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子宮の肉腫(しきゅうのにくしゅ)

更新日 : 2024年1月22日

公開日:2014年4月28日

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お知らせ

第21回 子宮肉腫ならびに子宮癌肉腫に対する薬物療法−標準薬物療法と今後期待される薬物療法− 「オンライン 希少がん Meet the Expert」

(収録日:2023年8月10日)

「オンライン 希少がん Meet the Expert」【第21回  子宮肉腫ならびに子宮癌肉腫に対する薬物療法-標準薬物療法と今後期待される薬物療法-】を一部動画公開しました。

「オンライン 希少がん Meet the Expert」【第1回 子宮肉腫の診断と外科治療】を一部動画公開しました。

よく受けるご質問に対するお答え

質問1.筋腫の経過観察をしていたら「肉腫の可能性がある」と言われました。どういうことでしょうか?

回答1.子宮肉腫は術前診断が難しいため、画像などを手掛かりにして判断します。閉経後に急速に増大する筋腫、MRIで不均一なパターンを示す筋腫などは肉腫を強く疑う所見です。針生検などにより手術をせずに肉腫かどうか診断することもありますが、一般的ではないですし確実性に欠けます。現時点では肉腫を疑ったら子宮摘出を行うのが最も確実な診断・治療手段です。

質問2.まだ30代ですが、筋腫の手術を受けたら「肉腫でした」と言われました。
追加手術を勧められましたが、卵巣やリンパ節を追加でとったほうがよいのでしょうか?

回答2.以下の記載にあるように、子宮肉腫は手術後に診断がつくことが多いために、このような事態が起こります。追加手術については肉腫の種類によります。
がん肉腫では高悪性度の子宮体がんに準じた治療を行うため、付属器(卵巣卵管)の切除もリンパ節郭清(または生検)も必須です。
平滑筋肉腫の場合、標準治療は子宮と付属器の切除ですが、卵巣摘出が予後に影響しないという報告も多数あります。従って再開腹で付属器切除を行う必要性は低いと考えられています。リンパ節転移も6%から11%と低率とされ、むしろ血行性転移(肺や肝臓など)の方が重要です。そのためリンパ節郭清の必要性も低いとされています。
LG-ESS(低悪性度の子宮内膜間質肉腫)では若年者の発症が多く、付属器切除が再発や生存に差をもたらさないという報告もあるため温存を勧める施設もあります。しかし「付属器切除の有無が予後に影響する」という報告も多く、「術後にLG-ESSと判明して付属器切除を追加しなかったところ再発し、紹介となった」という患者さんは珍しくありません。そこで当センターでは基本的に再手術による付属器切除の追加をお勧めしています。
リンパ節転移については9%から33%と報告されていることから組織検査は必要ですが、リンパ節郭清が予後に関係しないという報告もあること、ホルモン療法が有効なことなどから生検にとどめる施設が多いです。
UES(未分化子宮内膜肉腫)は症例数が少なすぎて追加手術の意義に関する十分な知見がありませんので、個々のケースで検討すべきです。
なお、腹腔鏡手術で子宮筋腫を細かく砕いて摘出した後に平滑筋肉腫あるいはLG-ESSと診断された場合は腹腔内に再発(播種)をきたすことが多いと報告されています。このような場合には再開腹して残存腫瘍がないか十分に確認しておくほうがよいと考えます。

質問3.子宮の肉腫と診断され、術後の化学療法(または放射線治療)を勧められました。必要でしょうか?

回答3.術後の化学療法の必要性も肉腫の種類によって異なります。がん肉腫では術後補助化学療法の有効性はほぼ確立しています。術後照射の意義については未だ不明です。化学療法のレジメンについては施設によって違いがあるかもしれません。多施設共同の臨床試験を行っている病院もあるので、よく確認しましょう。
平滑筋肉腫に対する術後補助化学療法が有効だったという報告もありますが、がん肉腫を含む臨床試験だったり単施設での検討だったりで、十分に根拠があるとはいえません。海外で臨床試験が進行中ですが、現時点では術後補助化学療法が有用と断言できないことから当センターでは補助化学療法を行っていません。明らかな残存病変がある場合か、再発した場合に化学療法を行います。術後照射も有効性が確立していません。
LG-ESSでは完全摘出後の術後補助療法は不要とされています。化学療法の有効性も不明で、進行例ではホルモン療法を行うことが多いです。UESは非常にまれです。ホルモン療法は推奨できず、化学療法を行うことになりますが、有効なレジメンとして確立したものはありません。ESSも術後照射の有効性は確立していません。

