トップページ > 各部紹介 > がん情報提供部 > プロジェクト > がん情報普及のための医療・福祉・図書館の連携プロジェクト > いつでも、どこでも、だれでもが、がんの情報を得られる地域づくりの第一歩(in 札幌)

いつでも、どこでも、だれでもが、がんの情報を得られる地域づくりの第一歩(in 札幌)

日時:2019年9月5日(木曜日)13時30分から17時30分
場所:札幌市教育文化会館研修室403

国立がん研究センターでは、がんをはじめとする健康や医療に関する情報を、生活の中で身近に感じられるような環境づくりを目指して、図書館と医療機関が連携したプロジェクトを進めています。その取り組みの一環として、九州・沖縄地区、東北地区、中部地区、広島地区での開催に引き続き、札幌市にて、北海道地区の公立図書館とがん支援センターの新たな連携や活動状況を広く紹介し、各地域での住民を対象にした医療・健康情報の連携に係る課題等について話し合う場を設け、取り組みをさらに推進する集まりが開催されました。

概要

sapporo1.JPG開会にあたり、北海道立図書館の岩渕隆館長よりご挨拶をいただきました。
図書館とがん相談支援センターの連携ワークショップは、昨年の北海道図書館大会に合わせて開催予定でしたが、1年前の9月6日未明に発生した北海道胆振東部地震の影響により中止となり、あらためて本日開催の運びとなりました。かつてがんは不治の病といわれていましたが、いまや二人に一人ががんになる時代となり、医学の進歩、生活習慣の改善、検診等による早期発見により治療が可能な病気です。北海道でも平成24年に推進条例、平成30年には3期目となる北海道がん対策推進計画を策定して、がん対策の充実に努めてきました。この計画では、保健、医療、福祉、教育の関係者が一体となってがん対策を計画的総合的に推進し、がんに負けない社会の構築を目指しています。北海道立図書館としては、国立がん研究センターがん対策情報センターとの連携ワークショップについて図書館を通じて多くの道民にがんについての情報に触れて理解を深める機会としていただければとのことでした。

次に、国立がん研究センターがん対策情報センター長の若尾文彦氏より、開会の挨拶がありました。このワークショップは国立がん研究センターがん対策情報センターと池谷のぞみ教授(慶應義塾大学)のsapporo2.JPG文部科学省研究費により実施している研究班との共催で、北海道立図書館の協力により開催しています。がんはもはや不治の病でなくなり、5年生存率は6割を超えていますが、多くの国民は今なお不治の病とのイメージを持っており、がんの告知を受けて頭が真っ白になり正しい判断ができなくなるという方が多い状況です。国立がん研究センターではWebサイト「がん情報サービス」を開設するとともにがんの冊子を作成してがんに関する情報を発信していますが、まだまだ知られていません。全国に436カ所、北海道内22カ所のがん診療連携拠点病院とがん診療病院を指定されており、そこにはがん相談支援センターという窓口があり、その病院にかかっていない人も含めてだれでも相談できます。ところが、相談支援センターにたどり着く人が少ない一方で、インターネットや本、テレビなどには科学的根拠のない医療情報があふれており、がんと診断され不安を抱く患者が多額の費用を費やして誤った治療を受け、正しい治療にたどり着くまでに時間がかかってしまい命を縮めてしまうという不幸な事例も後を絶たない状況です。全国に3,000以上ある公共図書館は病院のがん相談支援センターと比較して一般の方が立ち寄りやすい情報提供場所であるため、公共図書館からがんの正しい情報を伝えていただくことで、間違った情報にたどり着いてしまう人を減らすことができると考えています。本日は北海道で図書館と病院と地域をうまくつなげる事例を皆さま方に共有していただき、これから多くの道民の方に正しい情報を伝えるための学びの機会になればと思います。ワークショップを通じてお互いにWin Win の関係を作っていただければ、主催者としてうれしい限りですとのことでした。

sapporo3.JPGsapporo4.JPG最後に、田村俊作名誉教授(慶應義塾大学)から「図書館側から見た連携の意義」というテーマで、医療者の方に公共図書館と連携するとどんなメリットがあるのかについて具体例の紹介があり、八巻知香子室長(国立がん研究センターがん対策情報センター)からは「北海道での図書館とがん相談支援センター連携プロジェクトについて」というテーマで、これまでの取り組みの経緯についての紹介がありました。その後、各地での事例報告に移りました。

