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MTAP遺伝子欠損の臨床的意義を解明

免疫チェックポイント阻害薬抵抗性と関連する
MTAP遺伝子欠損の臨床的意義を解明―全国大規模がんゲノムスクリーニングによる包括的研究―

2026年5月22日
国立研究開発法人国立がん研究センター

発表のポイント

  • 転移進行固形がん患者の約9%にMTAP遺伝子の欠損が認められ、膵臓がん・尿路上皮がん・胆道がんで特に高頻度でした。MTAP欠損例では全生存期間が有意に短く(中央値14.8か月 vs 37.4か月)、独立した予後不良因子であることが示されました。
  • MTAP欠損は免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を有意に低下させ、免疫チェックポイント阻害薬治療下での無増悪生存期間は有意に短く(中央値3.4か月 vs 5.8か月)、特に悪性黒色腫で顕著でした。
  • MTAP欠損がんではT細胞の腫瘍内浸潤が減少し、免疫応答に関連する経路が抑制されていることが全トランスクリプトーム解析により明らかになりました。PRMT5阻害薬やMAT2A阻害薬および併用療法が新たな治療戦略として期待されます。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(所在地:東京都中央区、理事長:間野博行)東病院(病院長:土井 俊彦、千葉県柏市)は、全国多施設共同がんゲノムスクリーニングプログラム(SCRUM-Japan MONSTAR-SCREEN -1および-21)のデータを用いて、固形がんにおけるMTAP(メチルチオアデノシンホスホリラーゼ)2遺伝子欠損の実態・予後・免疫微小環境への影響を大規模かつ包括的に解析しました。MTAP欠損は複数のがんで予後との関連が報告されており、これを治療標的とした薬剤開発が期待されるものの実現には至っておらず、開発の手がかりとなる臨床的意義の解明が求められていました。

本研究において、がん種横断的な764例を解析した結果、MTAP欠損は71例(約9%)に認められ、膵臓がん(36.5%)、尿路上皮がん(32.3%)、胆道がん(19%)、悪性黒色腫(10.6%)、頭頸部がん(9.2%)で特に高頻度でした。また、MTAP欠損例の全生存期間中央値は14.8か月で、MTAP欠損のない野生型の37.4か月と比較して有意に短く、多変量解析でも独立した予後不良因子であることが確認されました。また、免疫チェックポイント阻害薬治療を受けた症例で予後を確認したところ、MTAP欠損例では無増悪生存期間が有意に短く(中央値3.4か月 vs 5.8か月、ハザード比:1.74)、特に悪性黒色腫で顕著でした。本研究結果から、MTAP欠損が予後や免疫チェックポイント阻害薬3に対する治療抵抗性に関連する可能性が示されました。

また、714例を対象としたトランスクリプトーム解析では、MTAP欠損がんにおいてT細胞浸潤の有意な減少が確認されました。細胞周期やDNA修復経路に関連する遺伝子経路の有意な活性化および免疫や代謝関連経路の有意な抑制も認められました。

これらの知見は、MTAP欠損がんにおける免疫チェックポイント阻害薬抵抗性の生物学的基盤を明らかにするとともに、MTAP欠損がんの治療薬として開発が進行しているPRMT5阻害薬やMAT2A阻害薬4、およびその併用療法開発に向けた科学的根拠を提供するものです。

背景

これまでにも、複数のがん種でMTAP欠損と予後不良の関連が報告されており、また免疫チェックポイント阻害薬への抵抗性との関連も示唆されてきましたが、その臨床的特徴・分子プロファイル・腫瘍免疫微小環境5への影響を大規模かつ統合的に解析した研究はこれまで存在しませんでした。MTAP欠損は特定のがん種に限らず、複数の固形がんにまたがって認められる分子異常であるため、その臨床的意義を明らかにするには、がん種横断的な大規模データベースを用いた解析が必要です。SCRUM-Japan MONSTAR-SCREENは、全国多施設から収集された進行固形がん患者のゲノム情報、トランスクリプトーム情報、治療経過、予後情報を統合的に解析できる研究基盤であり、本研究課題に適したプラットフォームです。本研究では、この強みを活かし、MTAP欠損の頻度や予後への影響に加えて、免疫チェックポイント阻害薬抵抗性および腫瘍免疫微小環境との関連を包括的に評価し、今後の新しい治療開発において重要な手がかりを明らかにすることを目指しました。

研究成果

対象と方法

本研究では、日本全国の多施設共同ゲノムスクリーニングプログラムであるSCRUM-Japan MONSTAR-SCREEN-1(コホートA)およびMONSTAR-SCREEN-2(コホートB)のデータを解析しました。コホートAでは764例の進行固形がん患者を対象に、FoundationOne® CDxによる次世代シーケンシング(NGS)でMTAP遺伝子欠損の有無を評価し、臨床病理学的特徴、共変異プロファイル、予後、および治療効果を検討しました。コホートBでは714例を対象に、Caris MI Cancer Seek Hybridによる全エクソーム解析(WES)および全トランスクリプトーム解析(WTS)を実施し、xCellデコンボリューションおよび遺伝子セット濃縮解析(GSEA)6によって腫瘍免疫微小環境とシグナル経路を解析しました。

結果

コホートAでは、71例(9.3%)にMTAP欠損が認められました。MTAP欠損は膵臓がん・尿路上皮がん・胆道がん・悪性黒色腫・頭頸部がんで特に高頻度でした。MTAP欠損はCDKN2A/CDKN2B欠損と強く関連していました。

