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国立がん研究センター

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新たな希少がん分類を策定実臨床に即した分類の活用により希少がん対策の推進を期待 日本のがん発生の約2割が希少がんに該当する実態も確認

2025年6月10日
国立研究開発法人国立がん研究センター

発表のポイント

  • 希少がんは、患者さんの数が少ないため、診療・受療上の課題があることが知られています。希少がん対策を推進するためには、どのがんが希少がんなのかを明確に分類し、実態を把握する必要がありますが、最新かつ実臨床に即した分類がなく、実態把握が困難な状況でした。
  • 国立がん研究センター中央病院 希少がんセンターは、実臨床に即した新たな希少がん分類「New Classification of Rare Cancers(NCRC)」を策定し、がんが発生することが少ない臓器31部位のがんと、がんの発生が多い臓器であるが発生が少ない特定の組織型のがん364種を希少がんに分類しました。
  • 新たに策定した希少がん分類に従って、全国がん登録データを解析したところ、2016年から2019年に日本で診断されたがんの約2割が希少がんに該当し、希少がん全体としては決して数の少ないがんとは言えないことを明らかにしました。また、これまで用いられてきた欧州の希少がん分類では含まれなかった希少がんも特定されました。
  • 実臨床に即した希少がん分類を政策に活用することにより、日本の希少がん対策が進むことが期待されます。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(所在地:東京都中央区、理事長:間野 博行) 中央病院(病院長:瀬戸 泰之) 希少がんセンター1は、がんが発生する臓器と組織型で希少がんを分類する、新しい希少がん分類「New Classification of Rare Cancers(NCRC)」を策定しました。また、この希少がん分類で、日本のがん罹患を網羅する全国がん登録2データを解析したところ、2016年から2019年に日本で診断されたがんの約2割が希少がんであることが明らかになりました。また、これまで用いられてきた欧州の希少がん分類では含まれなかった希少がんも特定されました。
希少がんは、厚生労働省の希少がん医療・支援のあり方に関する検討会報告書(2015年8月)において、「概ね罹患率人口 10 万人当たり6例未満、数が少ないため診療・受療上の課題が他のがん種に比べて大きい」がん種と定義され、分類は欧州で開発されたRARECARE分類を参考とすることになっています。しかし、RARECARE分類は、病気の性質や日本での発生頻度とのずれがあることや最新の分類ではないことなどから、日本の実臨床に即した希少がん分類の開発が必要とされていました。
新たに策定した希少がん分類は、年間発生数が人口10万人あたり6例未満であることを基準に、がんが発生することが少ない臓器31部位のがんと、がんの発生が多い臓器であるが発生が少ない特定の組織型のがん364種を希少がんに分類しました。
どのがんが希少がんかを明確にすることは、希少がんの実態把握や政策の推進に不可欠であり、本希少がん分類の活用により、日本の希少がん対策が進むことが期待されます。

図1 New Classification of Rare Cancers(NCRC)の成果
図1

背景

希少がんは患者さんの数が少ないことから、情報が少なく、診断や治療が難しいという課題があります。その課題を克服するため、第3期がん対策推進基本計画(2018年3月)において希少がんへの対応は重要な施策として位置づけられ、専門的な診療体制の整備や研究が推進されてきました。さらに第4期がん対策推進基本計画(2023年3月)においては、適切な診断に基づく治療を提供するための体制整備を推進に取り組むべきであると明記されました。
どのがんが希少がんであるかを明確にするため、2015年に開催された厚生労働省「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」において、「概ね罹患率人口 10 万人当たり6例未満、数が少ないため診療・受療上の課題が他のがん種に比べて大きい」がん種と定義され、分類については欧州のRARECARE分類が参考として用いられました。しかし、欧州の分類を、日本の希少がんの実態把握に適用させることに課題も指摘され、日本の実臨床に即した分類が必要とされていました。

参考)
厚生労働省 がん対策推進基本計画
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000183313.html(2025年6月3日参照)(外部サイトにリンクします)
厚生労働省 希少がん医療・支援のあり方に関する検討会
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kenkou_355962.html(2025年6月3日参照)(外部サイトにリンクします)

New Classification of Rare Cancers(NCRC)および全国がん登録を用いた研究結果の概要

希少がんは、がんの発生が少ない臓器に発生するがんと、がんの発生が多い臓器のがんに発生する希少な組織型のがんに分けられます。そのため、新たに策定した希少がん分類NCRCは、世界的にがんの分類で用いられる国際疾病分類 腫瘍学第3.2版(ICD-O-3.2)と、がんの組織型の分類に用いられるWHO分類第5版を用いて、臓器と組織型を組み合わせて作成しました。
また、年間発生人口10万人あたり6例未満を基準に、日本のがん罹患を網羅する全国がん登録データ(2016~2019年)約410万例を、NCRCを用いて分析した結果、がんが発生することが少ない31臓器のがんと、がんの発生が多い臓器に発生する希少な組織型のがん364種からなる分類となりました。また、希少がんに該当するがんは、全発生数の約2割を占めることが明らかになりました。欧州のRARECARE分類と比較した結果では、RARECARE分類では希少がんに該当しないが、NCRCでは希少がんに該当するがんが、全がんの5.7%であることが明らかとなりました(図2)。
NCRCの詳細は希少がんセンターのホームページで2025年6月10日よりご確認いただけます。
https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/Seminar_event/NCRC/index.html

