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従来の生検法では診断が難しい肺の末梢病変に対するクライオ生検の有効性を国際共同試験で証明高品質で十分な組織量の確保により肺がんのゲノム医療への貢献が期待

2026年8月17日
国立研究開発法人国立がん研究センター

発表のポイント

  • 肺の奥深くにある末梢病変に対する組織採取は技術的に難しく、従来の生検法(鉗子生検や吸引針生検)では十分な組織量や品質を確保できないことが課題となっています。
  • クライオ生検は、組織を凍結して採取することで、従来の生検法より大きく、質の高い組織を採取でき、病理診断や遺伝子パネル検査の精度向上が期待される新しい生検法です。
  • 日本、韓国、台湾、マレーシアの4か国6施設627人を対象に、肺の末梢病変に対するクライオ生検での診断における有効性と安全性を国際共同ランダム化比較試験で検証しました。
  • 本研究の結果、クライオ生検の組織診断率は83.4%で、従来の生検法の74.9%を上回りました。さらに、従来の生検法では診断が難しい位置にある病変でも、クライオ生検がより高い組織診断率を示し、遺伝子パネル検査の成功率も従来法を上回りました。
  • 本研究成果は、肺の末梢病変に対する気管支鏡診断の精度向上や肺がんの個別化医療の発展に寄与するとともに、今後の診療ガイドラインの検討に必要な科学的根拠となることが期待されます。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(所在地:東京都中央区、理事長:間野 博行)中央病院(病院長:瀬戸 泰之)内視鏡科(呼吸器)・呼吸器内科の松元祐司医長らの研究グループは、日本、韓国、台湾、マレーシアの4か国6施設による国際共同ランダム化比較試験1を実施し、肺の末梢病変(末梢肺病変2)に対するクライオ生検単独の診断における有効性を、世界で初めて実証しました。
近年、肺がんは、CT検査の普及により肺の奥深くに位置する末梢肺病変が発見される機会が増え、またがんゲノム医療の進展により遺伝子検査を行う機会が増えています。遺伝子検査にはある程度まとまりのある組織量の採取が必要ですが、従来の鉗子生検や吸引針生検で採取できる組織量は少量であるため、十分な組織量を安全かつ高品質に採取できる生検方法が求められていました。クライオ生検は、先端を冷却した器具で組織を凍結して採取する手法で、肺がんでの検査において活用が広がっていましたが、末梢肺病変に対して、クライオ生検だけで従来の生検法より高い診断性能が得られるかどうかは十分に検証されていませんでした。
本試験では、クライオ生検と従来の生検法の有効性と安全性を比較し、その結果、組織診断率(採取した組織を基に正しく診断できた割合)は、クライオ生検群で有意に高いことが示されました。特に、従来の生検法では診断が難しい位置にある病変で、クライオ生検の有効性が顕著に認められました。安全性については、クライオ生検群では気管支鏡下の止血処置を必要とする出血が増加したものの、重篤な合併症は少なく、許容可能な安全性が示されました。
本研究成果により、末梢肺病変に対する診断精度の向上や、遺伝子検査に必要な組織採取の改善につながることが期待されます。また、クライオ生検が末梢肺病変に対する気管支鏡診断の新たな標準的手法となる可能性が示され、今後、国内外の診療ガイドラインを検討するうえで重要な科学的根拠となることが期待されます。
なお、本研究成果は、呼吸器疾患分野の国際医学誌「The Lancet Respiratory Medicine」に英国時間2026年7月29日(日本時間2026年7月30日)に掲載されました。

背景

肺がんは、日本を含めた多くの国において、がんによる死亡の主要な原因の一つです。近年、胸部CT検査や肺がん検診の普及により、末梢肺病変が発見される機会が増えています。これらの病変が肺がんなのか、それとも良性なのかを正確に診断することは、その後の治療方針を決定するうえで極めて重要です。さらに近年の肺がん診療では、遺伝子異常などに基づいて治療法を選択する個別化医療が進んでおり、診断だけでなく遺伝子検査に必要な量と質の組織を確保することが重要になっています。そのため、一度の生検で診断や遺伝子検査に必要な組織をより確実に確保できれば、追加検査や再生検の低減にもつながる可能性があります。
しかし現在、肺の病変に対して標準的に行われている気管支鏡を用いた鉗子生検(鉗子で病変の一部をつまみ取る方法)や吸引針生検(細い針を病変に刺し検体を吸引する方法)では、採取できる検体量に限界があり、また採取の過程で検体が損傷することもあるため、病変によっては十分な診断が得られないことが課題となっていました。
これに対し、クライオ生検は、先端を冷却したクライオプローブで組織を凍結させて採取する方法で、従来の生検法よりも大きく損傷の少ない組織を採取できることが知られています。しかし、これまで末梢肺病変に対して、クライオ生検だけで従来の生検法より高い診断性能が得られるかどうかは十分に検証されていませんでした。そこで本研究では、国際共同ランダム化比較試験により、その有効性と安全性を検証しました。

