小児・AYA世代がん患者のドラッグアクセスの改善を目指す小児・AYA世代を対象とする患者申出療養「PARTNER試験」に日本では未承認の医薬品「エフロルニチン」コホートを追加
2026年3月23日
国立研究開発法人国立がん研究センター
発表のポイント
- 国立がん研究センター中央病院は、患者申出療養制度を用いて小児・AYA世代(思春期・若年成人)のがん患者さんに適応外薬または未承認薬を投与し、安全性と治療効果を評価する医師主導臨床研究「PARTNER試験(NCCH2220)」を2024年1月から実施しています。
- このたび、本試験において、初発の高リスク神経芽腫を対象に未承認薬「エフロルニチン塩酸塩(エフロルニチン)」を用いた新たなコホートを追加し、安全性について一定の確認が得られましたので、2026年3月末を目途に患者さんの登録を再開します。なお、本試験への参加にはPARTNER試験の適格基準を満たす必要があります。
- エフロルニチンは高リスク神経芽腫に対する維持療法として米国で薬事承認されていますが、日本では未承認の医薬品です。治験や臨床試験の実施もないことから、国内ではエフロルニチンによる治療を受けることができません。このような状況を受け、PARTNER試験に新たなコホートを追加しました。
- 本取り組みは、患者申出療養制度の枠組みを活用し、企業と医療機関が連携することで、未承認薬の迅速かつ安全な提供を可能とするものです。これにより、小児・AYA世代の難治性がん患者さんに対し、新たな治療機会を提供することが期待されています。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(東京都中央区、理事長:間野 博行)中央病院(病院長:瀬戸 泰之)は、0歳から29歳までの小児・AYA(Adolescents and Young Adults:思春期・若年成人)世代のがん患者さんを対象に、患者申出療養制度注1を活用して適応外薬注2または未承認薬注3の使用を可能とする医師主導臨床研究「PARTNER試験(NCCH2220)」を2024年1月より実施しています。
このたび、本試験において、初発の高リスク神経芽腫(High-Risk Neuroblastoma, HRNB)注4を対象とした未承認薬「エフロルニチン」の新たなコホートを追加し、安全性について一定の確認が得られましたので、2026年3月末を目途に患者さんの登録を再開します。エフロルニチンは、がん細胞の増殖に必要な「ポリアミン」という物質の産生を抑えることで治療後の再発リスクを低減することが期待される経口薬です。米国の臨床試験で初発の高リスク神経芽腫に対する維持療法としての開発が進められ、2023年12月に米国食品医薬品局(FDA)により承認されました。日本国内では2026年3月時点で未承認であり、エフロルニチンの治療を受ける選択肢はありません。そのため、高リスク神経芽腫と診断された小児・AYA世代の患者さんやご家族からは、「日本でも維持療法としてエフロルニチンによる治療を行いたい」との要望が数多く寄せられてきました。
こうした状況を受け、国立がん研究センター中央病院では、エフロルニチンの米国における製造販売業者であるUSWM, LLC社の協力のもと、本試験の適格基準を満たす患者さんを対象に、エフロルニチンを用いた治療の機会を提供いたしました。また、将来、日本で薬事承認を目指す際に役立てられるよう、同意を頂いた患者さんに血液検査を行い、薬物動態(PK)解析注5を実施しています。
なお、本試験で使用する医薬品は製薬企業より無償で提供されており、本試験にかかる費用は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究費注)により賄われています。患者さんには治療にかかる薬剤費の自己負担はありませんが、検査や入院に関する費用は、通常の保険診療と同様の自己負担が生じます。
注) 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 「臨床研究・治験推進研究事業」
「小児・AYA がん患者の薬剤アクセスの改善と薬事承認に利活用可能なデータ収集を目的とした患者申出療養制度に基づく特定臨床研究」
エフロルニチン塩酸塩について
エフロルニチン塩酸塩(エフロルニチン)は、神経芽腫という小児に多いがんの治療に向けて開発された新しいタイプの飲み薬です。神経芽腫の中でも、特に再発しやすい「高リスク神経芽腫(High-Risk Neuroblastoma)」では、がんの再発を防ぐ有効な方法がこれまで限られていました。
