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国立がん研究センター 東病院

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設備の詳細 医学物理

はじめに

一般的な放射線治療では光子をビームとする光子線が用いられるのに対して、陽子線治療は陽子核がビームとして用いられます。陽子線が患者さんに照射されると、患者さんの体内でビームが停止する寸前に、その部分に大きな治療効果をもたらすブラックピークと呼ばれる線量(放射線の量)分布を形成します。陽子線治療では、このような陽子線が持つ物理特性を活かして、腫瘍にのみ沢山の線量を集中させる治療が実現できます。

陽子線治療

陽子線治療システムは、非常に大きな装置になります。陽子線を発生する加速器は、陽子核を光の速度の60%程まで加速します。このような陽子線は、体表面から人体中の30センチメートル程のところまで到達することが可能になります。また、照射装置には回転ガントリーと呼ばれる装置(直径10メートル、重量120トンの駆動装置)が利用され、患者さんは寝台に寝たままの状態であらゆる方向からの陽子線照射が実現可能です。当院の陽子線治療システムは、重量が220トンあるサイクロトロンと呼ばれる陽子線加速器1台、2室の回転ガントリー照射室と1室の水平固定照射室の計3つの治療室からなります。陽子線治療システム全体としては35メートル×55メートル程の大規模なシステムです。尚、医療専用陽子線治療システムとしては国内初の導入、1998年から臨床利用開始(世界で2番目)、また、2001年に国内初の医療機器としての薬事承認および(高度)先進医療適応の実績を持っています。

東病院における陽子線治療システムの概観

当院の陽子線治療システムの特徴

大強度の陽子線をあらゆる照射角度から提供可能

当院の陽子線発生装置は、サイクロトロン加速器を利用しています。現在、国内には数施設の陽子線治療施設がありますが、サイクロトロン加速器を利用している施設は当院が唯一です(海外の陽子線治療はサイクロトロン加速器を用いる場合がほとんどです)。サイクロトロン加速器の特徴は、非常に大強度の陽子線を連続的なビームとして提供できる点にあります。それにより腫瘍への陽子線照射が非常に短時間で済み、患者さんへの負担を軽減することができます。そればかりではなく、短時間で照射することにより、照射中の患者さんの動きが軽減されるため、腫瘍へ正確に照射する高精度治療が可能となります。更にこの短時間での照射は、呼吸性移動を伴う肝臓や肺の腫瘍への照射を高い精度で実施できます。また、回転ガントリー装置を有していることから、患者さんの体内のどの位置の腫瘍に対しても、最適な照射方向から大強度の陽子線を照射することが可能です。

R&D(Research and Development)を主軸とする最先端陽子線治療装置

当院には国内では希少な医学物理を専門にするスタッフが複数名従事しています。チーム医療の一員として、そのスタッフ等は医学物理の専門知識を治療に活かし、常にR&Dの精神を持ち続けながら最先端の陽子線治療技術の提供を目指しています。その成果として、当院の陽子線治療はこれまで日進月歩で高精度化に向かって進化を繰り返し、他の施設にはない最先端技術を陽子線治療に導入し続けています。

世界最先端の陽子線照射技術 その1(陽子線が照射された腫瘍部分を観る)

陽子線を照射すると、患者さんの体内の原子核と照射された陽子核が観測困難な程の希な原子核反応を引き起こします。その希な原子核反応より生成されるポジトロン放出核を検出器で観測することで、陽子線が何処に照射されたかを可視化することが可能です。当院では陽子線のビームライン上にポジトロン放出核の位置と量を高精度で観測可能な装置(Beam ON-LINE PET system mounted on a proton rotating gantry port:BOLPs-RGp)の開発に成功しました。この装置を利用して日々の患者さんへの陽子線照射を行うことで、腫瘍へ的確に陽子線が照射されているかを確認しながら高精度の陽子線治療を実現しています。この装置は世界で唯一当院にしかなく、患者さんの体内の何処に陽子線が照射されているかを確認しながらの高精度陽子線治療をしている施設は、もちろん世界で当院のみです。現在、この装置を用いた陽子線治療は世界中から高い注目を浴び、海外の数施設で装置の導入が検討されています。

世界最先端の陽子線照射技術-その1(陽子線が照射された腫瘍部分を観る)

世界最先端の陽子線照射技術 その2(腫瘍への陽子線集中性を高める)

