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リキッドバイオプシーによる大腸がん再発高リスク群への早期先制治療戦略の可能性を世界に先駆けて検討―ctDNA陽性患者さんを対象とした第III相臨床試験(ALTAIR)―

2026年6月12日
国立研究開発法人国立がん研究センター

学校法人関西医科大学
独立行政法人国立病院機構大阪医療センター

発表のポイント

  • 大腸がんの再発は、通常CT検査などの画像検査で確認され、その後に治療が開始されますが、画像検査で検出される前に治療を開始する早期先制治療の有効性を検証するため、手術後の経過観察中にリキッドバイオプシー(血液中のctDNAを検出する検査)で再発の可能性を示す兆候が検出された段階で治療を開始した場合の有効性を第III相臨床試験で評価しました。
  • 本試験の結果、早期先制治療の有効性は統計学的には確認されませんでしたが、再発までの期間を延長する可能性について、今後の検証に値する所見が得られました。
  • 本試験は、「リキッドバイオプシーを用いて再発の兆候を早期に捉え、その段階で治療を行う」という新しい個別化医療のコンセプトが大規模臨床試験で検証可能であることを示したことから、英国の国際的医学雑誌「Nature Medicine」に掲載されました。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:間野 博行、東京都中央区)東病院(病院長:土井 俊彦、千葉県柏市)の吉野 孝之 国際臨床腫瘍科長、坂東 英明 医薬品開発推進部長、学校法人関西医科大学医学部の渡邉 純 主任教授、独立行政法人国立病院機構大阪医療センターの加藤 健志 下部消化管外科長らは、大腸がんの手術後に、画像検査では再発が確認されていないものの、血液検査で再発の可能性を示す兆候(ctDNA注1)が見つかった段階で治療を開始する早期先制治療の有効性を検証する第III相臨床試験注2(ALTAIR試験)を実施しました。

本試験は、日本を中心とした大規模研究プロジェクト「CIRCULATE-Japan」の一環として、その中の観察研究「GALAXY」に登録された患者さんにご協力いただきました。
本試験では、手術および標準治療後にctDNA陽性で画像上再発のない患者さん243人を対象とし、抗がん剤(トリフルリジン・チピラシル:FTD/TPI注3)を使用する群とプラセボ(偽薬)注4群に分け、再発までの期間(無病生存期間:DFS注5)を比較しました。その結果、DFSの中央値は抗がん剤群で9.3か月、プラセボ群で5.6か月でしたが、統計学的に明確な差は認められませんでした(ハザード比:0.79, P値:0.107)。
本研究は、リキッドバイオプシーで再発の兆候を早期に捉え、その段階で治療を行うという新しい個別化医療のコンセプトの検証可能性を示し、今後の検証に値する所見が得られたことから、英国の国際的医学雑誌「Nature Medicine」に掲載されました。

背景

大腸がんは手術によって治癒が期待される一方で、一部の患者さんで再発が起こることが知られており、どの患者さんが再発するかを正確に予測することは重要な課題となっています。

本研究グループは、日本を中心とした国際共同臨床研究プロジェクト「CIRCULATE-Japan」において、血液を用いてがんの情報を調べる「リキッドバイオプシー」の技術を活用し、ctDNAを用いて、体内に残るごく小さながんの存在を調べ、がん治療をより精緻にすることを目指しています。これまでに、大規模観察研究「GALAXY」で、ctDNA陽性の患者さんで再発リスクが高いことを明らかにし、その成果を2023年および2024年に国際的医学雑誌「Nature Medicine」に報告してきました。

大腸がんの再発は、通常、CT検査などの画像検査で確認され、その後に治療が開始されますが、再発が画像で確認される前にリキッドバイオプシーで再発の兆候を早期に捉え、その段階で治療を行う早期先制治療の有効性を検証するためにALTAIR試験を実施しました。

