小児・AYA世代がん患者のドラッグアクセスの改善を目指す小児・AYA世代を対象とする患者申出療養「PARTNER試験」にてDCT(分散型臨床試験)を導入
国立研究開発法人国立がん研究センター
発表のポイント
- 国立がん研究センター中央病院は、小児・AYA世代がん患者さんを対象とする患者申出療養「PARTNER試験(NCCH2220)」において、DCT(分散型臨床試験)を導入しました。
- DCTの導入により、遠方にお住まいの患者さんも、地域の医療機関と連携した体制のもとで本試験に参加しやすくなり、患者さん・ご家族の通院や移動に伴う負担の軽減と、居住地によらない治療機会の提供につながることが期待されます。
- 今回、DCTの対象となる医薬品は、トラメチニブおよびバレメトスタットで、鹿児島大学病院がパートナー病院として参加します。
- 今後は、小児・AYA世代のがん患者さんでのDCTの安全面など運用状況を確認しながら、対象医薬品およびパートナー病院の拡大を進めていく予定です。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(東京都中央区、理事長:間野 博行)中央病院(病院長:瀬戸 泰之)は、0歳から29歳までの小児・AYA(Adolescents and Young Adults:思春期・若年成人)世代のがん患者さんを対象に、患者申出療養制度注1を活用して適応外薬注2または未承認薬注3の使用を可能とする医師主導臨床研究「PARTNER試験(NCCH2220)」を2024年1月より実施し、2026年4月時点で実施施設は6施設、対象医薬品は10医薬品へと拡大しています。
このたび、本試験において、分散型臨床試験(Decentralized clinical trial:DCT)を導入します。分散型臨床試験は、オンライン診療などのデジタル技術を用いて、患者さんが試験を実施する医療機関に来院しない、あるいは来院する回数を減らしながら参加できる臨床試験の方法です。DCTでの連携医療機関(パートナー病院)として鹿児島大学病院がPARTNER試験に参加することになりました。患者さんのお住まいに近いパートナー病院と中央病院が連携し、中央病院によるオンライン診療やパートナー病院での検査等を組み合わせることで、PARTNER試験を実施する医療機関への通院が難しい患者さん・ご家族の負担を軽減し、居住地によらない治療機会の提供につながります。
今回、DCTの対象となる医薬品はトラメチニブ(錠剤のみ)およびバレメトスタットです。今後、安全面などの運用状況を確認しながら、対象医薬品およびパートナー病院を順次拡大していく予定です。
なお、本試験で使用する医薬品は製薬企業より無償で提供されており、本試験にかかる費用は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究費により賄われています。患者さんには治療にかかる薬剤費の自己負担はありませんが、検査や入院に関する費用は、通常の保険診療と同様の自己負担が生じます。
コメント
鹿児島大学病院 小児診療センター 小児科 部門科 科長 岡本 康裕
鹿児島大学病院でも、新しい治療法の有効性や安全性を確認する臨床試験(治験・臨床研究)に取り組んできました。今回、DCTのパートナー病院となることで、これまで都市部まで足を運ぶ必要があった先進的な医療を、住み慣れた鹿児島で受けられる可能性が広がります。地域に根ざした医療と最先端の医療をつなぎ、一人でも多くの患者さんに新たな治療の選択肢を届けられるよう努めてまいります。
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科 科長 荒川 歩
この度、スタッフの方々の御尽力で、PARTNER試験のDCT実施において、鹿児島大学をパートナー施設とする連携体制を構築することができました。小児がんの患者さんがなるべくご自宅に近い施設で、希望される新規薬剤にアクセス出来るようになるための大きな一歩と考えています。今後もDCTの対象となる薬剤およびパートナー施設数の拡大に向けて、さらに準備を進めてまいりたいと考えています。
背景
DCTは、オンライン診療などのデジタル技術を用いて、患者さんが試験を実施する医療機関に来院しない、あるいは来院する回数を減らしながら臨床試験に参加する方法の一つです。遠方にお住まいであるなどの理由から、試験を実施する医療機関への来院が難しい患者さんでも、試験に参加しやすくなることが期待されます。
中央病院では、2023年に希少がんを対象とした医師主導治験においてオンライン治験を開始し*1、遠隔地に居住する患者さんが東京都の中央病院への来院を減らして治験に参加できる体制を構築しました。その後も中央病院では、オンライン治験の運用経験を重ね、2026年3月時点で11の医療機関とパートナー病院として委受託契約を締結するなど、実施体制の整備を進めてきました*2。
小児がん領域では、対象となる患者さんが少なく、臨床試験の実施数も限られることから、DCTを導入するための医療機関連携体制や運用手順の整備は、これまで十分には進んでおらず、遠方の実施医療機関まで毎回来院する必要がありました。患者さん・ご家族から、こうした負担を少しでも軽減してほしいというニーズがあったことを踏まえ、今回、中央病院は、小児・AYA世代を対象とするPARTNER試験にもDCTを導入しました。
