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RNAとは?【がんRNA研究ユニット】

RNAとは?

呼吸をして酸素を取り込む、食事をして栄養を吸収する、怪我が治るなど私たちが常日頃経験する当たり前の現象の裏側には、様々な機能を持つ多種多様な細胞が働いています。正確な数は現在でも明らかではありませんが、私たちの体は数十兆個もの細胞から構成されていると推計されています。膨大な数の細胞が互いに協調しながら個々の機能を発揮することで、私たちが当たり前だと思っている体の活動を支えています。では、細胞はどのように互いに協調し、機能を発揮するのでしょうか?

細胞の機能に中心的に役割を果たすのが、タンパク質です。タンパク質は酵素として生化学反応を触媒したり、細胞内・細胞間の情報伝達を行ったり、細胞の構造を維持したりと細胞が活動を行うにはなくてはならないものです。そして、どのようなタンパク質をつくるかといった情報が、DNA(デオキシリボ核酸)に保持され遺伝子として親から子へと受け継がれています。DNAに保持されたタンパク質の情報は、RNA(リボ核酸)を介してタンパク質となります。RNAには様々な種類があり、タンパク質の情報を保持するだけでなく、タンパク質の産生に関わったり、産生するタンパク質の量を調整したりしています。細胞を取り巻く環境に応じて、RNAを介した産生するタンパク質の種類と量の調整により、細胞はその機能を果たしています。

 

 RNAの分類と機能

RNAはタンパク質をコードするmessenger RNA(mRNA)とタンパク質をコードしていないnon-coding RNA(ncRNA)に大別されます。mRNAはDNAに保持されている遺伝情報のコピーであり、リボソームで翻訳されタンパク質が合成されます。ncRNA の分類方法は様々ですが、ここでは一例をお示しします(図1)。

RNA_classification.JPG

ncRNAは機能で分類するとhousekeeping/infrastructural ncRNAとregulatory ncRNAに分類することができます。

  • housekeeping ncRNA
    恒常的に発現し転写・翻訳に関わるhousekeeping ncRNAにはtransfer RNA (tRNA)、ribosomal RNA(rRNA)、small nuclear RNAs (snRNA)、small nucleolar RNA (snoRNA)が含まれます。
  • Regulatory ncRNA
    Regulatory ncRNAはサイズでさらに細分類でき、一般に200 nt以上のものをlong non-coding RNA(lncRNA)、200 nt未満のものをshort/small ncRNAといいます。short ncRNAにはmicroRNA (miRNA), PIWI-interacting RNA (piRNA), transfer RNA-derived small RNA (tsRNA)などが含まれます。
    この他にも、様々な種類のRNAが報告されています。

 

tRNA

mRNAが保有する遺伝子情報を塩基配列からタンパク質のアミノ酸配列へ変換する翻訳の役割を果たしています。tRNAの二次構造はクローバーの葉のような形状をとり、アンチコドンアームにmRNAのコドンに対応する配列を持ち、3’末端にはCCA配列がありアミノ酸が結合します(図2)。
tRNA.JPG

rRNA

タンパク合成の場であるリボソームを構成するRNAです。触媒活性を有し、タンパク質合成に関わっています。

snRNA

スプライシングを行うスプライソソームを構成するRNAです。スプライソソームは主にU1、U2、U4、U5、U6 snRNAの5種類のsnRNAとタンパク質で構成されています。

snoRNA

タンパク質と複合体を形成し、主にrRNAの修飾や成熟に関わっています。2’-O-メチル化を行うC/D box snoRNAとシュードウリジン化を行うH/ACA box snoRNAの2種類に分けられます。2’-O-メチル化やシュードウリジン化のターゲットとなるRNAはrRNAのみと考えられていましたが、近年ではsnRNAやmRNAもターゲットとなることが報告されています。

 lncRNA

機能が未知のものが多いですが、クロマチン修飾や遺伝子発現制御など多様な機能を有しているとされています。

miRNA

ターゲットとなるmRNAと結合し、転写後の遺伝子発現の調整に関わっています。主にターゲットとなるmRNAの3’UTRに結合しmRNAの分解、翻訳の抑制を行っているとされますが、3’UTR 以外の5’UTRやプロモーター領域などにも結合することができ、機能としても翻訳抑制のほか、転写の促進・抑制を行っていることが報告されています。

piRNA

トランスポゾンの切断と不活化に関わっています。トランスポゾンは動く遺伝子とも呼ばれ、ゲノムの様々な部位に転移することで遺伝子に多様性をもたらし生命の進化を促してきたと考えられていますが、トランスポゾンの活性は子孫に正確な遺伝情報を受け渡す側面では負の影響があるため、生殖細胞ではpiRNAによりトランスポゾンの活性が制御されています。

tsRNA

tRNAが特定のヌクレアーゼによって分解され生じるnc RNAです。tsRNAはその由来によって分類されています。tRNA-derived fragments (tRFs)と tRNA halves (tiRNAs)の2種類に大別され、tRFsはさらにtRF-1、tRF-2、tRF-3、tRF-5、i-tRFなどに細分類されます。tiRNAsは 5'-tiRNAと 3'-tiRNAに細分類されます。アポトーシスの抑制や細胞増殖、遺伝子発現制御、RNAプロセシングなどの様々な生物学的プロセスに関わると報告されています。

 

RNAとがん

細胞の分化が主に転写因子によって制御されているように、個々の細胞種を特徴づける遺伝子発現がその細胞種たらしめるといっても過言ではありません。正常な細胞は転写因子、クロマチン構造、DNAメチル化や細胞外の周囲の環境からのシグナルにより、その細胞種に特徴的な遺伝子発現が制御されることにより、その機能を果たしています。しかし、がん細胞では遺伝子異常により、直接的あるいは間接的に遺伝子発現に異常をきたすことが知られています。遺伝子発現の本体としてのmRNAに加え、遺伝情報を保持しないmiRNAやlncRNAなどのncRNAも遺伝子発現制御やその他の生物学的プロセスに関与することが近年明らかになってきました。がんの発生・進展において、遺伝子異常およびエピジェネティック異常に加えて、様々なRNAレベルでの異常が重要な役割を果たしていると考えられています(図3)。このことから、RNAを起点としたバイオマーカー、治療標的の探索が国内外で精力的に研究されています。

RNA_and_Cancer.JPG 

なかでも、がんとRNAスプライシング異常の密接な関係が最新の研究で浮かび上がってきました。真核生物の遺伝子発現ではDNAからpre-mRNAが転写され、イントロンと呼ばれる塩基配列を除去し、成熟mRNAが産生されます。このpre-mRNAからイントロンが除去される過程をスプラインシングと呼びます。スプライシングにより1つの遺伝子から複数のmRNA(splicing isoform)を産生することができるため、タンパク質の情報を保持するヒトの遺伝子は約2万個にもかかわらず、10万種以上と推計されるタンパク質を産生していると考えられています。次世代シーケンサーを用いたゲノム解析により骨髄系腫瘍をはじめとした様々ながん種でスプライシング因子に変異が認められることが報告され、“RNAスプライシング異常”が発がんに至るメカニズムが明らかとされてきました。しかし、がんにおけるRNAスプライシング異常の研究ははじまったばかりで、RNAスプライシング異常がどのようにがんの発生・進展に関わるのかまだまだわかっていないことが多いのが現状です。
私たちの研究室では最新の分子生物学的手法を駆使して、がん生物学における新たなフロンティアである“RNAスプライシング異常”を切り口に、がんの制圧に挑戦しています。

がんのRNAスプライシング異常に取り組む「がんRNA研究ユニット」のウェブサイトは  →  こちら