HER2陽性胃がんに対する一次治療としてのザニダタマブ、チスレリヅマブ、化学療法の併用が生存期間を有意に延長
2026年5月28日
国立研究開発法人国立がん研究センター
発表のポイント
- 本研究では、HER2陽性の切除不能または転移性胃・食道接合部・食道腺がん (以下胃がん)に対し、二重HER2標的抗体ザニダタマブ+抗PD-1抗体チスレリズマブと化学療法併用、もしくはザニダタマブ+化学療法の一次治療が、従来の標準治療であるトラスツズマブ+化学療法と比較して無増悪生存期間を有意に延長することを確認しました。
- 無増悪生存期間の中央値は、ザニダタマブ+チスレリズマブ+化学療法群およびザニダタマブ+化学療法群のいずれも12.4カ月と、トラスツズマブ+化学療法群の8.1カ月と比較して有意に良好であり、それぞれ増悪もしくは死亡までのリスクを37%、35%軽減したことが確認されました。
- 全生存期間も、ザニダタマブ+チスレリズマブ+化学療法群で中央値26.4カ月と、トラスツズマブ+化学療法群の19.2カ月を有意に上回り、死亡リスクが28%低下しました。
- ザニダタマブ+化学療法群の生存期間中央値は24.4カ月であり、中間解析時点では統計的有意差には達しておらず、今後さらに追加解析される予定です。
- ザニダタマブを含む治療群では下痢などの消化管毒性が多く認められましたが、多くは早期に発現し管理可能であり、新たな安全性上の懸念は確認されませんでした。
- 本研究は、国際共同第III相試験としてHER2陽性胃がんに対する新たな一次治療選択肢を示した意義が評価され米国東部時間2026年5月27日に科学雑誌「The New England Journal of Medicine」に掲載されました。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:間野 博行、東京都中央区)東病院(病院長:土井 俊彦、千葉県柏市)設楽 紘平消化管内科長らの研究グループは、HER2陽性(IHC3+もしくはIHC2+かつISH陽性)注1の切除不能または転移性胃・食道接合部・食道腺がん(以下胃がん)に対する一次治療として、二重HER2標的抗体ザニダタマブ注2を用いた治療の有効性と安全性を検証するため、グローバル規模の第III相無作為化比較試験「HERIZON-GEA-01試験」を実施しました。
本試験では、未治療のHER2陽性進行胃がん患者さんを対象に、ザニダタマブ+チスレリズマブ (抗PD-1抗体) 注3+化学療法、ザニダタマブ+化学療法、またはトラスツズマブ+化学療法の3群に無作為に割り付け、主要評価項目である無増悪生存期間および全生存期間を比較しました。その結果、ザニダタマブを含む2群はいずれも無増悪生存期間を有意に延長し、特にチスレリズマブ併用群では全生存期間の有意な改善が確認されました。安全性については、ザニダタマブ併用群で下痢などの消化管毒性が増加することが認められたものの、大部分は低グレード注4で管理可能であり、新たな安全性上の懸念は確認されませんでした。
本研究は、HER2陽性胃がんに対する新たな一次治療選択肢を示した意義が評価され米国東部時間2026年5月27日に科学雑誌「The New England Journal of Medicine」に掲載されました。
背景
胃がんは世界的に依然として予後不良な疾患であり、HER2陽性の胃がんは全体の20%程度を占めます。一次治療では化学療法に抗HER2抗体であるトラスツズマブを加えた療法が長らく標準治療とされてきました。近年、免疫チェックポイント阻害薬の併用により治療成績の改善がみられる一方で、依然として治療効果には限界があり、より有効なHER2標的治療の開発が求められていました。
ザニダタマブは、HER2の異なる2つの部位に同時に結合する二重特異性抗体であり、HER2分子のクラスター形成を介した強力なHER2シグナル抑制と免疫介在性抗腫瘍効果(補体依存性細胞障害など)を誘導する特徴を有します。これまでの第II相試験において、ザニダタマブと化学療法の併用もしくはザニダタマブ、抗PD-1抗体と化学療法を組み合わせた一次治療は有望な治療効果を示しており、HERIZON-GEA-01試験はその有効性を検証する国際共同第III相比較試験です。
研究成果(方法・結果)
HERIZON-GEA-01試験では、2021年12月から2025年2月までに世界33か国225施設でHER2陽性胃がんを有する計914例の患者さんが登録され、ザニダタマブ+チスレリズマブ+化学療法群(302例)、ザニダタマブ+化学療法群(304例)、トラスツズマブ+化学療法群(308例)に無作為に割り付けられました。主要評価項目は無増悪生存期間および全生存期間でした。解析時点で治療継続をしていた割合は、ザニダタマブ+チスレリズマブ+化学療法群29%、ザニダタマブ+化学療法群23%、トラスツズマブ+化学療法群12%であり、後治療として免疫療法は2% / 9% / 15%、HER2標的治療は13% / 23% / 29%に使用されていました。
