免疫チェックポイント阻害薬の副作用による肝障害を対象とした日本初の医師主導治験を開始―適切ながん免疫療法を実現するため、副作用対策の確立を目指すー
国立研究開発法人国立がん研究センター
発表のポイント
- 免疫チェックポイント阻害薬の登場により、様々ながんの治療成績が飛躍的に向上し、近年では、20種類以上のがん種で使用可能となっています。
- 免疫チェックポイント阻害薬の副作用である免疫関連有害事象は、自分の免疫の働きが強くなりすぎることで起こる特有の副作用ですが、その一つである肝機能障害は、比較的発症する患者さんが多く、稀ではあるものの重症化して、命に関わる経過を辿ることもあるため、有効な治療方法が求められています。
- 現在、肝機能障害に対しては、ミコフェノール酸モフェチルの使用が国内外のガイドラインで推奨されていますが、治療薬の承認申請に必要な治験や臨床試験が実施されておらず、国内では薬事承認されていません。
- 国立がん研究センター中央病院を中心とした多施設共同研究グループは、免疫関連有害事象の一つである肝機能障害に対して、ミコフェノール酸モフェチルの安全性および有用性を検証する、ランダム化比較医師主導治験を実施します。
- 本試験は、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象に対する国内初の医師主導治験であり、ミコフェノール酸モフェチルの支持療法薬としての薬事承認を目指します。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(所在地:東京都中央区、理事長:間野 博行)中央病院(病院長:瀬戸 泰之、以下「中央病院」)は、免疫チェックポイント阻害薬注1による深刻な副作用である肝機能障害(免疫関連有害事象)に対する医師主導治験(ECLAT試験/NCCH2415試験)を実施します。
ニボルマブやペムブロリズマブなどに代表される免疫チェックポイント阻害薬の登場により、様々ながんにおいて治療成績が飛躍的に向上しました。近年では、多くのがん種で薬事承認されたことにより、20種類以上のがん種で使用可能となり、その使用頻度は年々増加しています。一方で、免疫チェックポイント阻害薬による副作用である免疫関連有害事象が、日常臨床における大きな課題となっており、特に肝機能障害は比較的高頻度で認められ、重症化することもあるため、早期診断と適切な治療法の確立が望まれています。
本医師主導治験は、肝機能障害に対する現在の標準治療であるステロイド単剤と、ステロイドに免疫抑制剤ミコフェノール酸モフェチル注2を併用する2つの治療法について、安全性および有用性を前向きに検証するランダム化比較多施設共同医師主導治験として実施します。免疫関連有害事象に対するミコフェノール酸モフェチルの支持療法薬としての薬事承認を目指す国内初の臨床試験です。
なお、本医師主導治験は、日本医療研究開発機構(AMED)の助成を受けて実施するもので、ミコフェノール酸モフェチルは中外製薬株式会社から治験薬として無償提供されます。
背景
免疫チェックポイント阻害薬は、多くのがんに効果があることがわかり、その使用頻度は飛躍的に増えています。最近では、進行期だけでなく、手術が必要な早期のがんにも使用されるようになり、その使用頻度は年々増えています。
副作用については、従来の抗がん剤に比べて少ない一方で、自分の免疫の働きが強くなりすぎることで起こる特有の副作用(免疫関連有害事象)が生じることがあります。特に免疫関連有害事象の一つである肝機能障害の発症頻度は比較的高く、発症すると治りにくく、稀ではありますが重症化して命に関わることもあります。この肝機能障害に対する現在の標準治療は全身ステロイド投与である一方で、効果発現までに時間を要する場合や、治療経過中にステロイド抵抗性を示す症例も少なくなく、結果としてステロイドの総投与量が増加することがしばしばあります。治療効果が不十分な場合には、ミコフェノール酸モフェチルという免疫抑制剤が、日本および欧米のガイドラインで推奨されています。しかし、ミコフェノール酸モフェチルは、免疫関連有害事象に伴う肝機能障害に対しては未承認であり、投与のタイミングや投与期間など具体的な治療の方法も定まっておらず、すぐに治療を始められないという問題点があります。さらに、免疫関連有害事象は、免疫チェックポイント阻害薬の有効性と表裏一体で生じる治療関連事象であり、特定の薬剤の「新たな適応拡大」や「有効性の証明」を目的とする企業主導治験の枠組みとは必ずしも一致しないという特徴があり、企業主導による治験が実施されにくいという現状もあります。このため、免疫関連有害事象による肝機能障害の早期診断と適切な治療法の確立は、早急に解決すべき課題となっています。
本医師主導治験について
本医師主導治験は、免疫チェックポイント阻害薬の治療後に、高度の肝機能障害を発症した固形がん患者さんを対象として、肝機能障害の改善効果について、ステロイド、ミコフェノール酸モフェチル併用療法とステロイド単剤療法をランダム化比較試験注3により評価いたします。
試験名
免疫チェックポイント阻害薬による肝機能障害に対するステロイド+ミコフェノール酸モフェチル併用療法とステロイド単剤療法のランダム化比較医師主導治験