日高地域での取り組み

「日高地域での取り組み『小さな町での第一歩』浦河町立図書館での試み」
発表者:藤田美穂氏(浦河町立図書館)
  
sapporo5.JPG日高地域には病院はありますが拠点病院やがん相談支援センターはなく、最も近い拠点病院は苫小牧です。これまでの取り組みは、(1)移動図書館車「うらら号」での貸し出し開始、(2)平成27年11月13日に「第1回日高がん情報講座」を開催し、近隣住民80名が参加、(3)平成27年11月に図書館内に「がん情報コーナー」を開設、(4)平成29年2月11日に「第2回がん情報講座」を開催、平成29年4月から日赤病院内に「図書返却ポスト」を開設、(6)平成30年3月に「がん情報リーフレット作成」、(7)令和元年8月には、Web協働選書プロジェクトと国立がん研究センターがん対策情報センターによる公共図書館向け展示キット「身近にがんを考える」の展示を実施しました。今後は、がん情報コーナーを充実させ、ブックリストを更新していくとともに、病院との連携を進めるなど、町民の医療情報入手を支援する取り組みを続けていきたいと考えています、との報告がありました。


「日高地域での取り組み『小さな町での第一歩』行政の立場から」
発表者:盛美穂子氏(浦河町保健福祉課)

sapporo6.JPG日高管内でのがん検診受診状況を日本全国および全道と比較しておおむね低いことが紹介されました。がん検診などの情報提供のために、Web上に「健康カレンダーがん日程ページ」を開設し、新聞折り込みのチラシを作り、PR用ののぼりを活用し、令和元年には健康づくり週間ポスター「受けようがん検診」を作成してイベント時に配布をしたり、飲食店でチラシ入りのティッシュを配布したりして、PR用のたすきも活用しています。図書館と国立がん研究センターがん対策情報センター連携ワークショップでの取り組みでは、地域住民に正確ながん情報を提供し、不安や悩みを相談につなぐ窓口を普及させるべく、住民に身近な図書館や町がつなぐ窓口となり、専門的な機関につなぐ仕組みをつくることで、住み慣れた地域で安心して療養できるような情報提供と支援体制の充実につなげていきます、とのことでした。

苫小牧市での取り組み

「医学講座をきっかけに生まれた新たなネットワーク」
発表者:吉見裕美氏(苫小牧市立中央図書館 指定管理者TRC苫小牧グループ 前館長、現在は(株)図書館流通センター エリアマネージャー)
深田美彦氏(王子総合病院 地域医療支援部 がん相談支援室 MSW)

sapporo7.JPG連携のきっかけは、王子総合病院の岩井和浩副院長が、2015年に浦河図書館にて開催された「第1回 日高がん情報講座」に講師として招聘されたことでした。岩井副院長は公立図書館が、がん啓蒙に対する市民に有益な情報提供を提供する場として有用であると認識し、苫小牧市立中央図書館に打診。苫小牧市での「市民のための医学講座」開催が始まりました。
苫小牧市の連携の特徴は、王子総合病院(私立)・苫小牧市立病院(市立)・苫小牧市立中央図書館の三者共催による講演会を実施していること、毎年講師と共催者を広げて市内全体の取組へと拡大していること、市内でためて市内で使える地域通貨「とまチョップポイント」を参加者に付与していることです。これまでに3回開催した「市民のための医学講座」の参加者は女性比率が高く60代と70代が中心でした。参加者のアンケート調査結果では、高い満足度を得ています。図書館単独ではなく、病院と共催して講座を開設することで、市民に正確かつ有益な情報提供を行うことができました、また、異業種による緩やかな連携・協力が可能になり、事業等を周知する機会が増えました、との報告がありました。

函館市での取り組み

函館市中央図書館「がん情報コーナー」について
発表者:佐藤友香氏(函館市中央図書館)
 
sapporo8.JPG2018年4月に開設した「がん情報コーナー」について写真で紹介されました。函館市中央図書館は2005年に開館して以来今年で14年になり、道内で2番目に大きい公共図書館です。がん研究センターがん対策情報センターから図書館と医療の連携の大切さとがんギフトを紹介されたのを受けて、がんについての本、雑誌、リーフレット等を置いています。書架は大人の目の高さで、がん情報ギフトのロゴを使っています。1段目には図書館の本を20冊程度置き、手に取りやすいよう、数を限ってます。2段目には函館市のがん検診の案内を置いています。今年から、近隣の北斗市と七飯町のがん検診の案内も置いています。3段目と4段目にはがん情報ギフトの冊子を置いてます。図書館には毎週新しい本が入っていますが新着図書はすぐに借りられてしまうので、図書館の医療の本は古いというイメージを「がん情報コーナー」開設を機に払しょくしています。函館市中央図書館利用者の45%以上が60代以上なので、シニアコーナーにがん情報コーナーを設置しましたが、若年層にもがん検診情報を提供していきたいと考えています。図書館は情報の拠点、市民の書斎で、世代を超えてだれでも新知識を得られる場所なので、近隣の医療機関と連携してさまざまな医療情報を市民に提供していきます、との報告がありました。


「図書館deがん情報発信」
発表者:高橋玲子氏(函館五稜郭病院)
 
sapporo9.JPG函館市立図書館との共催で2019年10月14日に開催予定の講演会の企画について報告がありました。函館市のがん診療拠点病院である市立函館病院と函館五稜郭(病院は、北海道道南の二次医療圏を広くカバーするとともに、青森県からフェリーで通院する患者にも対応しています。2012年に道南がん診療連携協議会の部会として発足した道南がん相談支援部会のメンバーは、函館市内4病院のがん相談員(看護師・MSW)と函館市保健福祉部健康増進課、渡島総合振興局保健環境部で構成され、隔月に各病院で開催する定期会議によってがん相談に関する情報共有と地域がん関連イベントの広報を実施しています。2019年には函館市健康増進課のがん予防啓発イベント「がんのこと、見て、知って、体験しよう!」が蔦屋書店で開催され、がん相談支援センター認知度向上のために各病院のパネルを展示しました。10年前に函館市立図書館にがん相談支援センターのポスターを掲示した経験から、図書館は「市民が集う学習・情報発信の場」で幅広い世代の人が日常で来館する場との認識を持っていました。函館市健康増進課と函館市立図書館の協力により、2019年10月14日に函館市立図書館で開催する「図書館deがん情報発信」というイベントでは、がんを身近に感じてもらい検診受診率向上とがん相談支援センターの広報をするための講演会、各がん相談支援センターを紹介するパネル回覧展示と、推薦図書のラック展示を実施します、との報告がありました。

福島県での取り組み

「情報が届きにくい地域の情報窓口を」
発表者:目黒美千代氏(福島県新地町図書館)
渡邊美伊子氏(福島県立医科大学附属病院認定がん専門相談員)
 
sapporo10.JPG福島県にはがん拠点病院が9つありますが、すべて人口集中地域にあり、福島県最北端に位置する新地町は福島医科大学付属病院へのアクセスが困難です。福島県立医科大学付属病院は、がん拠点病院がない地域で出張相談会を、平成28年に南会津のお蔵入り交流館で、平成29年に南相馬市立総合病院で、平成30年に新地町図書館で開催しました。連携をやりやすくするように、国から提供された資料の現物を展示しました。新地町図書館との連携に際しては、それまでの出張相談会になかなか人が集まらなかったので、県立図書館に相談したところ、連携先として新地町図書館を紹介され、講演会と寸劇および出張相談会を行いました。連携による図書館側のメリットは、専門的なアドバイスや選書に関する情報をいただけることです。その後、県立図書館と連携して、がん相談支援センターの資料を県内の全図書館に配布しており、図書館での出張相談会を計画中です。病院側と図書館側の感想としては、相談しにくい情報だからこそ、ひっそりと長く継続して提供することが必要です。いざというときに相談員がいることを知らせ続けることも図書館司書の責務だと思います、との報告がありました。


事例紹介者全員によるディスカッション

sapporo11.JPG田村俊作名誉教授(慶應義塾大学)の司会で、ディスカッションの中では、それぞれの取り組みについて質問が出され、事例紹介者が答える形で進められました。浦河町が様似町、えりも町と合同で講演会を行い、検診受診率向上のための活動を展開していることが極めて興味深く、意義のあること思われるがどのように進めたのかという質問に対しては、3町とも検診受診率が低く、共通の悩みをかかえていたこと、町民に説明する機会を持ったところ、関心は高いことはわかったものの現在でもなかなか受診率は向上していないという悩みや、町内の居酒屋にがん検診チラシを置くなどの工夫をしていることなどが紹介されました。

苫小牧市での取り組みにおいては、地域活性化を目的とする地域通貨「とまチョップポイント」の活用について関心が集まりました。一般の商店や、公共機関でポイントが付与されるもので、図書館で行うがんの講演会に参加するとポイントが付与される仕組みは市民の健康づくりと地域活性化を組み合わせたユニークさが興味深いという感想が出されました。

函館市では今から連携事業が本格化する段階にあり、互いに敷居が高いと感じていたが、直接会って取り組む中で、“こんなに優しい方だったのか”と感じる関係ができたとのことです。
福島県の事例は、がん相談支援センターの県の部会と、小さい町の図書館が連携した例でしたが、対面で話をし、情報の共有をすることで、今後のさらなる連携のあり方が見えてきた、という今後に向けての抱負も紹介されました。

sapporo12.JPG司会の田村名誉教授(慶應義塾大学)からは、どれも素晴らしい事例で、WinWinで前向きに明るく楽しくやるのがコツであり、そのためにはお互いに数は少なくとも顔を合わせる機会が重要だと感じました、という言葉で締めくくられました。
最後に木川幸一氏(北海道がんセンター)から「北海がん診療連携協議会情報相談部会より」というテーマで、お話をいただきました。北海道では、行政の保健師と図書館とがん相談支援センターの3者で進める浦河町モデルでやっていきたいと考えています、とのことでした。

池谷のぞみ教授(慶応義塾大学)より、閉会の挨拶がありました。相談支援センターのネットワークのすごさ、図書館ネットワークのすごさが分かったと思うので、安心して声をかけ合ってください。もし、自分たちのリソースでは不十分だと感じていても連携を通じて地域の支援を市民に見える化することにつながるので、行政が動いてくださるのが重要です。医療行政から動いて教育委員会を説得していただけるとありがたいと思います。展示キット「身近にがんを考える」 を道内の図書館で巡回展示をする予定なので、関心のある図書館は私に連絡してください。「ママ友ががんになったら」、「部下ががんになったら」といったテーマを設定しています。選書に関心がある方は、共同選書プロジェクトもありますので、つながっていきましょう、とのことでした。

プログラム

講演内容一覧・資料

主催・協力・後援・協賛

【主催/企画】国立がん研究センターがん対策情報センター、北海道立図書館
      科学研究費助成事業「市民の健康支援のための価値互酬型サービスを支える
      知識共同体の構築」(池谷班)
【後援】  札幌市、北海道、北海道図書館振興協議会、日本図書館協会
      北海道がん診療協議会相談・情報部会他

本事業は、公益財団法人正力厚生会「2019年度医療機関助成事業」により実施しました。