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リキッドバイオプシーにより大腸がん肝転移術後の補助療法の効果が期待される患者群を探索的に検討―JAMA Oncology誌で発表―

2026年7月7日
国立研究開発法人国立がん研究センター

九州大学病院
学校法人兵庫医科大学

発表のポイント

  • 国内外152施設が参加する研究プロジェクトCIRCULATE-Japan(サーキュレートジャパン)における前向き研究の大腸がん肝転移手術例によるサブ解析においてリキッドバイオプシーに基づく分子的残存病変(MRD)と全生存期間の関連を解析しました。
  • 術前化学療法を受けずに初回手術を行った患者群では、術後2-10週の間に血中循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA [ctDNA])の結果が陽性であれば術後補助化学療法により全生存期間が延長する傾向がみられ、一方、陰性であれば延長が少ない傾向がみられました。
  • 肝転移術後に対して術後補助化学療法と経過観察を比較するランダム化比較試験が複数実施されてきたものの、術後補助化学療法の実施による全生存期間への影響はこれまで明確ではありませんでした。本研究結果は、大腸がん肝転移切除後にctDNA検査に基づいて術後補助化学療法の適否を判断する個別化治療戦略の有用性を支持する結果となり、今後のランダム化比較試験による検証が期待されます。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:間野 博行、東京都中央区)東病院(病院長:土井 俊彦、千葉県柏市)の吉野 孝之 国際臨床腫瘍科長、国立大学法人九州大学(総長:石橋 達朗、福岡県福岡市)の病院先端医工学診療部の沖 英次 教授、兵庫医科大学(学長:鈴木 敬一郎、兵庫県西宮市)の消化器外科学(下部消化管外科)片岡 幸三 講師らの研究グループは、大腸がん術後にctDNA1を検査する技術(リキッドバイオプシー2)を用いて再発をモニタリングするGALAXY試験3に登録された患者さんの中で肝転移患者さんに絞った解析を実施しました。

術前化学療法を受けずに初回手術を行った191例において、術後ctDNA陽性の場合、術後補助化学療法4を受けた患者さんは受けなかった患者さんと比較して、再発リスクが低下しただけでなく、全生存期間も良好となる傾向がみられました。一方、術後ctDNA陰性の患者さんでは術後補助化学療法の実施に関わらず全生存期間に差はみられませんでした。

術前化学療法を受けた107例においても同様の解析を行いましたが、術後ctDNA陽性の場合、術後補助化学療法を受けたことによる明らかな再発リスクの低下、全生存期間の延長は示されませんでした。術後ctDNA陰性患者さんでは、術前化学療法を受けていない集団と同様に術後補助化学療法の実施に関わらず再発リスク、全生存期間ともに差はみられませんでした。

これまで大腸がん肝転移における術後補助化学療法が全生存期間を延長することを示したランダム化比較試験の報告はありません。しかし大腸がん肝転移の患者さんにリキッドバイオプシーを行い、ctDNA陽性の場合に術後補助化学療法を行うことで全生存期間が延長する可能性が示唆され、今後の検証が期待されます。

本研究成果は、ESMO Gastrointestinal Cancers Congress 2026(ESMO GI 2026)にて、ヨーロッパ時間2026年7月3日に口頭発表され、同日にJAMA Oncology誌にオンライン掲載されました。

背景

大腸がん肝転移の患者さんに術後補助化学療法を実施することが、全生存期間の延長につながるかどうかは未だわかっておらず、術後の再発リスクに応じた術後補助化学療法の使用が期待されています。大腸がん肝転移の患者さんにおいて、リキッドバイオプシーが再発リスクの予測に有用であることは既に報告済みですが、リキッドバイオプシーの結果に基づいて術後補助化学療法を実施することが全生存期間を延長できるかどうかについては、まだ明らかではありません。