CIRCULATE-Japan(サーキュレート・ジャパン)について

日本を中心に行われている大規模ながん国際共同研究プロジェクトです。血液検査(ctDNA)を使って、がんの再発をより早く見つけることや、その結果に応じ、患者さん一人ひとりに合った治療を目指しています。

https://scrum-japan.ncc.go.jp/monstar-screen/project/circulate/

主なプロジェクト

  • GALAXY試験:患者さんを観察してctDNAと再発の関係を調べる研究
  • ALTAIR試験:ctDNAが見つかった患者さんに早めに治療を行う研究
  • VEGA試験:ctDNAが見つからない患者さんで治療を減らせるかを調べる研究

研究成果

ALTAIR試験は、手術後に必要に応じた標準治療を受けた後の経過観察中に、血液検査で再発の兆候(ctDNA)が検出されたものの、画像検査では再発が確認されていない大腸がん患者さんを対象として、画像検査で再発が確認される前の段階で治療を開始することの有効性を検証するために実施した臨床試験です。研究プロジェクト「CIRCULATE-Japan」の一環として、観察研究「GALAXY」に登録された患者さんのうち、手術および標準治療後にctDNAが陽性で、かつ画像上再発を認めない患者さんを対象としました(図1)。

図1

図1

本試験は、2020年7月から2023年6月にかけて、日本および台湾において実施した第III相臨床試験です。手術および標準治療後にctDNAが陽性で、かつ画像上再発を認めない患者さん243人を対象に、抗がん剤トリフルリジン・チピラシル:FTD/TPIを投与する群と、薬の成分を含まないプラセボ(偽薬)群に1対1で割り付け、再発までの期間(無病生存期間:DFS)を主要評価項目として比較しました。なお本試験は、患者さんも医師も、どちらの治療を受けているか分からないようにする二重盲検で行いました。

その結果、DFSの中央値は抗がん剤群で9.3か月、プラセボ(偽薬)群で5.6か月でしたが、統計学的に明確な差は認められず(ハザード比:0.79, P値:0.107)、本試験は主要評価項目を満たす結果とはなりませんでした(図2)。

図2
図2


一方で、再発の判定にばらつきがないかを確認するため、試験開始後に追加解析として、別の専門医による画像の再評価(中央判定)を実施しました。その結果、抗がん剤群で再発までの期間が長いという結果が得られましたが、追加的に行われた解析であるため、結果の解釈には注意が必要です。また、病気の進行度ごとの解析では、ステージIV(転移があったものの手術で切除された患者さん)において、抗がん剤群で再発までの期間が長くなる傾向がみられましたが、これも追加解析の結果であり、慎重な評価が求められます。また、患者さんの生存期間(全生存期間OS)については現時点で追跡期間が短く、十分な評価ができていません。

さらに本試験では、血液中のctDNAの変化と再発リスクとの関係についても検討しました。治療後にctDNAが陰性の状態を保った患者さんでは再発が少なかった一方、一度陰性になっても再び陽性となる患者さんや、治療後も陽性が続く患者さんでは再発が多いことが分かりました。このことから、ctDNAの変化の様子が再発リスクを見分ける指標となる可能性が示されました。

安全性については、抗がん剤群で白血球や好中球の減少が多くみられ、用量調整や一時的な休薬が必要となるケースが認められました。一方で、新たな安全性上の問題は確認されませんでした。

以上の結果から、本試験では明確な治療効果は示されませんでしたが、ctDNA陽性の患者さんが再発リスクの高い集団であることが改めて示されるとともに、ctDNAの変化や画像の再評価を通じて、より適切な治療薬の選択や介入タイミングなど、今後の個別化治療戦略の検討に役立つ重要な知見が得られました。

なお、本試験は臨床試験登録番号NCT04457297として登録されています。

展望

本試験により、血液検査を用いて再発の可能性を示す兆候を早期に捉え、その段階で治療を行うという新しい早期先制治療の考え方が実際に検証可能であることが示されました。

一方で、今回の試験では治療効果の明確な改善は確認されておらず、現時点で標準的な治療として確立されたものではありません。今後は、より適切な治療薬の選択に加え、ctDNAの変化を用いた治療介入タイミングの検討、画像検査と組み合わせた再発評価法の開発、さらに長期的な予後への影響等を検証する研究が必要です。