主要評価項目である無増悪生存期間(図1)において、ザニダタマブ+チスレリズマブ+化学療法群の中央値は12.4カ月(95%信頼区間:9.8-18.5ヵ月)であり、トラスツズマブ+化学療法群の 8.1カ月 (95%信頼区間:7.0-8.9ヵ月)を有意に上回りました (増悪もしくは死亡リスクのハザード比0.63, P<0.001)。同様にザニダタマブ+化学療法群も無増悪生存期間の中央値は 12.4カ月(95%信頼区間:9.8-14.5ヵ月)であり、トラスツズマブ+化学療法群を有意に上回りました(増悪もしくは死亡のリスクのハザード比0.65)。18カ月時点の無増悪割合は、ザニダタマブ+チスレリズマブ+化学療法群で43.9%、ザニダタマブ+化学療法群で38.0%、トラスツズマブ+化学療法群で20.9%でした。
図1. 無増悪生存期間の生存曲線

もう一つの主要評価項目である全生存期間(図2)においても、ザニダタマブ+チスレリズマブ+化学療法群で中央値 26.4カ月(95%信頼区間:21.5-30.3ヵ月)であり、トラスツズマブ+化学療法群 19.2カ月(95%信頼区間:16.8-21.8ヵ月)に対し有意に延長し(死亡リスクのハザード比 0.72、95%信頼区間 0.57-0.90、P=0.004)、死亡リスクが28%低下しました。一方、ザニダタマブ+化学療法群の全生存期間中央値は 24.4カ月(95%信頼区間:20.4-30.0ヵ月)でトラスツズマブ+化学療法群と比較して改善傾向は示したものの、本中間解析時点では統計学的有意差に到達せず(ハザード比 0.80、95%信頼区間 0.64–1.01、P=0.06)、今後さらに解析される予定です。
図2.生存期間の生存曲線

副次評価項目の一つである奏効割合は、ザニダタマブ+チスレリズマブ+化学療法群で70.7%、ザニダタマブ+化学療法群で69.6%、トラスツズマブ+化学療法群65.7%であり、そのうち完全奏効が得られた割合は20%、17%、11%でした。奏効期間の中央値は、それぞれ20.7カ月、14.3カ月、8.3カ月と、ザニダタマブを含む治療群でより長い傾向を示しました。
サブグループ解析では、大半のグループにおいてザニダタマブ併用群で良好な無増悪生存期間延長もしくは生存延長効果が示唆されました。無増悪生存期間の解析においてIHC2+の症例ではザニダタマブ併用の効果が乏しい結果でしたが、症例数が少なく、また生存期間における死亡のハザード比は0.82とザニダタマブ+チスレリズマブ+化学療法群に良好な結果でした。探索的な解析ではあるものの、ザニダタマブ併用の効果はPD-L1発現(TAPスコア)注5に関わらず発揮されていることが示唆されました。
有害事象については、グレード3以上の有害事象はザニダタマブ+チスレリズマブ+化学療法群、ザニダタマブ+化学療法、トラスツズマブ+化学療法群において、それぞれ83.3%、73.8%、74.5%に認められました。ザニダタマブもしくはトラスツズマブを中止するに至った有害事象は13.3%、10.5%、5.6%に発生しました。ザニダタマブ併用群では下痢が重要な毒性で、グレード3以上の下痢はそれぞれの治療群で24.8%、20.0%、12.9%に認められましたが、主に治療早期に発現し、止痢剤による予防的対策を含め管理可能でした。チスレリズマブ併用群では免疫関連有害事象が37.8%に認められましたが、既知の安全性プロファイルと概ね一致していました。
展望
本研究は、HER2陽性胃・食道接合部腺がんの一次治療において、ザニダタマブを含む治療が無増悪生存期間を改善し、さらにチスレリズマブ併用により全生存期間の有意な延長を示したことを明らかにしました。今後は、ザニダタマブ+化学療法群の全生存期間について予定された追加解析を含め、長期フォローアップを通じて本治療の臨床的な位置づけがより明確になることが期待されます。
一方、HER2陽性胃がんでは、PD-L1陽性患者を対象にトラスツズマブ+化学療法+ペムブロリズマブ併用療法の有効性が報告され、日本でも承認を得ています。治療選択の最適化にあたっては、免疫療法の併用に加えて、HER2標的治療そのものの質を高めるアプローチも重要であることが本試験から示唆されたと考えられます。今後は、患者背景やバイオマーカー注6を踏まえた治療戦略の構築が進むとともに、実臨床における副作用マネジメント、とりわけ下痢に対する予防・早期介入を含む対策の最適化が重要な課題です。