鹿児島大学病院は、すでに中央病院が成人領域で実施した臨床試験でDCTのパートナー病院としての実績があります。その実施体制と経験を活かし、小児がん領域でも、患者さんの居住地に近い医療機関で必要な対応を受けられる体制を整えました。
*1 出典:希少がんに対するオンライン治験を開始
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2023/0627_1/index.html
*2 出典:DCT(分散型臨床試験)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/clinical_research_support/DCT/index.html
実施体制
本試験では、まず中央病院において、試験参加の条件を満たすかどうかの確認、試験内容の説明および同意取得を行うとともに、初回となる第1コース目の治療と体調や治療経過の確認を中央病院で十分に行ったうえで、第2コース目以降については、パートナー病院と中央病院が連携するDCTへ移行することが可能です。
なお、現時点でDCTでPARTNER試験に参加できるのは、中央病院で本試験に参加する患者さんに限られます。
DCTに移行した後は、あらかじめ定められたスケジュールに基づき、パートナー病院で各検査を受けていただき、その結果を中央病院へ共有します。診察日には、患者さんがパートナー病院を受診し、同院の主治医の同席のもと、中央病院とオンラインで接続しながら、中央病院の医師によるオンライン診療を行います。そのうえで、中央病院の医師が試験継続の可否や今後の方針に関する判断を行います。試験薬(経口薬)は、中央病院から患者さんの自宅へ直接郵送され、患者さんには中央病院の医師の指示に従って服用いただきます。本体制により、治療開始時には中央病院で安全性を確認しつつ、その後は患者さん・ご家族の居住地に近い医療機関の協力を得て、通院や移動に伴う負担を軽減しながら、本試験への参加を継続する環境を提供します。
PARTNER試験では、現在10医薬品を対象としておりますが、今回のDCTの対象となる医薬品はトラメチニブ(錠剤のみ)およびバレメトスタット(対象医薬品リスト参照)で、パートナー病院としては鹿児島大学病院の1施設です。
図1 PARTNER試験におけるDCTの流れ
PARTNER試験について
本試験は、難治性の小児・AYA世代がん患者さんを対象に、患者申出療養制度を利用して適応外薬あるいは未承認薬を投与する臨床研究です。
本試験で使用する医薬品は、すでに国内または海外で小児を対象とした臨床試験が行われており、小児における一定の安全性情報がある医薬品を対象としています。本試験の趣旨に賛同いただいた企業から医薬品を無償提供していただいています。国内で小児に対する用法・用量等が定められていない医薬品については、海外で承認されている小児に対する用法・用量等や小児に対する治験等をもとに、本試験に参加する小児がん患者さんにおける用法・用量等を決めています。
試験名
小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療に関する患者申出療養(Protocol No. NCCH2220;PARTNER試験)
予定人数
1医薬品あたり最大30人(医薬品により最大人数は拡大することがあります)
実施施設
- 国立がん研究センター中央病院
- 北海道大学病院
- 九州大学病院
- 岡山大学病院
- 名古屋大学医学部附属病院
- 京都大学医学部附属病院(2026年4月より新たに参加)
DCTのパートナー病院
- 鹿児島大学病院
対象医薬品リスト
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分類 |
一般名 |
商品名 |
製造販売業者等 |
DCT対象 |
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BCR/ABL阻害薬 |
イマチニブメシル酸塩 |
グリベック®錠100mg |
ノバルティス ファーマ 株式会社 |
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マルチキナーゼ阻害薬 |
パゾパニブ塩酸塩 |
ヴォトリエント®錠200mg |
ノバルティス ファーマ 株式会社 |
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JAK阻害剤 |
ルキソリチニブリン酸塩 |
ジャカビ®錠5mg/10mg |
ノバルティス ファーマ 株式会社 |
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MEK阻害剤 |
トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物 |
メキニスト®錠0.5mg/2mg Mekinist for oral solution メキニスト®小児用ドライシロップ 4.7mg |
ノバルティス ファーマ 株式会社 |
〇 *メキニスト® 0.5mg/2mg錠のみ |
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抗PD-L1 ヒト化モノクローナル抗体 |
アテゾリズマブ (遺伝子組換え) |
テセントリク®点滴静注840mg/1200mg |
中外製薬株式会社 |
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マルチキナーゼ阻害剤 |
カボザンチニブリンゴ酸塩 |
カボメティクス®錠20mg |
武田薬品工業株式会社 |
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EZH1/2阻害剤 |
バレメトスタットトシル酸塩 |
エザルミア®錠50mg/100mg |
第一三共株式会社 |
〇 |
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チロシンキナーゼ阻害剤 |
クリゾチニブ |
ザーコリ®カプセル200mg/250mg |
ファイザー株式会社 |
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ドパミンD2受容体拮抗薬 |
ドルダビプロン塩酸塩 |
OP-10 (未承認薬のため、 開発番号を記載) |
大原薬品工業株式会社 |
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ODC阻害薬 |
エフロルニチン塩酸塩 |
IWILFIN™ |
USWM, LLC |
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展望
国立がん研究センター中央病院では、今回導入したDCTを通じて、患者さん・ご家族の負担軽減や安全性などを確保しながら、DCTの対象医薬品およびパートナー病院の拡大を進めていく予定です。これにより、これまで地理的な理由などから本試験に参加が難しかった小児・AYA世代がん患者さんにも、本試験を通じた治療機会をより届けやすい体制構築を進めてまいります。
また、本試験を通じて得られる国内小児・AYA世代における治療効果や安全性に関するデータは、将来的に患者さんにとって有益な医療の提供や、薬事承認および保険適用の検討材料として活用されることが期待されます。今後も、より多くの患者さんに治療の機会を提供できるよう、引き続き実施体制の拡大を図ってまいります。
研究費
- 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
研究事業名:臨床研究・治験推進研究事業
研究課題名:小児・AYA がん患者の薬剤アクセスの改善と薬事承認に利活用可能なデータ収集を目的とした患者申出療養制度に基づく特定臨床研究
研究代表者名:荒川 歩(国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科)
研究事業名:臨床研究・治験推進研究事業
研究課題名:希少がんプラットフォーム試験へのDCT導入に関する研究開発
研究代表者名:中村 健一(国立がん研究センター中央病院 臨床研究支援部門)
用語解説
注1 患者申出療養制度
困難な病気と闘う患者の思いに応え、先進的な治療を受けたいという患者さんの申し出を起点とし、身近な医療機関で迅速に受けられるようにする制度です。患者さんの申し出をもとに臨床研究中核病院が臨床研究を立案し、国の患者申出療養評価会議の承認を受けた上で、患者さんの希望する療養を安全性・有効性等を確認しながら臨床研究として実施します。国内の未承認・適応外のさまざまな治療法が対象になりますが、保険収載を前提とするものに限ります。したがって未承認薬等の費用に加え、保険収載を目指すためのデータ作成に対し、研究支援者の人件費や研究の品質管理、統計解析の費用などがかかり、それらを研究費から負担します。
厚生労働省「患者申出療養」制度とは?https://www.mhlw.go.jp/moushideryouyou/(外部サイトにリンクします)
注2 適応外薬
医薬品はその薬を使用する病気に対する効能・効果や用法・用量等が細かく定められた上で承認され、公的保険での投与が可能となっています。承認されている効能・効果や用法・用量以外で使用される医薬品を「適応外薬」といいます。適応外薬の使用は原則保険外診療として実施する必要があります。
注3 未承認薬
日本で薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で承認されていない医薬品のことをいいます。未承認薬を使う場合、基本的には臨床試験のもとで使うことが必要となります。
お問い合わせ先
研究に関するお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院
小児腫瘍科 荒川 歩
〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncch2220_office●ml.res.ncc.go.jp
患者さんからのお問い合わせ
国立がん研究センター中央病院 がん相談支援センター
電話番号(平日9:00~12:00、13:00~16:00)
中央病院の患者さん・ご家族 03-3547-5051
中央病院の患者さん以外の方 03-3547-5293
広報窓口
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