程度実現したことです。堺市の行政がメンバーとして参加していたので、がん検診の音訳・点訳が実現しました。障害に特化した、がん検診の受診体制もできました。視覚障害についてこれまで情報提供をしてこなかったことにも気づき、眼疾患の医療情報を提供するようになりました。また、視聴覚障害者に対して作成した媒体は、潜在的に情報弱者に位置づけられる市民全般にとっても使いやすいものになるということを実感し、著作権がないものについて音声化して提供するようになりました。関連機関と連携することによって、より信頼性の高い媒体を作成できるようになりました。

参加メンバーの堺市立西図書館の眞鍋和子氏より

原田さんが話された、信頼できる情報の作成例としてリーフレットがあります。

特定の疾患についての基礎知識と、国立がん研究センター発行資料や図書館で所蔵する資料の紹介、地域の医療機関や検診など情報を盛り込んでいます。

こうして連携して作成した資料を点訳・音訳し、改訂もしています。障害者フェスティバルへ参加し、がん講座も実施することで、それぞれの専門機関での情報提供に対する理解がすすむと同時に、情報が届きにくい方々への情報提供を互いにカバーし合うことができています。

 

最後に、司会の田村氏から今回の登壇者の方々に、「司書の強みを生かしながらどのように健康医療情報に取り組めばいいと考えるか」という質問が投げかけられました。それぞれの立場から、最初は苦手だったが、専門家の方々とのお話の中で出てきた話を選書会議などで共有しながら、しだいに司書の強みを生かすことができた(逗子市立図書館・井元氏)、医療情報コーナーを設置した時に、その脇にあった写真集を借りる方がいらっしゃる。求められているのはいわゆる医療情報だけではないということがわかる(埼玉県立久喜図書館・山本氏)、病院では扱いにくい心理面や、死生観に関する本を紹介できるのが強みであると感じている(石川県がん安心生活サポートハウス・原氏)、前センター長は「情報は命」と言っていたが、視聴覚障害者は知りたい時にそれを知ることができないということがあり、公共図書館が視聴覚障害者にとってもさらに広く利用ができるようになることが重要である(堺市健康福祉プラザ・原田氏)との指摘がありました。

司会の田村氏より、それぞれの図書館で、多様な人が来ることを踏まえて、その人たちの求めているものに沿うにはどのような形で何を提供するのがいいのかを常に考えて活動されているということがよく分かり、図書館からこうしたことを医療関係者とも共有していくことが連携を進めていくうえで大事になると述べられ、盛会のうちにフォーラムが終了しました。

プログラム

健康医療情報の地域資源としての公共図書館~司書の力を活かし、医療資源と繋がる、地域の情報基地へ(PDF:703KB)

講演内容一覧・資料

主催・後援・協力・協賛

【主催/企画】国立がん研究センターがん対策情報センター

【後援】公益財団法人 正力厚生会

【協力】文部科学省研究費補助金「市民の健康支援のための価値互酬型サービスを支える知識共同体の構築」研究班(研究代表者:池谷のぞみ)