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骨盤リンパ節郭清を支援する手術AIの有用性を外科医36名で実証―国際医学誌「npj Digital Medicine」に研究成果を発表―

2026年8月20日
国立研究開発法人国立がん研究センター
株式会社Jmees

発表のポイント

  • AIによる手術支援が、骨盤リンパ節郭清中の解剖学的構造に対する外科医の認識を向上させることを明らかにしました。
  • 36名の外科医を対象に、AIによる支援の有無で解剖学的構造の認識を比較する性能評価試験を実施し、AIによる手術支援技術の有用性を示しました。
  • 本研究で性能評価を行ったAI技術は、その後、内視鏡手術支援プログラム「SurVis-Pel」(承認番号:30700BZX00342000)として製品化され、本研究成果が国際医学誌「npj Digital Medicine」に掲載されました。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(所在地:東京都中央区、理事長:間野博行)東病院(病院長:土井俊彦、千葉県柏市)と株式会社Jmees(所在地:千葉県柏市、代表取締役:松崎博貴)の研究グループが取り組んできた、AI(人工知能)を活用した手術支援技術に関する研究成果が、このたび国際医学誌「npj Digital Medicine」に掲載されました。

本研究では、AIによる手術支援が骨盤リンパ節郭清中の解剖学的構造に対する外科医の認識を向上させることを明らかにしました。36名の外科医を対象とした性能評価試験において、術中に重要な解剖学的構造をほぼ遅延なく強調表示するAI技術を用いた手術支援システムの有用性を検証し、AIによる支援が外科医の解剖学的構造の認識を向上させることを示しました。本研究成果は、AIが外科医の判断を支援し、安全で質の高い手術の実現に貢献する可能性を示すものであり、今後のAI手術支援技術の発展につながることが期待されます。

背景

骨盤リンパ節郭清は、大腸がんや子宮頸がん、前立腺がん、膀胱がんなどの手術において、がんのリンパ節への転移を調べるとともに、転移の可能性があるリンパ節を切除し、再発を防ぐために行われる重要な手術手技です。一方で、骨盤内には血管や神経、尿管などの重要な臓器や組織が複雑に存在しているため、手術には高度な解剖学的知識と技術が求められます。これらを損傷した場合には、出血や排尿機能、性機能の障害など、重大な合併症につながる可能性があります。

近年、AI(人工知能)の画像認識技術の発展により、手術中の映像から重要な解剖学的構造を認識し、術者を支援する技術の研究・開発が進められています。しかし、AIによる手術支援が外科医の解剖学的構造の認識をどの程度向上させるかを検証した研究は限られていました。そこで本研究では、術中に重要な解剖学的構造を自動で認識し、ほぼ遅延なく強調表示するAI技術を用い、外科医を対象とした性能評価試験を実施し、AIによる手術支援が外科医の解剖学的構造の認識に与える影響を検証しました。

研究成果(方法・結果)

・AIを用いた手術支援システムの開発
本研究グループは、骨盤リンパ節郭清の手術映像をAIに学習させ、手術中に損傷を避ける必要がある4つの重要な臓器や組織を自動的に認識する手術支援システムを開発しました。対象としたのは、外腸骨動脈、外腸骨静脈、尿管、閉鎖神経です。これらは骨盤リンパ節郭清を行う際の重要な目印となる一方、周囲の脂肪や組織に隠れることがあり、手術映像だけでは位置や境界を判断しにくい場合があります。

開発したシステムは、手術中の内視鏡映像をAIが解析し、4つの臓器や組織をそれぞれ異なる色でモニター上に強調表示します。映像の解析と表示はほぼ遅延なく行われるため、外科医は通常の手術映像とAIによる強調表示を同時に確認できます。本研究では、国立がん研究センター東病院を含む複数の医療機関で実施された293件の骨盤リンパ節郭清の手術映像を用いて、AIモデルの開発と性能評価を行いました。

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・36名の外科医を対象とした性能評価試験
次に、AIによる支援が、外科医による重要な臓器や組織の認識にどのような影響を与えるかを調べるため、外科医を対象とした性能評価試験を実施しました。試験には、大腸外科、婦人科、泌尿器科の外科医36名が参加しました。参加した外科医は、骨盤リンパ節郭清の手術映像から作成した0.5秒間の短い動画640本を見て、映像内に対象となる臓器や組織が存在するかを回答しました。
評価は、通常の手術映像のみを見る場合と、AIが臓器や組織を強調表示した映像を補助情報として参照する場合の2つの条件で行い、それぞれの回答結果を比較しました。これにより、AIによる支援が、外科医が重要な臓器や組織を正しく見つける能力と、映っていない臓器や組織を誤って存在すると判断しない能力に与える影響を検証しました。
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・AIによる支援で臓器や組織の認識性能が向上
性能評価試験の結果、AIによる強調表示を用いた場合は、通常の手術映像のみを見た場合と比較して、対象とした4つすべての臓器や組織に対する外科医の認識性能が向上しました。対象となる臓器や組織が映像内に存在するときに、正しく見つけられた割合である「感度」は、外腸骨動脈で6.9ポイント、外腸骨静脈で15.8ポイント、尿管で15.3ポイント、閉鎖神経で10.0ポイント上昇しました。  また、対象となる臓器や組織が映像内に存在しないときに、存在しないと正しく判断できた割合である「特異度」についても、AIによる支援を用いることで向上しました。感度と特異度はいずれも、4つすべての臓器や組織において統計学的に有意な改善が認められました。この結果から、AIによる強調表示は、単に臓器や組織を見つけやすくするだけでなく、映っていない臓器や組織を誤って認識することを抑えながら、外科医による重要な臓器や組織の認識を支援できることが示されました。