本研究は、GALAXY試験に登録された患者さんの中から、大腸がん肝転移(同時性、異時性含む)に対して初回手術を実施した患者さんについて解析を行いました。米国Natera社が開発した分子的残存病変検出技術「Signatera(シグナテラ)」アッセイを用いて、ctDNAの測定を術前および術後4週時点から定期的に血液を採取し、血液中のがん遺伝子異常の有無を調べました。2020年5月から2024年6月の間にGALAXY試験に登録された6061例中、大腸がん肝転移に対して肝切除を実施した患者さんで、手術前に薬物療法を実施しなかった191例と、術前に薬物療法を実施した107例を対象に解析を行いました。

研究の方法・成果

大腸がん肝転移に対して初回手術を行った298例のうち、術前化学療法を受けずに初回手術を受けた患者さん(191例)と術前化学療法後に手術を受けた患者さん(107例)に分けました。それぞれの群において、術後2-10週の間でctDNA陽性例と陰性例に分け、陽性例、陰性例それぞれにおいて、術後補助化学療法を受けた患者さんと受けなかった患者さんで無病生存期間および全生存期間を比較しました。

【術前化学療法を実施しなかった場合の無病生存期間】
術後2-10週の間にctDNA陽性であった62例において、術後補助化学療法を受けなかった患者さんでは無病生存割合の中央値2.3か月であったのに対し、術後補助化学療法を受けた患者さんでは13.9か月と再発リスクが低下する傾向がみられました(ハザード比5 0.07(95%信頼区間 0.02-0.24)、P<0.0001)(図1上)。一方で術後2-10週の間にctDNA陰性であった129例では、術後補助化学療法を受けなかった患者さんは48か月時点での無病生存割合が55.0%、術後補助化学療法を受けた患者さんは72.4%と統計学的な有意差は認められませんでした(ハザード比 0.69(95%信頼区間 0.32-1.50)、P=0.36)(図1下)。この結果は2024年に実施したものと同様の結果でした。(リキッドバイオプシーが大腸がん肝転移術後の補助療法実施の判断に有用であることを確認 ―Annals of Oncology誌で発表―|国立がん研究センター


図1 術後ctDNA陽性例(上)、陰性例(下)の術後補助化学療法群と経過観察群の無病生存割合の比較
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【術前化学療法を実施しなかった場合の全生存割合】
同じ解析を全生存割合についても実施しました。術後ctDNA陽性であった場合、術後補助化学療法を受けなかった患者さんでは48か月時点での全生存割合が32.9%であったのに対し、術後補助化学療法を受けた患者さんでは65.3%と術後補助化学療法を受けた患者さんで全生存割合が高くなる傾向がみられました(ハザード比 0.27(95%信頼区間0.08-0.88)、P=0.03)(図2上)。一方で術後ctDNA陰性であった場合は、術後補助化学療法を受けなかった患者さんは48か月時点での全生存割合が90.3%、術後補助化学療法を受けた患者さんは92.3%と術後補助化学療法を実施しなくても共に良好となる傾向がみられました(ハザード比 0.54(95%信頼区間0.10-2.88)、P=0.47)(図2下)。

図2 術後ctDNA陽性例(上)、陰性例(下)の術後補助化学療法群と経過観察群の全生存割合の比較
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【術前療法を実施した場合の全生存割合】
同様の解析を術前療法後に手術を受けた患者さん(107例)についても解析を行いました。結果は術前療法を実施しなかった場合と同様の傾向でしたが、統計学的に有意な差には至りませんでした。

以上の結果から、大腸がん肝転移の患者さんに対しては、とくに手術前に薬物療法を実施しない場合、術後2-10週の間のctDNA陽性例では術後補助化学療法を行うことで再発リスクを下げるだけでなく全生存期間を延長させるが、陰性例では術後補助化学療法を行っても再発リスクや全生存期間に差がない可能性が示されました。

展望

大腸がん肝転移の患者さんに術後補助化学療法が有用かどうか、今まで複数の臨床試験が実施されてきましたが、術後補助化学療法が全生存期間を延長することを示したランダム化比較試験の報告はありません。本研究の結果から、術後にctDNAを測定し、ctDNA陽性の場合に術後補助化学療法を実施することで、全生存期間が延長する可能性が示唆されました。大腸がん肝転移におけるctDNAに基づいた術後補助化学療法の個別化が期待されます。

しかし、本研究はランダム化比較試験の結果ではなく、解析された患者さんの数も十分ではありません。また、本研究において術後補助化学療法を行うかどうかは担当医によって判断されたため、ctDNA以外の臨床病理学的な背景等が術後補助化学療法を受けた患者さんと受けなかった患者さんでは異なる可能性があります。術後早期に再発した場合や、術後の状態が不良な患者さんが術後補助化学療法群に含まれなかったことで術後補助化学療法群の結果がより良好に見えている可能性があるため、本研究の結果のみで日常診療における治療方針を確定することはできません。今後は、ランダム化比較試験等により本研究結果を検証するべく取り組んでまいります。

論文情報

雑誌名

JAMA Oncology

タイトル

Circulating Tumor DNA Status and Adjuvant Chemotherapy in Resected Colorectal Liver Metastases

著者

Kozo Kataoka, Kazuma Ito, Yoshiaki Nakamura, Jun Watanabe, Naoya Akazawa, Jun Nagata, Mitsuru Yokota, Kentaro Kato, Masahito Kotaka, Tadayoshi Hashimoto, Kentaro Yamazaki, Yoshinori Kagawa, Saori Mishima, Koji Ando, Masaaki Miyo, Hiroki Yukami, Arkarachai Fungtammasan, Shruti Sharma, J. Bryce Ortiz, Matthew Rabinowitz, Robert W. Lentz, Adham Jurdi, Minetta C. Liu, Alexey Aleshin, Daisuke Kotani, Hideaki Bando, Hiroya Taniguchi, Ichiro Takemasa, Takeshi Kato, Takayuki Yoshino*, Eiji Oki,*  (*は責任著者)

DOI

10.1001/jamaoncol.2026.2191

掲載日

2026年7月3日9時30分(アメリカ時間)

URL

https://doi.org/10.1001/jamaoncol.2026.2191(外部サイトにリンクします)

研究費

研究費名(支援先):国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
研究事業名:革新的がん医療実用化研究事業
研究課題名:SCRUM-Japanの基盤を活用した血液循環腫瘍DNAスクリーニングに基づくFGFR遺伝子異常を有する難治性の治癒切除不能な進行・再発固形がんに対する TAS-120 のバスケット型医師主導治験(19ck0106447h0002)
研究代表者名:吉野 孝之

用語解説

注1 血中循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA [ctDNA])

血液中にごく微量に存在するがん由来のDNA。

注2 リキッドバイオプシー

患者さんの血液を用いてがんのゲノム異常を検出する検査。血液検査で繰り返し測定可能であるため、身体に負担が少なく、がんの再発をより早期に発見できることが期待される。

注3 GALAXY試験

大腸がんの外科治療を受ける患者さんの術後再発リスクを最新のリキッドバイオプシー解析技術を用いて高精度に推定し、より適切な医療を提供することを目的としたCIRCULATE-Japanプロジェクトの3つの国際共同臨床試験の基幹となる試験で、大腸がん手術前後に経時的にctDNAを解析し、再発や生存期間との関連を調べます。

注4 術後補助化学療法

がんの手術後に行う抗がん剤治療。手術後にも残っている可能性がある目に見えない小さながん細胞をなくし、再発の可能性を減らすために行います。

注5 ハザード比

時間当たりの再発リスクの比。

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

学校法人兵庫医科大学 消化器外科学 下部消化管外科
講師 片岡 幸三
電話番号:0798-45-6372
Eメール:ko-kataoka●hyo-med.ac.jp

広報窓口

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)
電話番号:04-7133-1111(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp

九州大学病院 企画広報室
電話番号:092-642-5205
Eメール: ibskoho●jimu.kyushu-u.ac.jp


学校法人兵庫医科大学
総務部 広報課 
電話番号0798-45-6655
Eメール:kouhou●hyo-med.ac.jp

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