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キーワード:胃がん、ゲノム解析、飲酒、スキルス胃がん、予防世界最大の胃がんゲノム解析による成果

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胃がんは、日本における罹患者数と死亡数がともに3位であり、まだまだ対策が重要ながんです。胃がんは病理組織学的には、大きく腸型とびまん型に分類されます。胃がんの治療は、内視鏡や手術による切除・細胞障害性抗がん剤治療に加えて、HER2といったがん遺伝子を標的とした分子標的治療薬やゲノム変異が多い症例(高度変異胃がん)に対する免疫チェックポイント阻害剤によって、年々予後は改善しています。しかしスキルス胃がんに代表されるようなびまん型胃がんについては未だに予後が不良で、有効な治療法の開発が望まれています。我々は、国際がんゲノムコンソーシアムにおける国際共同研究として、日本人胃がん症例697症例を含む総計1,457例の世界最大となる胃がんゲノム解析を行いました(図1)。その結果、以下に示すように治療開発につながるような新しいドライバー遺伝子の発見に加えて、胃がんの発生や予防につながる発見もできました。

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今回の解析では、新規なものも含めて胃がんの発生に関与するドライバー遺伝子を全部で75 個発見しました。これはこれまでの米国TCGA の報告にある25 個を大きく上回る成果です。また最近注目されているRNA スプライシング異常について、びまん型胃がんにおけるCDH1遺伝子のスプライシング異常が特定の部位に集中していることを見出しました。一般的に変異をたくさん持つがんには免疫チェックポイント阻害剤が有効であることが知られていますが、変異が多い高度変異胃がんではがん抗原提示に関わる分子や免疫反応に関するゲノム異常を70% 以上の症例で認め、こうした症例では従来の免疫チェックポイント阻害剤の効果が低くなる可能性が考えられました。

喫煙や紫外線といったがんの発生要因は、細胞のDNAに特徴的な変異パターン(変異シグネチャー)を起こすことが知られています。今回SBS16という変異シグネチャーは、びまん型胃がん・東アジア人種に多く、また男性、飲酒量、アルコールを代謝しにくい体質と強い関連が見られました。更にびまん型胃がんの発症において鍵となるドライバー遺伝子であるRHOA遺伝子の変異がSBS16 で誘発されることが示され、飲酒に関連したゲノム異常がRHOAドライバー変異を誘発し、びまん型胃がんを発症することをゲノム解析から明らかにしました(図2)。

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本研究によって、びまん型胃がんを含め、日本人胃がんにおける治療標的となるドライバー遺伝子や免疫療法の予測因子となりうるゲノムバイオマーカーの全体像を解明し、またこれまで発症要因が不明であった予後不良なびまん型胃がんについて飲酒並びにアルコール代謝関連酵素の遺伝子多型が重要な危険因子の一つであることを初めて明らかにできました。これらのデータは、今後日本人における胃がん治療法開発や予後改善、更には予防に貢献することが期待されます。

プレスリリース・NEWS

研究者について

がんゲノミクス研究分野 分野長 柴田龍弘

キーワード 

胃がん、ゲノム解析、飲酒、スキルス胃がん、予防、ゲノム医療