コンテンツにジャンプ
国立がん研究センター

トップページ > 広報活動 > プレスリリース > 結腸がんの再発を予測する遺伝子検査の有用性を証明

結腸がんの再発を予測する遺伝子検査の有用性を証明

2016年6月24日
国立研究開発法人国立がん研究センター
公立大学法人横浜市立大学
ジェノミック・ヘルス・ジャパン合同会社

本研究成果のポイント

結腸がんを切除した後の再発の可能性(再発リスク)を予測する遺伝子検査「オンコタイプDX™大腸がん検査」の有用性を証明

結腸がんの再発リスクの予測が患者さん毎に可能となり、再発リスクに応じた薬剤の選択が進むことが期待される

わが国における遺伝子検査を用いたがん治療の個別化が加速し、医療経済性が計られる可能性がある

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区、略称:国がん)と公立大学法人横浜市立大学(理事長:二見良之、神奈川県横浜市金沢区)、ジェノミック・ヘルス社(最高経営責任者:キム・ポポヴィッツ、米国カリフォルニア州)らの共同研究グループは、結腸がんを切除した後の再発の可能性(再発リスク)を予測する、遺伝子検査「オンコタイプDX大腸がん検査」(注1)の有用性を証明しました。この結果から、大腸がんの一つである結腸がんにおいて、再発リスクの予測が患者さん毎に可能となります。手術後、がんの再発防止のために行われる化学療法において、患者さん毎の再発リスクに応じた薬剤の選択が進むことが期待されます。

本研究成果は、東病院(院長:大津 敦)消化管内科科長の吉野孝之、横浜市立大学医学部臨床統計学教授の山中竹春、ジェノミック・ヘルス社らの共同研究グループが多施設の臨床研究を通じて行ったもので、米国臨床腫瘍学会の公式雑誌であるJournal of Clinical Oncology誌に、日本時間6月21日付けで掲載されました。

研究の概要と成果

がんを切除した後、再発防止のため、抗がん剤による化学療法が選択されることがあります。抗がん剤の中には、再発の防止には有効である反面、末梢神経障害(手足のしびれや痛みなど)等をもたらし、患者さんのQuality of Life(QOL; 生活の質)を損なう面もあり、がんの個別化治療を進めていく上でどの薬剤を用いるかが重要になります。現在、化学療法の最適な投与方法に関する研究が世界中で進められているところですが、患者さん毎に再発リスクを予測できる方法があれば、事前に再発リスクの高低を知り、化学療法に用いる薬剤の種類を選択することが可能になります。

結腸がん用のオンコタイプDX大腸がん検査は、12個の遺伝子の発現量と独自のアルゴリズムに基づいて、患者さん毎の再発リスクを予測する遺伝子検査で、海外の研究(注2)においてその有用性が報告されてきました。今回の研究では、2000年から2005年に日本国内の12病院において手術のみを受けたステージIIとIIIの結腸がん1568人から、コホートサンプリングデザインに基づき、630人(再発210人、無再発420人)を抽出して、最終的に評価が可能な597人を対象に重み付きコックス回帰分析(注3)を行いました。

結腸がん用のオンコタイプDX大腸がん検査では、各患者さんの再発リスクを0から100点の再発スコア™結果で評価します。今回の研究結果から、再発スコア結果が25点上昇すると、結腸がんの再発リスクは約2倍になることが示され、再発スコア結果と再発の間には強い相関があることが示されました。また、0から29点を再発の可能性が低い「低リスク群」、30から40点を再発の可能性が中程度な「中間リスク群」、41点以上を再発の可能性が高い「高リスク群」と分類すると、手術から5年後の再発率は以下のように推定されました(表1)。

表1:ステージ別、再発リスク群別の5年再発率

 ステージIIステージIII
A/B
ステージIII
C
低リスク群 9% 20% 38%
中間リスク群 14% 29% 51%
高リスク群 19% 38% 62%

上記の結果から、手術後に化学療法が省略されることのあるステージIIにおいても、高リスク群では、5年再発率が19%と低くないことから化学療法を行なうべきである、また、ステージIII A/Bの低リスク群では、有効な反面、末梢神経障害をおこす薬剤を用いた化学療法は必要のない可能性がある、といったことが明らかになりました。

今後の展望

乳がん診療においては、オンコタイプDX乳がん検査が再発リスクを予測する遺伝子検査としてすでに確立されています。オンコタイプDX乳がん検査により再発リスクが高くないと判定されれば、手術後の治療から化学療法を省略することが可能な場合があります。化学療法の省略は患者QOLの向上に大きく寄与しますので、オンコタイプDX乳がん検査は米国をはじめとした諸外国において標準的に使用されています。オンコタイプDX乳がん検査は日本国内ではまだ保険収載されていませんが、過去の臨床研究において、日本でもその有用性と医療経済性が実証されています。今回、乳がんに続いて結腸がんにおいてもオンコタイプDX検査の有用性が確認されたことにより、わが国における遺伝子検査を用いたがん治療の個別化がさらに加速する可能性があります。

