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キーワード:小児、脳腫瘍、髄芽腫、遺伝子、小児がん小児脳腫瘍はどのようにして発生するのか 髄芽腫において新規の遺伝子異常を発見

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脳腫瘍は小児の病気による死因で最も多い疾患である。小児悪性脳腫瘍で最も悪性で頻度が高い疾患は髄芽腫とよばれる腫瘍であり、完治させることが難しい。髄芽腫はこれまでの研究でWNT, SHH, Group 3, Group 4の4つのサブグループが存在し、それぞれのサブグループは異なった特徴を持っていることがわかっていた。WNT, SHHのサブグループでは特徴的な遺伝子異常により発生することが明らかになっているのに対し、髄芽腫の約60%を占めるGroup 3とGroup 4 (Group 3/4)についてはその発症機序が解明されていなかった。

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治療を開発・発展させるにはなぜ病気が生じるか「原因」を明らかにすることが重要である。今回、髄芽腫の遺伝子異常を同定することでその「原因」にたどり着くができた(Liam, et al., Nature, 2022)。我々はGroup 3/4の髄芽腫、合計545症例のシークエンスデータに対し、解析手法を工夫することで、新たにCBFA2T2CBFA2T3 (CBFA2T2/3)の2つの遺伝子に異常が生じていることを発見した。これまで、CBFA2T2/3の遺伝子異常ががんに関与するという報告はなく、その機能を追究した。CBFA2T2/3は細胞内でどのタンパク質に作用しているかを調べると、PRDM6とKDM6Aと相互作用していることがわかった。PRDM6KDM6Aはこれまで髄芽腫で異常が生じていることが報告されており、ここで話がつながることになる。Group 3/4の髄芽腫はCBFA複合体 (CBFA2T2/3, PRDM6, KDM6A)に異常が生じることで腫瘍が発生しているのではないかと考えられた。

様々な小児の脳腫瘍は脳の発達と強く関わっていることが報告されている。そこで、発達段階の小脳のどこでCBFA2T2/3が発現しているのか調べたところ、菱脳唇(Rhombic Lip)の脳室下帯(RLsvz)で強く発現していることがわかった。一細胞レベルでの遺伝子発現を行い髄芽腫と発達脳の細胞を比較すると、Group 3/4髄芽腫はRLsvzの細胞と非常に酷似していることがわかった。Group 3の髄芽腫はRVsvzの細胞でもより初期の細胞に、Group 4の髄芽腫はより分化した細胞に似ていた。さらに、Group 3髄芽腫の細胞株でドライバー遺伝子であるOTX2をノックダウンすると、正常細胞を模倣するように分化し、その過程でCBFA2T2/3の遺伝子発現が一時的に上昇することがわかった。これらのことからGroup 3/4髄芽腫はRVsvzが起源細胞と考えられ、その起源細胞の発達段階に対応した遺伝子の異常が生じることで発生していると考えられた。
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RVsvzの細胞は正常であれば神経に分化し、出生時には消失している細胞である。遺伝子異常により、分化が停止してしまい出生後も異常細胞として残存、異常細胞が年月をかけて髄芽腫へと発展していくことが考えられた。CBFA2T2/3の異常の発見を機に、これまで発症メカニズムがまったく不明であった、Group 3/4髄芽腫の発症メカニズムが明らかになった。RVsvzの異常細胞の残存の有無がスクリーニングにより可能となれば予防的治療につながるし、分化を誘導することができるようになれば治療薬の開発に繋がる。今後の治療発展に期待がでてきた。
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研究者について

脳腫瘍連携研究分野 分野長 鈴木 啓道

プレスリリース

小児悪性脳腫瘍において新規の遺伝子異常を発見 発症メカニズム未解明の髄芽腫の治療開発に向けた基礎研究の大きな一歩 Nature誌に論文発表(2022年9月27日)

キーワード

小児、脳腫瘍、髄芽腫、遺伝子、小児がん