図1図1 従来の生検法(鉗子生検や吸引針生検)とクライオ生検の違い

研究方法

本研究では、日本、韓国、台湾、マレーシアの4か国6施設が参加する国際共同ランダム化比較試験を実施しました。胸部CT検査で長径30 mm以下の末梢肺病変が確認され、気管支鏡検査注3による診断が必要と判断された患者さん660人のうち、気管支鏡検査中に病変との位置関係を確認し、病変に到達できることが確認された627人(日本521人、韓国61人、台湾38人、マレーシア7人)を、クライオ生検群または従来の生検法群に無作為に割り付けました。主要評価項目は組織診断率(採取した組織を基に正しく診断できた割合)とし、採取検体数ごとの診断率、遺伝子パネル検査注4の成功率、安全性などを評価しました。

図2図2 試験の概要

研究結果

主要評価項目である組織診断率は、クライオ生検群が従来の生検法群より統計学的に有意に高く、クライオ生検は従来の生検法より高い組織診断率を示すことが明らかになりました。特に、従来の生検法では組織の採取が難しい、病変の辺縁までしか到達できない症例において差が顕著であり、組織診断率はクライオ生検群76.7%、従来の生検法群64.7%で、クライオ生検の方が高いことが示されました(p=0.0060)。全体でも、クライオ生検群の組織診断率は83.4%、従来の生検法群は74.9%でした(p=0.0023)。また、クライオ生検では、従来の生検法より少ない採取検体数でも高い診断率が得られました。

図3図3 主な有効性のまとめ

遺伝子パネル検査が実施された症例のうち、採取した組織から検査に必要な遺伝子情報を解析し、結果を得ることができた割合(解析成功率)は、クライオ生検群で97.6%、従来の生検法群で90.2%でした。この結果から、クライオ生検では、遺伝子パネル検査に必要な量と質を備えた組織を、より確実に採取できる可能性が示されました。
安全性については、クライオ生検群で気管支鏡下の止血処置で制御可能な中等度の出血と気胸が多く認められました。一方で、重度の出血は両群とも1%未満であり、生命を脅かす出血や、死亡、永続的な障害を伴う合併症は認められませんでした。これらの結果から、クライオ生検では出血や気胸への注意と適切な止血対策が重要であるものの、末梢肺病変に対する気管支鏡診断の精度向上に有用な検査法となる可能性が示されました。

図4図4 主な合併症

展望

本研究により、末梢肺病変に対するクライオ生検単独の有効性が、世界初の大規模ランダム化比較試験で明らかになりました。これにより、末梢肺病変に対する気管支鏡診断の精度向上が期待されるとともに、肺がん患者さんに対する遺伝子検査に必要な質の高い組織をより確実に採取できる可能性が示されました。
今後、本研究成果は国内外の診療ガイドラインの改訂や、末梢肺病変に対する気管支鏡診断の標準化に寄与することが期待されます。また、遺伝子パネル検査に必要な組織をより確実に確保できることで、患者さん一人ひとりのがんの特徴に応じた分子標的薬や免疫療法などの治療法を選択しやすくなり、より適切な肺がん診療の実現につながることが期待されます。
一方で、本手技のさらなる普及には、適切な止血手技や実施体制の整備も重要であり、今後も安全性の向上と手技の標準化に向けた研究を進め、肺がんのより正確な診断と、一人ひとりに適した治療の実現につなげてまいります。

論文情報

雑誌名

The Lancet Respiratory Medicine

タイトル

Cryobiopsy versus conventional bronchoscopic sampling for peripheral pulmonary lesions (Cryo-RCT): an open-label, parallel-group, randomised trial

著者

Yuji Matsumoto, Toshiyuki Nakai, Dongil Park, Ching-Kai Lin, Hideaki Furuse, Takuya Kawahara, Sze Shyang Kho, Hidenori Tanaka, Kazuhiro Yamada, Tetsuya Watanabe, Duk Ki Kim, Keigo Uchimura, Takaaki Tsuchida, Tatsuya Imabayashi

DOI

10.1016/S2213-2600(26)00191-8

掲載日

2026年7月30日(日本時間)

URL

https://doi.org/10.1016/S2213-2600(26)00191-8(外部サイトにリンクします)

研究費

  • 日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業
    研究事業名:若手研究
    研究課題名:末梢肺病変に対する気管支鏡の新たな検体採取法の確立(22K16181)
    研究代表者名:松元 祐司(国立がん研究センター中央病院 内視鏡科(呼吸器))

用語解説

注1 ランダム化比較試験

登録された患者さんをランダムに各治療群に割り付け治療成績を比較する、検証的な臨床試験のことです。

注2 末梢肺病変

肺の中心部から離れた末梢領域に存在する病変の総称です。肺がんのほか、炎症や感染症、良性腫瘍などさまざまな原因で生じます。近年はCT検査や肺がん検診の普及により、直径数ミリから数センチ程度の小さな末梢肺病変が発見される機会が増えています。末梢肺病変は気管支の奥深くに位置するため気管支鏡が到達しにくく、病変の位置を正確に捉えながら十分な組織を採取することが難しい場合があります。そのため、病理診断や遺伝子パネル検査に必要な量と質の組織を確保することが診断上の重要な課題となっています。

注3 気管支鏡検査

口や鼻から細い内視鏡を気管支内へ挿入し、肺や気管支の病変を観察したり、組織を採取したりする検査です。

注4 遺伝子パネル検査

がんに関連する複数の遺伝子を一度に調べる検査です。患者さん一人ひとりに適した治療法を選択するために行われます。

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院
内視鏡科(呼吸器)、呼吸器内科 松元 祐司
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:yumatsum●ncc.go.jp

広報窓口

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp

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