質問4.「子宮の肉腫だと思うが、当院では治療経験がほとんどない。どこか専門の病院を受診してください」と言われてしまいました。どうしたらいいでしょうか?

回答4.子宮肉腫は非常にまれな疾患ですが、子宮筋腫や腺筋症と区別がつかずに治療されることも多いです。そのために一般の産婦人科で子宮をとってからはじめて問題になることも珍しくありません。その場合、婦人科腫瘍専門医という資格をもった医師がいれば適切な治療を選択してもらえる可能性が高いですが、専門医がいない場合はセカンドオピニオンなり転院なりで情報を集めた方がよいと考えます。
また病理診断が非常に重要です。不安があるときは病理相談だけでも受けて、診断名が妥当かどうか確認するべきでしょう。
当センターは病理相談だけでも対応可能です。随時受け付けておりますので、ご連絡ください。

質問5.外陰の肉腫といわれた。ネットや本で調べようとしても何も情報がない。どうしたらいいでしょうか?

回答5.婦人科で扱っている肉腫の中で子宮体部以外、すなわち腟や外陰、子宮頸部、卵巣の肉腫は極めてまれです。そのため、個々の状況に対して情報提供するのが妥当だと考えます。

子宮肉腫について

婦人科領域の肉腫は珍しい疾患ですが、子宮体部に多く見られ、腟や外陰、卵巣など子宮体部以外から発生する肉腫は極めてまれです。WHOから2020年に発刊された国際分類では、がん肉腫が子宮体がんに組み込まれました。その結果、子宮肉腫の組織型は平滑筋肉腫、内膜間質肉腫(低異型度と高異型度)、未分化子宮肉腫、横紋筋肉腫などに分けられます。かなりまれなものとして腺肉腫というものもあります。
日本産科婦人科学会の婦人科腫瘍委員会による登録では、2019年に治療を開始した子宮肉腫は476例で、うち平滑筋肉腫243例、次いで低異型度子宮内膜間質肉腫の95例の順でした。他に子宮肉腫とは別カテゴリーで、子宮腺肉腫が43例登録されていました。

がん肉腫

がん肉腫は、腫瘍病態的に子宮体がんと類似した腫瘍であると考えられており、国内外の治療ガイドラインには「子宮体がんの高悪性度と同様に治療するべし」と記載されています。全体の50%生存期間(mOS)は28カ月と未だ予後不良な疾患で、化学療法(抗がん剤)の選択や再発時の治療などについてもこれからさらに研究が必要です。

平滑筋肉腫

残念ながら未だ予後不良な疾患です。厚生労働省の報告ではI期からIV期までまとめた50%生存期間(mOS)が31カ月でした。ノルウェーの報告でもI期で8年、II期で4年、III期で2年、IV期で1年と不良です。術前診断は難しく、「子宮筋腫」として治療され、子宮摘出または筋腫摘出によりはじめて診断がつくことも少なくありません。病理組織をみても悪性とも良性とも断言できない「悪性度不明な平滑筋腫瘍(STUMP)」という診断になることもあります。I期の患者さんでも約半数が再発します。再発予防として術後化学療法を行う試みもありますが、現時点で十分な根拠をもって「術後の再発予防に貢献している」と断言できる抗がん剤はありません。放射線治療も再発抑制に寄与しないことがほぼ明らかになっています。そのため、当センターでは肉眼的に病変が残っていないと考えられる患者さんに対しては術後治療を行わずに経過観察し、再発が確認できた時点で治療開始するようにしています。