現在、国内で実施されている全ての陽子線治療は、予め大きく3次元的に均一な線量分布を形成し、それを患者さん毎の腫瘍形状に整形するブロードビーム法と呼ばれる照射手法を採用しています。当院には、ビームを細いペンシルビーム形状に整形した大強度の陽子線を、腫瘍形状に沿って高速スキャンする高精度な陽子線照射法であるスキャニング照射法を実施可能にする照射機器が搭載されています。この照射法によって、これまでより腫瘍へ陽子線を集中させることが可能となり、高精度の陽子線治療が実現できるようになります。現時点では、まだ臨床利用されていませんが、近い内に国内最初のスキャニング照射法による陽子線治療を患者さんへ提供できるようになる予定です。

世界最先端の陽子線照射技術-その2(腫瘍への陽子線集中性を高める)

世界最先端の陽子線照射技術 その3(体内中の腫瘍の位置を正確に観る)

陽子線治療は腫瘍に対して線量集中性が高いという特徴を持っていますが、その陽子線の特徴を最大限に引き出すためにも、腫瘍がどの位置にあるかを正確に把握する必要があります。当院では、陽子線治療室内に、任意な駆動が可能なロボット制御寝台、自走式X線CT装置およびフラットパネル検出器を用いた透視装置との複合化によって、患者さんの腫瘍が何処にあるかを正確に把握することが可能になります。この複合システムも世界初であり、今後の運用でその成果が期待されます。

世界最先端の陽子線照射技術-その3(体内中の腫瘍の位置を正確に観る)

世界最先端の陽子線照射技術 その4(動きのある臓器の腫瘍へ的確に照射する)

精度の高い照射を行なっています。

4次元的な治療計画CT(Four-Dimensional Computed Tomography)
3次元画像から、時間を加えた4次元画像へ

陽子線で治療をする前には、準備のためにいくつかの検査が必要です。
そのひとつが治療計画CT(Computed tomography)の撮影です。

陽子線治療では、体の中にある病巣に集中的に陽子線を照射し、病巣にダメージを与えて治療をすることを目的としますが、そのためには陽子線をコントロールし、正確に病巣部分に照射をすることが重要です。陽子線をどのように照射するかを、CT画像をもとに立案することを治療計画といいます。

肺や肝臓などの治療をされる方は、4次元的なCTの検査、4DCT(Four-Dimensional Computed Tomography)を陽子線治療計画のためにうけていただきます。
治療計画を立てるためには、病巣の大きさや形状、体の中のどの部分にあって、周囲の構造はどうなっているのか、病巣周辺に健康な重要臓器(例えば脊髄などの重要臓器には陽子線があたらないように計画を立てます)がないか、あったとすればそれはどのような位置関係にあるのかなどの3次元的な構造を調べておく必要があります。また、呼吸などによって体の中の臓器は常に動いていますので、時間を加えた4次元的な構造の把握が重要となってくるのです。

  • 図1 CT画像による3次元的な体内構造矢印が病巣部分
    画像1 CT画像による3次元的な体内構造
  • 図2 治療計画専用の大口径マルチスライスCT装置
    画像2 治療計画専用の大口径マルチスライスCT装置

4DCTの撮影の際には、呼吸の動きをモニタリングするために胸部または腹部にセンサーを付けます。このセンサーからの呼吸情報と、連続したCT撮影をリンクさせることで4DCTを撮影することができます。
病巣が呼吸によって動いてしまう場合、動きの範囲を含めた、より広い範囲に陽子線の照射を設定するという方法があります。しかし、この方法では病巣の近くにある正常組織にも陽子線が照射されることになりますので、正常組織での副作用発生の可能性があり、良い方法とはいえません。
そこで、当院の陽子線治療では呼吸同期照射という方法で治療を行っています。これは、呼吸周期の中で最も安定している終末呼気相にのみ陽子線を照射する方法です。4DCTにより、呼吸の動きを把握し終末呼気相時に病巣がある部分のみに陽子線を照射するように設定します。より小さな範囲で、より正常組織を含まないように陽子線を設定することができますので、副作用の発生を抑えることに役立ちます。

画像3 4DCT画像による陽子線治療のシミュレーション例
図3 4DCT画像による陽子線治療のシミュレーション例

レーザービームにより呼吸による動きをモニターしながら 呼吸により病巣部の動きにあわせて照射が行なわれます。