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・診療科や経験年数を問わず認識を支援
本試験には、大腸外科、婦人科、泌尿器科という異なる診療科の外科医が参加しており、手術経験にも幅がありました。解析の結果、AIによる支援は、外科医の診療科や経験年数にかかわらず、重要な臓器や組織の認識を支援する傾向を示しました。骨盤リンパ節郭清は複数の診療科で行われる手術手技ですが、診療科によって日常的に扱う臓器や手術の方法は異なります。本研究の結果は、それぞれの診療科に共通する重要な臓器や組織をAIが強調表示することで、診療科や経験の違いを越えて外科医の認識を支援できる可能性を示しています。  一方、本研究は、手術映像から切り出した0.5秒間の短い動画を用いて、外科医による臓器や組織の認識性能を評価したものです。実際の手術における合併症の減少や治療成績の向上を直接検証したものではありません。今後は、実際の手術中に本システムを使用した場合の有用性や安全性について、さらに検証する必要があります。

展望

本研究で性能評価を行ったAI技術は、その後、株式会社Jmeesにより製品化され、2025年12月22日に内視鏡手術支援プログラム「SurVis-Pel」として厚生労働省の医療機器承認を取得しています。

今後は、実臨床での使用を通じて、本技術の有用性や安全性に関するさらなるエビデンスの蓄積を進めていきます。また、AIによる支援が外科医の認識を補助するだけでなく、臓器損傷などの合併症低減や、より安全で質の高い手術の実現に貢献できるかについて、臨床現場で検証を進めていきます。将来的には、外科医の経験や専門領域にかかわらず、重要な臓器や組織を適切に認識できる手術環境の構築を通じて、より多くの患者さんが安全で質の高い手術を受けられる医療の実現が期待されます。

論文情報

雑誌名

npj Digital Medicine

タイトル

Enhancing anatomical recognition by surgeons during pelvic lymph node dissection using  artificial intelligence

著者

Daichi Kitaguchi, Shin Takenaka, Yasukazu Nakanishi, Shun Yamaguchi, Tomohiro Noda, Suguru Odajima, Junki Onishi, Yuki Koike, Kohei Hirose, Madoka Kataoka, Mitsumasa Homma, Atsushi Kouno, Hiroki Matsuzaki, Nobuyoshi Takeshita, Hitoshi Masuda, Hiroshi Tanabe, Yuichiro Tsukada

DOI

DOI:10.1038/s41746-026-02936-4

掲載日

2026年6月30日

URL

https://www.nature.com/articles/s41746-026-02936-4(外部サイトにリンクします)

研究費

研究費名(支援先)

AMED

研究事業名

医工連携イノベーション推進事業

研究課題名

骨盤内腫瘍の内視鏡外科手術における術中リアルタイムAIナビゲーションの開発・事業化

研究代表者名

株式会社Jmees 代表取締役 松崎博貴

株式会社Jmeesについて

株式会社Jmeesは、2019年に設立され、国立がん研究センター発の医療AIスタートアップとしてAI技術を活用した医療機器などの開発に取り組んでいます。
「すべての人々に安全で質の高い医療を届ける」ことを目指し、臨床現場の課題を起点とした研究開発を推進しています。AIによる画像解析技術を活用した手術支援システム「SurVis」シリーズの開発をはじめ、大腸内視鏡検査の前処置を支援するAIアプリ「ナースコープ」など、医療現場の安全性向上と業務負担軽減に貢献するソリューションの社会実装を進めています。

株式会社Jmees: https://www.jmees-inc.com

内視鏡手術支援プログラム「SurVis-Pel」: https://www.jmees-inc.com/products/survis-pel/

お問い合わせ先

  • 研究に関するお問い合わせ
    国立研究開発法人国立がん研究センター東病院
    大腸外科 塚田祐一郎
    電話番号:04-7133-1111(代表)
    Eメール:yutsukad●east.ncc.go.jp

  • 株式会社Jmees
    代表取締役 松崎 博貴
    JmeesのHPのcontactページよりお願いいたします
    ホームページ:https://www.jmees-inc.com

  • 広報窓口
    国立研究開発法人国立がん研究センター
    企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)
    電話番号:04-7133-1111(代表)
    Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp 

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