子宮平滑筋肉腫と変性した子宮筋腫

  • 子宮平滑筋肉腫
  • 変性した子宮筋腫

左の写真が変性筋腫(良性)で、右の写真が平滑筋肉腫(悪性)です。
素人目にはあまり違いがないようにみえます。
画像診断でこれらを見分けるには経験が必要です。

子宮内膜間質肉腫

子宮内膜間質肉腫はかつて低悪性度(LG-ESS)と高悪性度に分類されていました。しかし高悪性度間質肉腫は子宮内膜間質との類似性が必ずしも認められないとの理由で、現行のWHO分類では未分化子宮内膜肉腫(UES)と呼んでいます。LG-ESSは比較的予後良好で、mOSが76カ月と報告されています。UESは非常に予後不良であるため、国内外のガイドラインではLG-ESSとUESを別項目にして記載しています。LG-ESSも平滑筋肉腫と同様に術前診断は難しく、筋腫や腺筋症として摘出した標本ではじめて診断されることが多くあります。ときには摘出標本でも変性筋腫などと誤られ、再発したときに見直してはじめてLG-ESSであると診断される場合もあります。エストロゲンやプロゲステロンの受容体を発現していることが多く、ホルモン療法が有効です。この点が他の子宮肉腫と大きく異なる点で、再発してもホルモン治療で長期生存を見込めることも少なくありません。

子宮内膜間質肉腫

子宮内膜間質肉腫画像

子宮の内膜側に盛り上がっている黄色い腫瘍の部分です。
周りの正常子宮内膜(クリーム色の部分)との区別がつきづらいかもしれません。

子宮肉腫の進行期分類

がん肉腫

がん情報サービス 子宮体がん(子宮内膜がん)(がん情報サービスへリンクします)を参照してください。

平滑筋肉腫および子宮内膜間質肉腫 FIGO分類

FIGO分類
  • I期 腫瘍が子宮に限局するもの
    IA期 腫瘍サイズが5センチメートル以下のもの
    IB期 腫瘍サイズが5センチメートルを超えるもの
  • II期 腫瘍が骨盤腔に及ぶもの
    IIA期 付属器浸潤があるもの
    IIB期 その他の骨盤内組織へ浸潤するもの
  • III期 腫瘍が骨盤外へ進展するもの
    IIIA期 1部位
    IIIB期 2部位以上
    IIIC期 骨盤リンパ節ならびに・あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの
  • IVA期 膀胱粘膜ならびに・あるいは直腸粘膜に浸潤のあるもの
  • IVB期 遠隔転移のあるもの

症状について

子宮肉腫で自覚できる症状としては出血があげられますが、他の病気でもあらわれる症状であるため、出血があるからといって必ずしも肉腫であるとの判断はできません。異常がみられたら早めに受診することが大切です。

診断について

婦人科領域の肉腫では組織診断によって治療方針が異なります。組織診断が極めて重要です。ところが肉腫の病理の専門家も婦人科病理の専門家も日本には少ないため、同じ標本をみても施設によって診断が異なることも起こりえます。肉腫の診断で他院を受診する場合は、必ず病理標本(プレパラート)を一緒に借りて病理診断から再検討する必要があります。「子宮肉腫について」でも説明されているとおり、診断が難しいことが多くありますが、正しい診断が治療の第一歩となります。なかなか診断がつかない場合などは、がんの専門病院の診察を受けることが望まれます。

治療について

肉腫の種類や病期などにより選択肢は異なりますが、手術や薬物治療(抗がん剤、ホルモン剤)を行います。ただ、婦人科の肉腫は希少であるために症例が少なく、治療法が十分に確立されていないのが現状です。予後不良や再発率の高さ、妊孕性(にんようせい)温存の可否といった要因もあるため、医師とよく相談し、納得できる治療方法を選択することが大切です。

「子宮体がん治療ガイドライン2013年版」から肉腫の治療フローチャートを示します。

子宮がん肉腫の治療フローチャート

子宮がん肉腫の治療フローチャート画像

子宮肉腫の治療フローチャート

子宮肉腫の治療フローチャート画像

希少がんリーフレット

子宮の肉腫 

執筆協力者

加藤 友康
  • 加藤 友康(かとう ともやす)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 婦人腫瘍科