神経芽腫の細胞では、「ポリアミン」と呼ばれる分子ががんの成長に深く関わっていることが知られています。ポリアミンは、細胞の分裂や遺伝子の働きを助ける役割を持つ一方、がん細胞ではこれが異常に多く作られており、がんの増殖を促進する要因になっています。
エフロルニチンは、このポリアミンを作るために必要な「オルニチン脱炭酸酵素(ODC)」という酵素をブロックする薬です。この酵素の働きを抑えることで、ポリアミンの量を減らし、がん細胞の増殖を制御することが期待されています。さらに、エフロルニチンは、がん細胞の中での遺伝子の働きや代謝のバランスを変えることで、がん細胞を「アポトーシス(自滅)」へと導く可能性があると考えられています。こうした働きにより、エフロルニチンは治療後の再発を防ぐ「維持療法」として重要な役割を果たします。
エフロルニチンは、海外の臨床試験において再発リスクの大幅な低下が報告され、2023年にはFDAにより、世界で初めて初発の高リスク神経芽腫に対して、抗GD2抗体を含む多剤併用化学療法で効果が得られた後の維持療法薬として承認されました。初発のがんの治療を一旦終えたあとに、再発を予防する目的で使用する薬として注目されています。
エフロルニチンコホートの主な適格基準(記載した以外にも対象患者さんとなるための基準があります)
- 抗GD2免疫療法を含む多剤併用療法で少なくとも部分奏効(PR)を示した初発の高リスク神経芽細胞腫の患者さんであること
- 抗GD2免疫療法を含む標準的な高リスク神経芽腫治療(イソトレチノインを含む)の最終投与日から、120日未満であること
- 登録時の体表面積25 m²以上
- 日常生活に大きな支障がなく、重症の合併症を有さないこと
- 血液検査や尿検査等の基準を満たすこと
等
PARTNER試験について
本試験は、難治性の小児・AYA世代がん患者さんを対象に、患者申出療養制度を利用して適応外薬あるいは未承認薬を投与する臨床研究です。
本試験で使用する医薬品は、すでに国内または海外で小児を対象とした臨床試験が行われており、小児における一定の安全性情報がある医薬品を対象としています。本試験に参加する患者さんにおける用法・用量は、国内での定め、または海外で承認されている小児に対する用法・用量や治験等をもとに決めています。医薬品は、本研究の趣旨に賛同いただいた企業から無償提供しており、今後も対象医薬品が増えていく見込みです。
試験名
小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療に関する患者申出療養(Protocol No. NCCH2220;PARTNER試験)
予定人数
1医薬品あたり最大30人
実施施設
- 国立がん研究センター中央病院
- 北海道大学病院
- 九州大学病院
- 岡山大学病院
- 名古屋大学医学部附属病院
対象医薬品リスト
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分類 |
一般名 |
商品名 |
製造販売業者等 |
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BCR/ABL阻害薬 |
イマチニブメシル酸塩 |
グリベック®錠100mg |
ノバルティス ファーマ 株式会社 |
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マルチキナーゼ阻害薬 |
パゾパニブ塩酸塩 |
ヴォトリエント®錠200mg |
ノバルティス ファーマ 株式会社 |
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JAK阻害剤 |
ルキソリチニブリン酸塩 |
ジャカビ®錠5mg/10mg |
ノバルティス ファーマ 株式会社 |
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MEK阻害剤 |
トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物 |
メキニスト®錠0.5mg/2mg Mekinist for oral solution メキニスト®小児用ドライシロップ 4.7mg |
ノバルティス ファーマ 株式会社 |
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抗PD-L1 ヒト化モノクローナル抗体 |
アテゾリズマブ (遺伝子組換え) |
テセントリク®点滴静注840mg/1200mg |
中外製薬株式会社 |
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マルチキナーゼ阻害剤 |
カボザンチニブリンゴ酸塩 |
カボメティクス®錠20mg |
武田薬品工業株式会社 |
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EZH1/2阻害剤 |
バレメトスタットトシル酸塩 |
エザルミア®錠50mg/100mg |
第一三共株式会社 |
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チロシンキナーゼ阻害剤 |
クリゾチニブ |
ザーコリ®カプセル200mg/250mg |
ファイザー株式会社 |
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ドパミンD2受容体拮抗薬 |
ドルダビプロン塩酸塩 |
OP-10 (未承認薬のため、 開発番号を記載) |
大原薬品工業株式会社 |
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ODC阻害剤 |
エフロルニチン塩酸塩 |
IWILFINTM(国内では未承認) |
USWM,LLC |
展望
本試験では、小児・AYA世代のがん患者さんが治療を希望される可能性のある適応外薬や未承認薬をあらかじめ準備し、必要なときに速やかに使用できる体制の構築を目指しています。今回、新たに「エフロルニチン」コホートが追加されたことで、治療の選択肢を求める患者さんに対し、医師の適切な管理のもとで薬剤を使用する機会を提供できるようになります。
また、本試験を通じて得られる国内小児・AYA世代における治療効果や安全性に関するデータは、将来的に患者さんにとって有益な医療の提供や、薬事承認および保険適用の検討材料として活用されることが期待されます。今後も、より多くの患者さんに治療の機会を提供できるよう、引き続き対象施設や対象薬剤の拡大を図ってまいります。
用語解説
注1 患者申出療養制度
困難な病気と闘う患者の思いに応え、先進的な治療を受けたいという患者さんの申し出を起点とし、身近な医療機関で迅速に受けられるようにする制度です。患者さんの申し出をもとに臨床研究中核病院が臨床研究を立案し、国の患者申出療養評価会議の承認を受けた上で、患者さんの希望する療養を安全性・有効性等を確認しながら臨床研究として実施します。国内の未承認・適応外のさまざまな治療法が対象になりますが、保険収載を前提とするものに限ります。したがって未承認薬等の費用に加え、保険収載を目指すためのデータ作成に対し、研究支援者の人件費や研究の品質管理、統計解析の費用などがかかり、それらを研究費から負担します。
厚生労働省「患者申出療養」制度とは?https://www.mhlw.go.jp/moushideryouyou/(外部サイトにリンクします)
注2 適応外薬
医薬品はその薬を使用する病気に対する効能・効果や用法・用量等が細かく定められた上で承認され、公的保険での投与が可能となっています。承認されている効能・効果や用法・用量以外で使用される医薬品を「適応外薬」といいます。適応外薬の使用は原則保険外診療として実施する必要があります。
注3 未承認薬
日本で薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で承認されていない医薬品のことをいいます。未承認薬を使う場合、基本的には臨床試験のもとで使うことが必要となります。
注4 高リスク神経芽腫
神経芽腫は乳幼児期に多く見られる小児がんの一つで副腎や神経の集まりから発生します。病気の状態により治療の強さは異なりますが、がんが広がっている場合や、再発しやすい性質をもっている場合は「高リスク」と分類されます。「高リスク」の場合は、より集中的な治療が必要になりますが、近年はさまざまな治療法や臨床試験の進展により、治療成績の改善が期待されています。
注5 薬物動態(PK)解析
投与された薬剤が体内でどのように吸収され、各組織へ分布し、小腸や肝臓に存在する酵素によって代謝され、最終的に排泄されるのか、その過程を詳細に解析します。
問い合わせ先
患者さんからの問い合わせ
国立がん研究センター中央病院 がん相談支援センター
電話番号(平日9:00~12:00、13:00~16:00)
中央病院の患者さん・ご家族 03-3547-5051
中央病院の患者さん以外の方 03-3547-5293
研究に関する問い合わせ
国立がん研究センター中央病院
小児腫瘍科 荒川 歩
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncch2220_office●ml.res.ncc.go.jp
広報窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp
