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エピゲノム解析分野

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沿革

エピゲノム解析分野では、がんが遺伝子の塩基配列の違い(突然変異)を伴わずに発生する仕組み(エピジェネティックな発がん機構)の研究、そして、その仕組みをがんの予防・診断・治療に活用する研究を行っています。遡ること1997年、世界で最も早い時期にゲノム網羅的にDNAメチル化異常をスクリーニングする方法(MS-RDA法)を開発しました(Ushijima et al., 1997Ushijima, 2005)。その方法を用いて、様々ながんでのDNAメチル化異常を解明、更に、胃がんでのがん抑制遺伝子を分離(Kaneda et al., 2004)することに成功しました。小児腫瘍である神経芽腫では、臨床現場で用いられているMYCN遺伝子の増幅を上回る正確性をもつ予後マーカーを同定しました(Abe et al., 2005)。

 

エピジェネティックな発がんの素地とリスク診断

胃での研究は、実は胃がんが発生するはるか以前からDNAメチル化異常が胃粘膜に蓄積しているという驚くべき事実の発見に繋がりました(Maekita et al., 2006Ushijima, 2007)。さらに、蓄積したDNAメチル化異常の量は、胃がんに罹るリスクとよく相関することも発見しました(Nakajima et al., 2006)。この成果を発がんリスク診断として応用するために、多くの患者さんにご参加頂き多施設共同前向き研究を実施しました。その結果、組織に蓄積したDNAメチル化異常を測定することでがんに罹るリスクを予測できることを、世界で初めて臨床研究で証明しました(Asada et al., 2015Maeda et al., 2017)。現在は、ピロリ菌除菌を行った健康な方で正確な胃がんリスクが予測出来るかについて、全国の方にご協力頂いて前向き研究を行っています。近い将来、除菌後の健康な方に正確な胃がんリスク情報を提供できるようになることを願っています。

 

慢性炎症によるエピジェネティックな発がん機構の解明とがん予防への応用

ピロリ菌感染がどのようにしてDNAメチル化異常を誘発するのかの仕組みの研究も進めてきました。ピロリ菌自体よりも感染の結果起こった慢性炎症が重要であること(Niwa et al., 2010)、しかも特定の炎症が重要であること(Hur et al., 2011)を明らかにしました。特定の炎症では、IL-1β, TNF-αというサイトカインによりDNAメチル化を消去する酵素の発現が抑制され、同時に、一酸化窒素によりDNAメチル化を付加する酵素の活性が上昇することがわかりました(Takeshima et al., 2020)。これまでに、動物モデルでは、DNAメチル化異常を抑制すると、胃がんの予防が可能であることも証明しました(Niwa et al., 2013)。ヒトでも利用可能な予防方法の開発を進めています。

 

新しいがん治療効果予測マーカーの同定と作動機構の解明

当分野はマイクロアレイや次世代シークエンス法を用いたDNAメチル化解析についても世界有数の技術を有してきました。病院との協力により、HER2陽性乳がんが手術なしに抗がん剤での治療のみで治癒する可能性を予測するマーカー(Fujii et al., 2017)、食道がんが化学放射線治療に反応する可能性を予測するマーカー(Iwabu et al., 2019)なども同定してきました。現在、効果的な治療を開発するために、これらのマーカーが何故有用なのかの仕組みを研究しています。

 

エピジェネティック治療の開発

DNAメチル化異常を元に戻す(DNA脱メチル化する)ことで血液腫瘍の治療が行われています。当分野では、DNA脱メチル化剤を用いると、胃がんの抗がん剤耐性が解除できることを証明しました(Moro et al., 2019)。また、新しいDNA脱メチル化剤を同定するハイスループットスクリーニング系を開発し(Okochi-Takada et al., 2018)、企業との共同研究のもと、現在臨床で使われている薬よりも毒性が低いと予測されるDNA脱メチル化剤を同定しました(Hattori et al., 2019)。さらに、エピジェネティック治療の標的として、がん細胞のみならず、がん細胞に兵糧を送っている周辺の細胞(がん関連線維芽細胞)も重要であることも解明しました(Maeda et al., 2019)。複数の種類の細胞の複数の遺伝子を標的とする治療法は、新しい治療戦略になる可能性を秘めています。