論文情報
雑誌名
The New England Journal of Medicine
タイトル
Zanidatamab with and without Tislelizumab in HER2-Positive Gastric Cancer
著者
Kohei Shitara, Elena Elimova, Tianshu Liu, Josep Tabernero, Keun-Wook Lee, Michael Schenker, Niall C. Tebbutt, Jaffer Ajani, Norhidayu Salimin, Geoffrey Ku, Jong Gwang Kim, Inmaculada Ales Diaz, Jingdong Zhang, Filippo Pietrantonio, Li-Yuan Bai, Samuel Le Sourd, Jun Zhao, Cinta Hierro, Andrew Kiberu, Filip Van Herpe, Yuanyuan Bao, Hanze Zhang, Lin Yang, Vincent Li, Laina M. Gartner, Ye Chen, Jonathan Grim, Sun Young Rha, Lin Shen
DOI
10.1056/NEJMoa2517729
掲載日
米国東部時間2026年5月27日(日本時間5月28日)付
URL
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2517729(外部サイトにリンクします)研究費
研究費名(支援先)
Jazz Pharmaceuticals plc、BeOne International Co, Ltd
研究課題名
HER2陽性の切除不能な局所進行性または転移性胃食道腺癌(GEA)患者を対象としたチスレリズマブ併用又は非併用下で化学療法と組み合わせたzanidatamabの無作為化、多施設共同、第III相試験 (HERIZON-GEA-01)
研究代表者名
Jazz Pharmaceuticals plc、BeOne International Co, Ltd.
用語解説
注1 HER2陽性胃がん
HER2発現を認める胃がんのこと。免疫染色で蛋白発現を分類し強陽性(3+)の場合か、中等度陽性(2+)かつ遺伝子増幅(ISH法による)を認める場合のこと。
注2 二重HER2標的抗体ザニダタマブ
HER2の異なる2つの細胞外領域(ドメイン2および4)に同時に結合する二重特異性モノクローナル抗体。HER2分子のクラスター形成と内在化を促進し、腫瘍増殖シグナルの抑制に加えて、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、補体依存性細胞傷害などの免疫介在性抗腫瘍効果を増強する特徴を有する。
注3 チスレリズマブ(tislelizumab)
プログラム細胞死1(PD-1)受容体を標的とする免疫チェックポイント阻害抗体。Fcγ受容体への結合を最小化するよう設計されており、マクロファージによる抗体依存性貪食を抑制することで、免疫応答の持続や治療抵抗性の軽減が期待されている。
注4 グレード
副作用はCTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)の規準に従って判断される。これは、がん治療や薬剤使用による有害事象の重症度を評価するための国際的に用いられる基準である。グレード1から5までの5段階で分類され、グレードが高いほど重症度が高いことを示す。
注5 PD-L1(TAPスコア)
PD-L1発現を評価する指標の一つで、腫瘍面積に占めるPD-L1陽性領域の割合(Tumor Area Positivity)。本試験では後方視的に評価された。
注6 バイオマーカー
ある疾患の有無や、病状の変化・進行・治療効果などで指標となる項目(血圧、心拍数、心電図、認知機能テストなど)及び生体内の物質(タンパク質、代謝物や遺伝子など)を指す。
お問い合わせ先
- 研究に関するお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院
消化管内科 設楽 紘平
電話番号:04-7133-1111(代表)
Eメール:kshitara●east.ncc.go.jp - 広報窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)
電話番号:04-7133-1111(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp
