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国立がん研究センター 中央病院

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外科手術(げかしゅじゅつ)

更新日 : 2021年10月19日

公開日:2014年4月28日

肉腫の手術

手術は肉腫に対して最も有効な治療法で、現時点では唯一根治を望むことができる治療方法でもあります。肉腫を手術する際に最も重要なことは腫瘍の細胞を残さないように腫瘍を取り除くということです。そのためには腫瘍を正常な組織で包み込んで大きく切り取る必要があるため、正常な筋肉や皮膚など腫瘍に近接する組織も一緒に切除することになります。

肉腫が四肢にできた場合、当センターでは可能な限り四肢を温存する手術を試みています。ときに手術によって大きな皮膚や筋肉の欠損ができる場合には、形成外科の協力により筋肉や皮膚を移植する再建術を行っています。また骨の欠損には患者さん自身の骨の再利用や人工関節の併用によって機能を温存しながら、四肢を残せるように心掛けています。現在の当センターにおける四肢発生肉腫に対する患肢温存率は90%を超えています。しかし、重要な血管や神経に腫瘍が近接しているために一緒に切除せざるをえない、切断によってのみはじめて肉腫の治癒が見込める、手足を残しても術後に大きな機能障害が出てしまうといった場合には、患者さんや家族とよく相談のうえで切断術を術式として選択することもあります。

肉腫が脊椎や後腹膜など正常な組織で包み込むように切除することが難しい場所にできると腫瘍細胞を取り残さずに切除することが困難な場合が多く、完全な切除のために放射線治療や化学療法を組み合わせた集学的治療法が必要になることもあります。

川井 章

脳腫瘍の手術

悪性脳腫瘍の手術の目的は、診断と、機能を温存した最大限の摘出(Maximum Safe Resection)です。脳腫瘍は細かく分類すると150種類にもわたるため、手術中に行われる病理迅速診断によって手術方針やその後の治療方針が変わります。したがって、手術をうける施設に術中診断を行ってくれる病理医がいるかどうかがとても大切です。

手足の動きや言語の機能を守るためには、電気生理学的脳波検査や、患者さんと対話しながら手術を行う覚醒下手術が行えるかどうかも、手術を受ける施設を選ぶ上で重要な点です。また神経膠腫のように、正常と腫瘍組織の区別が困難な場合には、術中MRIが撮影できると、より多くの腫瘍を摘出できます。

成田 善孝
  • 希少がんセンター 脳脊髄腫瘍担当 成田 善孝(なりた よしたか)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 脳脊髄腫瘍科


頭頸部腫瘍の手術

頭頸部には、鼻副鼻腔・口腔・上咽頭・中咽頭・下咽頭・喉頭・唾液腺など複数の臓器が存在し、またこれらの臓器を構成する組織も、粘膜・皮膚・筋・骨・血管・神経・腺・脂肪など多彩です。したがって、頭頸部腫瘍は稀ではありますが種類は非常に豊富であり、それぞれの患者や病状に応じた治療が必要となります。さらに、それぞれの臓器は咀嚼・嚥下・発声・構音・顔面整容など基本的な日常生活に密接に関連しているため、治療にあたっては根治性と同時に治療後の機能障害を最小限にする方法が求められます。

頭頸部腫瘍においても手術は重要な役割を果たしています。より大きな安全域を含めて切除すればより高い根治性が得られる原則は頭頸部でも同様ですが、拡大切除はそれだけ重篤な機能障害が生じることになります。そのような場合には、遊離皮弁再建を行うことで術後の合併症・後遺症をなるべく抑えるような工夫がされますが、切除の範囲が術後の状態に及ぼす影響は大きいため、できるだけ過不足のない切除を行うことが望まれます。また手術以外の治療法(放射線治療や化学療法)を含めた全体の治療戦略が重要になるため、集学的治療の中で手術療法をどのように位置付けるかを病状毎に検討していく必要があります。

肉腫の治療においては、一般的に化学療法が効果のあるものはまずは化学療法を行い、その後に可能であれば初診時の範囲に応じた手術を施行、さらにその後に術後放射線治療と化学療法を行う方法が推奨されます。初診時の範囲に応じた手術が機能面や整容面で大きな障害を残す可能性が高い場合は、化学療法の反応に応じた縮小手術を行うことも検討されます。化学療法の効果があまりないと予想されるものは、まずは安全域を含めた切除を行い、その切除標本の病理学的所見に応じて術後の放射線治療を行うことになります。

頭頸部は治療の専門性が高い領域と考えられ、またチーム医療が重要になります。その中で特に手術を担当する医師においては一定の技量が必要で、また集学的治療に関する知識が不可欠となります。手術の適応・切除範囲については時に判断が難しい時もありますが、手術を受けられた方の長期成績は何らかの理由で手術を受けられなかった方よりも良い傾向にあり、担当医とよく相談して治療法を決めていただくことが最善と考えております。

吉本 世一
  • 希少がんセンター 頭頸部腫瘍担当 吉本 世一(よしもと せいいち)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 頭頸部腫瘍科


後腹膜腫瘍の手術

手術の一番の目的は、腫瘍細胞のすべてを残さず漏らさず体外へ摘出してしまう(根治手術)ことで病気の治癒を目指すことです。

内臓に発生した肉腫に対する手術の具体的な方法は、腫瘍が発生した臓器や場所によってそれぞれ異なります。通常のがんに対する外科手術と同様の方法で対処できるものから、いくつかの臓器を同時に切除したりしないと摘出が不可能な腫瘍もありますので、手術が可能かどうかは各々の領域の専門医による総合的な判断が必要です。

しかし、腫瘍の状況によっては、生命の維持に必要な器官を残して切除することが不可能だと判断され、手術を断念せざるを得ない場合もあります。そうした場合は他の治療法の可能性を探ることとなります。手術治療に加えて放射線治療や薬物療法といった他種の治療の組み合わせ(集学的治療)が必要なこともあります。

根治手術が不可能な場合であっても、例えば食事をとれるようにする等の腫瘍によって出現している症状を緩和したり、一部進行の速い部分のみ切除する、などといった手術(姑息手術)を行なう場合もあります。

すべての治療がそうですが、現在の腫瘍の状態や、特に手術の場合には患者さん自身の合併症などにより、治療の可否が決まることもあります。どの治療方針が自分の現在の状況に適切なのか、まずは主治医とのしっかりとした相談が必要です。

込山 元清
  • 希少がんセンター 後腹膜・腹部の手術担当 込山 元清(こみやま もときよ)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 泌尿器・後腹膜腫瘍科


婦人腫瘍の手術

婦人腫瘍科が担当する希少がんでご相談が最も多いのが、子宮肉腫です。成人女性の2割から4割は子宮筋腫をもっていると言われますが、子宮肉腫は希少がんです。

筋腫と肉腫の鑑別が手術前には難しく、筋腫と診断されていた腫瘤が摘出したら肉腫と診断されることは決して珍しくはありません。この場合は追加切除が必要で、開腹で子宮全摘と両側卵巣卵管を切除します。筋腫だけでなく子宮全体を摘出されていても、子宮内膜間質肉腫の場合は両側卵巣の摘出を追加する必要があります。子宮内膜間質肉腫は女性ホルモンに依存する肉腫ですので、女性ホルモンを減らすことが再発予防につながります。

もし手術前に肉腫の可能性が高いと診断された場合には、開腹で子宮全摘と両側卵巣卵管を切除します。リンパ節転移は希ですので、リンパ節腫大がなければ、リンパ節郭清は行いません。

加藤 友康
  • 希少がんセンター 婦人科の手術担当 加藤 友康(かとう ともやす)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 婦人腫瘍科


皮膚腫瘍の手術

皮膚は人間の体で最大の臓器であるといわれており、1.5平方メートルから2平方メートルの大きさがあります。皮膚腫瘍はこの中のどこにでもできます。

手術は確実に腫瘍を取り除くことができるために、皮膚悪性腫瘍の治療の大きな太い柱です。十分に根治性が高く、障害の残らない手術が行えればそれが最もよいのですが、治療方針の決定は単純ではなく、頭の上から手足の先まで、できる部位とできた深さによって手術の方法や役割り、考え方は変わります。

皮膚の悪性腫瘍はその悪性度に応じて視診、触診またはCTやMRIなど画像で診断した腫瘍の範囲から5ミリメートルから2センチメートル程度の余裕を持って正常にみえる部分を含めた手術を行います。

背中や腹部のような平坦な部位にできた浅い皮膚腫瘍に対しては皮膚を切り取る、または剥がすというような治療法になります。皮膚には弾力がありますので切除した周りの皮膚を縫い合わせることができれば最もシンプルな治療方法です。簡単に縫合ができない場合は大腿や殿部などほかの部位から皮膚を移植(植皮)したり、腫瘍を切除した周囲の皮膚をうまく利用して回転させたりスライドさせたりする「皮弁」というものを作って皮膚の欠損を埋めます(再建)。また皮膚がんが大きく、深い場合は、これらの方法では再建が不可能で、形成外科と協力して顕微鏡を使って血管をつないで血流を確保して、皮膚だけでなく筋肉まで含めた厚さの組織を移植する方法もあります。

顔面の皮膚悪性腫瘍手術では、がんを治し切る手術を行わなければいけない一方で、術後の機能面、整容面を考えた手術を行う必要があります。顔面の手術を行うと眼、鼻、口、耳などが切除範囲に含まれることがあります。決まりだからと言って、これらをやみくもに切り取ってよいわけではありません。また、切除した後に残る傷ができるだけ目立たなくて済むような工夫も必要です。腫瘍を切除することだけに集中した結果、病気は治ったけれども、眼が見えない、ものが食べられないなどの障害が残ったり、患者さんは外出や職場復帰などもできないようになっては何のための手術、何のための治療かわからなくなってしまいます。根治性と機能面、整容面のバランスのとれた治療が必要です。

腕や足、また指などについては腫瘍を切除するために切断という方法があります。これも同じように、切除だけを優先するのではなく、術後にどんな機能が残せるか、どんな機能は失われても補えるかをよく考えて手術を行う必要があります。

山崎 直也
  • 希少がんセンター 皮膚腫瘍担当 山崎 直也(やまざき なおや)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 皮膚腫瘍科