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キーワード:肺がん, 喫煙, たばこ, 遺伝子非喫煙者肺がんのリスクに関わる遺伝子の個人差を同定

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肺がんはがん死因の一位であり、日本では年間に約7 万6 千人(国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)より)、全世界では約180 万人(世界保健機関, Fact Sheets, Cancer の章より)の死をもたらしています。肺がんの中でも最も頻度が高く、増加傾向にあるのが肺腺がんです。肺腺がんの発生は、喫煙との関連がそれほど強くなく(相対危険度は約2 倍)、約半数を非喫煙者が占めます。そのため、罹患危険群の把握や発症予防は容易ではありません。そこで現在、喫煙以外の危険因子の同定とそれに基づく罹患危険度の診断法が求められています。特に生活習慣・環境要因などの民族的要因を含むグローバルな研究、すなわち、様々な国の患者さんの特徴を比較する国際共同研究に期待が集まっています。そこで、私たちは、2017年に国立がん研究センター、理化学研究所、東京大学医科学研究所、京都大学、愛知県がんセンターが中心となる日本肺がんコンソーシアムを設立し、様々な国際共同研究に参画しています。

例えば、当コンソーシアムはInternational Lung Cancer Consortium (ILLCO) の国際共同研究に日本代表として参画し、アジア、欧州、北米、南米にわたる様々な大規模研究を進めています。その一つとして、「診断前の1-3 年と短い禁煙期間でも非小細胞肺がん患者の全生存期間が延長する」という結果が得られ、禁煙が発症予防だけでなく、生存予後の改善にも寄与することを今年発表しました(Fares et al., Lancet Public Health. 2023)。

また米国国立がん研究所(NCI) が主導するFLCCA 研究(Female Lung Cancer Consortium in Asia)に参画し、日本人を含むアジア人の肺腺がん患者約2 万例と肺がんに罹患していない人約15 万例について全ゲノム関連解析(GWAS : genome – wide association study)を行い、遺伝子の個人差(遺伝子多型)の分布に差があるかどうか調べました。その結果、日本人を含めたアジア人における肺腺がんリスクを決める28個の遺伝子多型を同定し、アジア人のリスク多型の多くは欧米人と異なることを示しました。さらに、アジア人非喫煙者の肺腺がんリスクは、喫煙者と比べて、より遺伝子多型による影響が大きいことを報告しました (Shi*,Shiraishi * et al., Nature Communications 2023,*共筆頭著者)(図1)。一方で、日本人の肺腺がん患者約1 万7 千例を対象としたGWAS を行い、肺腺がんリスクと関連する遺伝子多型を同定するとともに、それらの遺伝子多型は、アジア人によくみられるEGFR遺伝子変異を伴う肺腺がんリスクと強く関連することを報告しました(Shiraishi et al., Nature Communications 2023)(図2)。また、治療標的となる新たな遺伝子変異の探索や効果的な予防・早期発見の手法の開発につなげるべく研究を進めています。

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図1. 非喫煙者に多いEGFR変異肺腺がんへのかかりやすさを解明 肺腺がんの予防・早期発見にむけた手がかりとして期待

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図2. 肺腺がんリスクを決める遺伝子の個人差を同定 非喫煙者の肺腺がんリスクの予測に期待

(注) 本研究では、喫煙による相対リスク(約2倍)は考慮されておらず、遺伝子の個人差による違いのみを評価しています。そのため、喫煙歴の有無などの環境因子を考慮した場合、喫煙者の方が非喫煙者に比べて肺腺がんリスクは上昇します。

この場を借りまして、本研究プロジェクトに参画して頂いた先生方やスタッフの皆様並びに、NCC バイオバンクに試料提供を頂いた患者さんに深く感謝申し上げます。当分野には、国立がん研究センターや様々な大学の病院から、呼吸器、婦人科、消化器など異なる専門性を持った若手医師や大学院生が参集し、次のがんゲノム医療の中核となるべく研鑽を積まれています。我も、という方、御参加をお待ちします。引き続き、ご支援のほど、よろしくお願いいたします。

プレスリリース

研究者について

ゲノム生物学研究分野 ユニット長・臨床ゲノム解析部門 部門長 白石航也

キーワード

肺がん, 喫煙, たばこ, 遺伝子