論文情報

雑誌名

Nature Medicine

タイトル

Post-adjuvant chemotherapy in ctDNA-positive patients with resected colorectal cancer: a randomized phase 3 trial

著者

Hideaki Bando, Jun Watanabe, Yusuke Takahashi, Masahito Kotaka, Nobuhisa Matsuhashi, Eiji Oki, Yoshito Komatsu, Manabu Shiozawa, Keiji Hirata, Yuji Miyamoto, Masanobu Takahashi, Kentaro Yamazaki, Dai Manaka, Akiyoshi Kanazawa, Yi-Hsin Liang, Kun-Huei Yeh, Yuko Watsuji, Yuko Yamamoto, Makoto Fukui, Shruti Sharma, Vasily N. Aushev, Adham Jurdi, Matthew Rabinowitz, Minetta C. Liu, Alexey Aleshin, Ichiro Takemasa, Daisuke Kotani, Akihiro Sato, Toshihiro Misumi, Yoshiaki Nakamura, Qian Shi, Hiroya Taniguchi, Takayuki Yoshino, and Takeshi Kato

DOI

10.1038/s41591-026-04428-0

掲載日

2026年6月8日

URL

https://www.nature.com/articles/s41591-026-04428-0 (外部サイトにリンクします)

研究費

  • 研究費名(支援先):国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
    研究事業名:革新的がん医療実用化研究事業
    研究課題名:SCRUM-Japanの基盤を活用した血液循環腫瘍DNAスクリーニングに基づくFGFR遺伝子異常を有する難治性の治癒切除不能な進行・再発固形がんに対する TAS-120 のバスケット型医師主導治験(19ck0106447h0002)
    研究代表者名:国立がん研究センター東病院 国際臨床腫瘍科 吉野 孝之

  • 研究費名(支援先):大鵬薬品工業株式会社

用語解説

注1 ctDNA(シーティーディーエヌエー)

がん細胞から出て、血液の中を流れているDNA(遺伝子のかけら)のことです。このctDNAを調べることで、体の中に目に見えない小さながんが残っているかどうかを知る手がかりになります。

注2 第III相臨床試験

新しい薬や治療法が従来の薬や治療法(標準治療)と比べ、安全性や有効性の面で優れているかどうかをランダム化比較試験で確認します。ランダム化比較試験では治療効果を客観的に評価するために、新しい薬や治療法で試験をするグループと、従来の薬や治療法(標準治療)で試験をするグループとで、患者さんを無作為(ランダム)に分けて試験を行います。そのため、患者さんが新しい薬や治療法を希望したとしても、実際に試験を受けられるかどうかはわかりません。

注3 トリフルリジン・チピラシル:FTD/TPI

大腸がんの治療に使われる抗がん剤の一つです。がん細胞の増える働きを抑えることで、がんの進行を遅らせる効果があります。飲み薬として使われます。

注4 プラセボ(偽薬)

見た目や飲み方は本物の薬と同じですが、有効成分が入っていない薬のことです。本当の薬の効果を正しく調べるために、比較のために使われます。

注5 無病生存期間:DFS

治療後に、がんの再発や新たながんの発生がなく過ごせた期間のことです。臨床試験では、治療によって再発をどの程度遅らせることができるかを評価する指標として用いられます。

参考プレスリリース

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター東病院
医薬品開発推進部長 坂東 英明
電話番号:04-7133-1111(代表)
Eメール:hbando●east.ncc.go.jp

学校法人関西医科大学
医学部下部消化管外科学講座 主任教授 渡邉 純
Eメール:watanabe.jun●kmu.ac.jp

広報窓口

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)
電話番号:04-7133-1111(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp

学校法人関西医科大学
広報戦略室
電話番号:072-804-0101(代表)
Eメール:kmuinfo●kmu.ac.jp

独立行政法人国立病院機構大阪医療センター
広報企画室
電話番号:06-6942-1331(代表)
Eメール:onh_pr●kamibu.co.jp

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