本研究への期待

東病院 消化管内科科長吉野孝之医師のコメント

本研究の研究代表者である吉野孝之は以下のように述べています。

この試験はアジアの患者にとって極めて重要であり、オンコタイプDX検査によって腫瘍の生物学的特性に特化した情報が得られることが検証されました。オンコタイプDX検査を使用することで、それぞれの患者さんに最適な治療計画の設定が容易になります」、「再発スコア結果は、結腸がんの再発リスクには連続性があることを示しています。患者さんの再発リスクがどこに位置するかを知ることは極めて重要であり、術後に化学療法を施行するかどうか、また、行う場合の薬剤選択について、ステージII/IIIの結腸がんの患者さんと主治医が、より多くの情報に基づいて意思決定するのに役立つと思います。

オンコタイプDX検査は、日本では、ジェノミック・ヘルス社の日本代理店である株式会社エスアールエルを通じて、米国に検体を送ることにより実施されます。オンコタイプDX検査の詳細な情報は、Oncotype IQ(外部サイトにリンクします)を参照してください。

発表論文

  • 雑誌名:Journal of Clinical Oncology
  • タイトル:12-Gene Recurrence Score Assay Stratifies the Recurrence Risk in Stage II/III Colon Cancer With Surgery Alone: The SUNRISE Study
  • 著者:Takeharu Yamanaka, Eiji Oki, Kentaro Yamazaki, Kensei Yamaguchi, Kei Muro, Hiroyuki Uetake, Takeo Sato, Tomohiro Nishina, Masataka Ikeda, Takeshi Kato, Akiyoshi Kanazawa, Tetsuya Kusumoto, Calvin Chao, Tara Maddala, Jayadevi Krishnakumar, Helen Bailey, Kiwamu Akagi, Atsushi Ochiai, Atsushi Ohtsu, Yasuo Ohashi, Takayuki Yoshino(責任著者)
  • URL:http://jco.ascopubs.org/content/early/2016/06/15/JCO.2016.67.0414.full(外部サイトにリンクします)
  • Doi:10.1200/JCO.2016.67.0414

研究費

本研究は株式会社エスアールエルの支援を受け行ったものです。

用語解説

注1:オンコタイプ DX検査

アメリカのジェノミック・ヘルス社が開発した検査で、再発にかかわる遺伝子の発現状況を解析して、個々人のがんが再発または進行する可能性を予測する検査。乳がん、結腸がん、前立腺がんで製品化されています。オンコタイプDX大腸がん検査 (Oncotype DX(R)Colon Recurrence Score)は、ステージIIおよびステージIIIの外科的切除が行われた患者を対象とし、腫瘍より12個の遺伝子を抽出、その発現を測定し、独自のアルゴリズムを用いて、個々の患者における5年以内の再発リスクと相関する0-100までの連続変数である再発スコア(Recurrence Score(R))結果を算出します。Oncotype DX, Recurrence Scoreは、ジェノミック・ヘルス社の登録商標です。

注2

  1. QUASAR Collaborative Group. Lancet 2007; 370: 2020-29
  2. Gray RG, et al. J Clin Oncol. 2011; 29(35):4611-9
  3. Yothers G, et al. J Clin Oncol. 2013; 31(36):4512-9

注3:重み付きコックス回帰分析

今回の研究では、遺伝子検査を1,568人全体に行うのは時間的、経済的に負担が大きいため、再発した人(210人):再発していない人(420人)=1:2の比率で抽出して遺伝子検査を行い、最終的に597人のデータが研究対象とされました。全体の1,568人からみると偏りをもった集団ですので、重み付き分析により補正を行いました。


プレスリリース

  • 結腸がんの再発を予測する遺伝子検査の有用性を証明

関連ファイルをご覧ください。

お問い合わせ先

  • 国立研究開発法人 国立がん研究センター 東病院
    郵便番号:277-8577 千葉県柏市柏の葉6-5-1
    消化管内科長 吉野孝之
    電話番号:04-7133-1111(代表)
    Eメール:tyoshino●east.ncc.go.jp(●を@に置き換えてください)
  • 企画戦略局広報企画室(柏キャンパス)
    電話番号:04-7134-6945(直通)、04-7133-1111(代表)
    Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えてください)
  • 公立大学法人横浜市立大学
    郵便番号:236-0004 横浜市金沢区福浦3-9
    医学部臨床統計学 教授 山中竹春
    電話番号:045-787-2572
    Eメール:yamanaka●yokohama-cu.ac.jp(●を@に置き換えてください)
  • 研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
    電話番号:045-787-2510
    Eメール:sentan●yokohama-cu.ac.jp(●を@に置き換えてください)
  • ジェノミック・ヘルス・ジャパン合同会社
    郵便番号:100-6509 東京都千代田区丸の内1-5-1
    新丸の内ビルディング9F EGG JAPAN
  • メディカル・ディレクター 杉山直子
    電話番号:03-6386-0662(代表)
    Eメール:nsugiyama●genomichealth.com(●を@に置き換えてください)

関連ファイル

Get Adobe Reader

PDFファイルをご覧いただくには、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先から無料ダウンロードしてください。

ページの先頭へ