予後解析では、MTAP欠損例の生存期間中央値は14.8か月で、MTAP欠損のない野生型の37.4か月と比較して有意に短く(ハザード比:1.45、95%CI: 1.05–2.01、P=0.023)、年齢・性別・がん種・転移部位で調整した多変量解析でも独立した予後不良因子でした。がん種別サブグループ解析では、尿路上皮がん(HR: 4.45)および胆道がん(HR: 2.58)で生存期間短縮が顕著でした。免疫チェックポイント阻害薬治療下の無増悪生存期間では、MTAP欠損例が野生型と比較して有意に短く(中央値3.4か月 vs 5.8か月;HR: 1.74、95%CI: 1.10–2.75;P=0.016)、悪性黒色腫で特に顕著でした(HR: 4.05、95%CI: 1.28–12.81)。

コホートBのトランスクリプトーム解析では、MTAP欠損がんでT細胞浸潤の有意な減少が確認されました。GSEA解析では、細胞周期・RNA処理・DNA修復経路の有意な活性化、および免疫関連経路(I型インターフェロンシグナルを含む染色体9p21遺伝子群の抑制)と代謝関連経路の有意な抑制が認められ、これらが複合的にT細胞浸潤の減少と免疫チェックポイント阻害薬への抵抗性をもたらしていると考えられます(図1)。

図1  本研究結果の概要

展望

本研究の成果は、MTAP欠損がんが免疫チェックポイント阻害薬に抵抗性を示す生物学的メカニズムの一端を解明するとともに、新たな治療戦略開発の科学的根拠を提供します。現在、MTAP喪失がんの合成致死的弱点を標的としたPRMT5阻害薬(AMG193、MRTX1719/BMS-986504、TNG908など)やMAT2A阻害薬(AG-270、TNG908、IDE397、ISM3412など)の臨床試験が国内外で進行中です。今後は、これらの化学療法、免疫チェックポイント阻害薬、抗体薬物複合体との適した併用戦略の確立や、MTAP欠損を治療選択のバイオマーカーとして活用した精密医療の実現が期待されます。なお、本研究は観察研究であり、得られた成果が直ちに臨床応用されるものではありません。

論文情報

雑誌名

Clinical Cancer Research

タイトル

Comprehensive Genomic and Transcriptomic Characterization of MTAP Loss Across Advanced Solid Tumors

著者

瀬口 京介, 藤澤 孝夫, 池田 貞勝, 大山 優, 野々村 祝夫, 森実 千種, 岩田 広治, 岡野晋, 渡利 英道, 並川 健二郎, 門脇 重憲, 上野 誠, 沖 英次, 朴 将源, 結城 敏志, 山上 亘, 仁科 智裕, 工藤 敏弘, 高橋 直樹, 坂東 英明, 吉野 孝之, 中村 能章 (同等貢献著者、責任著者)

DOI

10.1158/1078-0432.CCR-25-4936 

掲載日

米国東部時間2026年5月18日(日本時間5月19日)付

URL

https://aacrjournals.org/clincancerres/article/doi/10.1158/1078-0432.CCR-25-4936/785235/Comprehensive-Genomic-and-Transcriptomic(外部サイトにリンクします)

用語解説

注1  SCRUM-Japan MONSTAR-SCREEN

全国の医療機関と連携して、固形がん患者のゲノム・トランスクリプトーム情報と臨床情報を大規模に集積・解析する国立がん研究センター東病院主導の全国多施設共同研究プログラム。

注2  MTAP(メチルチオアデノシンホスホリラーゼ)

メチオニン回収経路に関わる酵素をコードする腫瘍抑制遺伝子。MTAP遺伝子が欠損すると、MTA(メチルチオアデノシン)が細胞内外に蓄積し、がん細胞の増殖が促進されるとともに、PRMT5酵素への依存性が高まる。

注3  免疫チェックポイント阻害薬(ICB)

がん細胞が免疫細胞の働きを抑制するシグナル(チェックポイント)をブロックすることで、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにする薬剤。PD-1/PD-L1阻害薬やCTLA-4阻害薬が代表的な種類として臨床応用されている。

注4 PRMT5/MAT2A阻害薬

MTAP欠損がんの弱点である合成致死を標的とした新規治療薬候補。MTAP欠損によりがん細胞は生存をPRMT5活性に過度に依存するため、PRMT5阻害薬がMTAP欠損がん細胞に選択的に作用することが期待されている。現在複数の候補薬が臨床試験中。

注5 腫瘍免疫微小環境

腫瘍周囲の免疫細胞(T細胞・B細胞・NK細胞・樹状細胞など)、線維芽細胞、血管などで構成される腫瘍を取り巻く環境。免疫チェックポイント阻害薬の効果を左右する重要な因子。

注6 遺伝子セット濃縮解析(GSEA)

あらかじめ定義された遺伝子群が、特定のサンプル群で濃縮(活性化)または負の濃縮(抑制)されているかを統計的に評価するトランスクリプトーム解析手法。

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター東病院
消化管内科・トランスレーショナルリサーチ支援室(担当者名:瀬口 京介・藤澤 孝夫)

電話番号:04-7133-1111(代表)
Eメール:kseguchi●east.ncc.co.jp

広報窓口

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室

電話番号: 04-7133-1111(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp

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