図2 NCRCとRARECARE分類の比較

図2

参考)
国際疾病分類腫瘍学第3.2版(ICD-O-3.2)
https://ctr-info.ncc.go.jp/hcr_info/learn/(2025年6月3日参照)(外部サイトにリンクします)
WHO分類(第5版)
https://tumourclassification.iarc.who.int/welcome/(2025年6月3日参照)(外部サイトにリンクします)
RARECARE分類
http://ncc.utj.co.jp/download/rarecarenet-list-%e5%92%8c%e8%a8%b3/(2025年6月3日参照)(外部サイトにリンクします)

展望

本研究で策定した新たな希少がんの分類は、今後、日本の希少がん対策において活用され、希少がんの医療体制の整備や専門医療の集約、支援策の充実につながることが期待されるもので、希少がん患者さんが適切な医療にアクセスできる社会の実現に向けた、重要な研究成果です。
今後、厚生労働省が実施する「がん診療連携拠点病院の現況報告」や「患者体験調査」、国立がん研究センターが運営する「がん情報サービス」における情報提供などでも活用され、将来的にはアジアの希少がんの治療開発を推進する国際共同研究MASTER KEY Asia3での利用によるアジア諸国との連携や国際がん研究機関(IARC)を通じた全世界での新しい希少がん分類の基盤とすることが考えられます。
新たな組織型や疾患の登場に応じて、全国がん登録をもとに分類を継続的に見直し、アジア各国とのデータ連携を通じて、世界に向けた情報発信や協働の促進を目指してまいります。

論文情報

雑誌名

Pathology International

タイトル

Proposal for a new classification of rare cancers adopting updated histological tumor types

著者

Ryoko Rikitake, Yasushi Yatabe, Yoko Yamamoto, Tatsunori Shimoi, Shintaro Iwata, Yasushi Goto, Yu Mizushima, Akira Kawai, Takahiro Higashi

DOI

10.1111/pin.70021

掲載日

2025年5月16日

URL

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pin.70021(外部サイトにリンクします)

研究費

研究費名(支援先)

厚生労働科学研究費

研究事業名

がん対策推進総合研究事業

研究課題名

希少がん診療・相談支援におけるネットワーク構築に資する研究

研究代表者名

川井 章

用語解説

注1 希少がんセンター

希少がんの正しい診療を行うこと、希少がんに関する新しい知見を集め、希少がんの研究・治療開発を推進すること、さらに実際の診療・研究活動を通して、希少がん医療の課題を明らかにし、解決していくことを目指して、国立がん研究センター各部局が連携して、2014年6月23日に「希少がんセンター」が開設されました。すべての希少がんの患者さんに“寄り添う”気持ちと、“グローバル”な視野をもって、希少がんの抱える問題に全力で取り組んでいます。
詳細はこちらのサイトをご覧ください。https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/index.html

注2 全国がん登録

全国がん登録は、日本でがんと診断されたすべての人のデータを、国で1つにまとめて集計・分析・管理する仕組みです。この制度は2016年1月に始まりました。全国がん登録制度により、居住地域にかかわらず全国どこの医療機関で診断を受けても、がんと診断された人のデータは都道府県に設置された「がん登録室」を通じて集められ、国のデータベースで一元管理されています。
詳細はこちらのサイトをご覧ください。https://ganjoho.jp/public/institution/registry/national.html

注3 MASTER KEY Asia

希少がん患者さんの遺伝子情報や診療・予後情報などを網羅的に収集し、研究の基礎データとなるアジア地域の大規模なデータベースを構築する国際共同研究です。アジア地域では、がんゲノム医療の普及が十分ではないものの、本国際共同研究では対象となった希少がん患者さんのゲノム情報を次世代シークエンサーで解析し、診療・予後情報と合わせデータを収集します。これにより、さらに多くの希少がん種や遺伝子、臨床情報データの活用が可能となり、希少がん患者さんで治療候補となる遺伝子異常や有効な薬剤の検証、新規薬剤開発の探求がより加速することが期待されます。
詳細はこちらのサイトをご覧ください。https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/masterkeyproject/information/MKA.html

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター
中央病院 希少がんセンター
谷田部 恭、川井 章
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール: yyatabe●ncc.go.jp akawai●ncc.go.jp

広報窓口

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp

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