(治験実施計画書番号:NCCH2415、試験略称:ECLAT)
使用される薬剤(治験薬)
ミコフェノール酸モフェチル
治験に参加いただける患者さんの身体状況(患者選択基準)
- 文書による同意が得られる
- 固形がんと診断され、免疫チェックポイント阻害薬の治療をうけている前治療歴がある
- 免疫チェックポイント阻害薬による肝機能障害を発症し、ステロイド治療による治療介入が必要と判断された
- 治験への登録時において、年齢が18歳以上
- 肝機能以外の各臓器機能が規定内に保たれている
注:上記の患者選択基準は概要であり、上記に該当していてもこの治験に参加できないことがありますので、ご了承ください。
期間
登録期間:約3年(2025年12月-2028年11月予定)
追跡期間:登録終了後1年
試験期間:約4年(2025年12月-2029年11月予定)
参加いただく人数
50名
主な評価項目
- 治験登録後3日目、7日目、14日目、28日目、84日目(3か月)、168日目(6か月)時点のALT低下率、再燃した患者の累積割合
- 免疫関連有害事象の肝機能障害に対するステロイド治療が終了と判断した日までの総ステロイド投与量、投与日数全生存期間
- 有害事象発現割合、有害反応発現割合
- 重篤な有害事象発現割合、重篤な有害反応発現割合
医師主導治験実施医療機関
2026年4月24時点
- 東京都立駒込病院
- がん研究会 有明病院
- 静岡県立静岡がんセンター
- 関西医科大学附属病院
- 大阪医科薬科大学病院
- 兵庫県立がんセンター
- 四国がんセンター
- 国立がん研究センター中央病院
研究代表者
国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科 吉田 達哉
臨床研究実施計画・研究概要公開システム
jRCT番号:jRCT2031250564
本治験の詳細は、以下よりご確認ください。
URL: https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2031250564(外部サイトにリンクします)
展望
これまで免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象による肝機能障害に対して、どの薬をどのように使うのが最も適切なのか、はっきりした治療法を決めるのはとても難しい状況でした。本研究では、ステロイドとミコフェノール酸モフェチルの免疫抑制剤の使用方法や減量時期および投与期間などの妥当性を検証する予定です。
本医師主導治験により、治療法が安全で効果的だと確認できれば、免疫チェックポイント阻害薬による肝機能障害に対する新しい「標準的な治療」として広く使われるようになる可能性があります。さらに、本研究結果をもとに、ミコフェノール酸モフェチルについて、当該副作用の治療を適応症とした薬事申請を目指します。
研究費
- 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
研究事業名:令和7年度革新的がん医療実用化研究事業 科学的根拠に基づくがんの支持療法・緩和ケアの開発に関する研究サブ項目: 4-1-3
研究課題名:免疫チェックポイント阻害薬による肝機能障害に対するステロイド+MMF併用療法とステロイド単独療法のランダム化比較試験
研究代表者名:国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科 吉田 達哉
用語解説
注1 免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬は、がんを見逃してしまう体の「ブレーキ」を外し、免疫細胞がしっかりがんを攻撃できるようにする薬であり、現在のがん治療の中心となっている薬剤です。
注2 ミコフェノール酸モフェチル
日本では、腎・心・肝・肺・膵などの臓器移植後の拒絶反応抑制やネフローゼ症候群に対して薬事承認されています。免疫関連有害事象に伴う肝機能障害に対しては未承認です。
注3 ランダム化比較試験
ランダム化比較試験とは、新しい治療法が本当に良いかどうかを確かめるための、もっとも信頼性の高い研究方法の一つです。まず、研究に参加する人たちを、くじ引きのような方法(ランダム)で2つ以上のグループに分けます。たとえば、「新しい治療を受けるグループ」と「従来の治療を受けるグループ」に分けます。この“くじ引き”によって、年齢や病気の重さなどの違いが偏らないようにし、できるだけ公平に比べられるようにします。そして、グループごとに治療を受けてもらい、その結果を比べることで、「新しい治療が従来の治療より本当に良いのか」「安全に使えるのか」を科学的に明らかにします。
お問い合わせ先
医師主導治験に関するお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院
臨床研究支援部門 研究企画推進部
NCCH2415(ECLAT)医師主導治験調整事務局
Eメール:ncch2415_office●ml.res.ncc.go.jp
広報窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp
