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がん治療学研究分野
Vision | がんの「アキレス腱」を狙い撃つ。次世代の治療を創る。

がん細胞の特異的脆弱性を標的とした、革新的な「合成致死」治療戦略の創出
「がんを薬で完全に治しきる」——それが私たちの究極の目標です。 がん治療学研究分野では、がん抑制遺伝子の変異や欠損によって生じるがん細胞特有の弱点(Vulnerability)を突き、正常細胞を傷つけずにがん細胞だけを死滅させる「合成致死(Synthetic Lethality)」メカニズムの解明に全力を注いでいます。
特に私たちが着目しているのは、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体(ARID1A, SMARCB1等)の異常に起因する難治性がんです。エピゲノムの破綻が引き起こす代謝やシグナル伝達の綻びを独自のアプローチで見出し、「パラログ同時阻害法」や「特異的代謝経路の標的化」という画期的な戦略によって、これまでにない新しい創薬基盤を構築しています。
未だ有効な治療法のない難治性がん、そして未来ある子どもたちを脅かす希少がん・小児がんの予後を劇的に変えるため、私たちは基礎研究の壁を越え、臨床応用(トランスレーショナルリサーチ)へと直結するサイエンスを強力に推進しています。
Research Highlights | 最新のブレイクスルー
1. SMARCB1欠損希少がんにおけるフェロトーシス誘導と新規GCLC阻害戦略
(Takeuchi et al., Cancer Res. 2026)
悪性ラブドイド腫瘍(MRT)に代表されるSMARCB1欠損がんは極めて予後不良であり、新たな治療法の開発が急務です。私たちは、これらの細胞が生存において「グルタチオン代謝経路」に強く依存しているというアキレス腱を発見しました。本研究で創製した新規GCLC阻害剤は、がん細胞のグルタチオンを枯渇させ、強力なフェロトーシス(鉄依存性細胞死)を誘導することで、劇的な抗腫瘍効果を示しました。小児希少がんに対する新たな代謝標的治療の扉を大きく開く成果です。
2. ARID1A欠損びまん性胃がんにおけるピリミジン代謝の脆弱性の解明
(Hirano et al., Mol Cancer Res. 2026)
スキルス胃がんを含む難治性の「びまん性胃がん」で高頻度に認められるARID1A変異。私たちは、この変異がピリミジントランスポーター(SLC28A3)の抑制を引き起こし、がん細胞内のdCTPプールを枯渇状態に陥らせる「代謝のボトルネック」を解明しました。この脆弱性を突き、既存薬であるゲムシタビンを投与することで、「Dual-hit」メカニズムによりがん細胞を選択的に死滅させることに成功。既存薬の新たな可能性(ドラッグ・リポジショニング)を示す画期的な治療コンセプトです。
Core Research Concepts | 独自の創薬戦略
1. 世界をリードする創薬プラットフォーム「パラログ同時阻害法」
類似した構造と機能を持つ2つの分子(パラログ)の「合成致死関係」を利用した、全く新しいスクリーニング法を確立しています。SWI/SNF欠損がん等に対し、CBP/p300など従来の常識を覆す治療標的を次々と同定し、世界に向けて創薬シーズを発信しています。
2. エピゲノム異常に伴う代謝脆弱性(Metabolic Vulnerability)の完全攻略
遺伝子変異(ARID1A, SMARCB1等)が引き起こす代謝リプログラミングの全貌を、生化学的・メタボローム解析の統合により解き明かします。アミノ酸代謝や核酸代謝の綻びをピンポイントで狙い撃ち、がん細胞を兵糧攻めにするダイナミックな治療戦略を展開しています。
3. アンメットメディカルニーズへの果敢な挑戦
成人の難治性がん(肺がん、膵臓がん、卵巣明細胞がん、びまん性胃がん)から、小児のラブドイド腫瘍や肉腫などの希少がんまで。NCCが誇る圧倒的な臨床検体網とマルチオミクス解析を駆使し、「基礎から臨床へ、臨床から基礎へ」のサイクルを高速で回しています。
Press Releases & News | プレスリリース・最新情報
これまでの私たちの研究成果は、社会に向けて広く発信されています。
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[NEW] 2026年3月17日 [SMARCB1欠損希少がんの新たな治療標的を発見:グルタチオン代謝を標的としたGCLC阻害剤のフェロトーシス誘導を介した新たな作用機序を解明]
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2024年6月26日 [SMARCB1遺伝子欠損型の小児・AYA世代のがんに有望な治療標的と阻害剤を発見]
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2019年1月25日 [日本人に多い卵巣明細胞がんなどでみられるARID1A遺伝子変異がんを対象に代謝(メタボローム)を標的とした新たながん治療法を発見]
- 2015年12月9日 [肺小細胞がんや悪性リンパ腫などでみられるCBP遺伝子変異について合成致死に基づく新しいがん治療標的を発見]
Selected Publications:主要論文
Takeuchi M, Ishikawa Y, Okada T, Kozaki R, Ogiwara H*.
A GCLC Inhibitor Enhances the Antitumor Efficacy of Glutathione Metabolic Pathway Inhibition in SMARCB1-Deficient Rhabdoid Tumors.
Cancer Res. (2026) [NEW] PubMed: 41833522
Hirano H, Makinoshima H, Ogiwara H*.
ARID1A Deficiency in Diffuse-Type Gastric Cancer Promotes a Pyrimidine Metabolic Vulnerability.
Mol Cancer Res. (2026) [NEW] PubMed: 41757873
Targeting dependency on a paralog pair of CBP/p300 against de-repression of KREMEN2 in SMARCB1-deficient cancers.
Nat Commun. 2024 15(1):4770.
Ogiwara H*., Takahashi K., Sasaki M., Kuroda T., Yoshida H., Watanabe R., Maruyama A., Makinoshima H., Chiwaki F., Sasaki H., Kato T., Okamoto A., Kohno T*.
Targeting the Vulnerability of Glutathione Metabolism in ARID1A-Deficient Cancers.
Cancer Cell. 35:177-190.e8. 2019.
Ogiwara H., Sasaki M., Mitachi T., Oike T., Higuchi S., Tominaga Y., Kohno T*.
Targeting p300 addiction in CBP-deficient cancers causes synthetic lethality via apoptotic cell death due to abrogation of MYC expression
Cancer Discov. 6(4):430-445. 2016.
(その他、詳細な研究業績については業績一覧ページをご覧ください)
Collaboration & Recruiting | 連携と人材募集
私たちは、未来のがん治療を共に創り上げる熱意ある仲間とパートナーを求めています。
- 製薬企業・研究機関の方へ
アカデミア発の「メカニズムに基づく創薬エンジン」を貴社のパイプラインへ。当分野で同定した臨床成功確率の高い創薬シーズやバイオマーカーに関する共同研究を積極的に推進しています。
- 臨床医・ポスドク・大学院生の方へ
臨床の現場で生じた疑問(Clinical Question)を、分子レベルのメカニズムで解き明かしませんか?私たちは、次世代のがん治療を共に創り出す意欲ある若手研究者を歓迎します。基礎研究のバックグラウンドがない方でも、多様なキャリアパスを見据え、自立した研究者へと成長できるよう全力でサポートします。



