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インフルエンザについて

 

インフルエンザとは?

インフルエンザウイルスによって発熱、高度な倦怠感、咳、鼻水、頭痛や筋肉痛などの症状が出現する病気です。
ここでは季節性インフルエンザについてご説明します。

 

抵抗力の落ちた人にとって、インフルエンザはあなどれない

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若い健康な人の場合重症化することは稀ですが、高齢者をはじめとした体の抵抗力の落ちた方の場合には注意が必要です。欧州ではインフルエンザによる死亡者の約9割を高齢者が占めることが示されています。

<参考文献>
・Esposito Sらの報告(Vaccine.2018) (外部サイトにリンクします)
・Schaffner Wらの報告(AmJ Med.2018) (外部サイトにリンクします)
・参考:インフルエンザによる死亡割合 (米国のデータ(外部サイトにリンクします)

 

がん患者さんは特に危険!

・米国の研究(2011-15年のデータ)では、免疫不全のない人と比較すると、がん患者さんがインフルエンザに罹患(りかん)した場合、死亡のリスクが高いことが報告されています(オッズ比  1.71) 。[1]

・ガンの中でも肺がんや血液腫瘍の患者さんはより重症化するリスクが高いことが知られており、米国の研究では肺がん患者さんの死亡率は8.4%、血液腫瘍の患者さんの死亡率が7.0%と、直腸がん(5.8%)や乳癌(2.8%)、前立腺癌(3.5%)などより高いことも示されています。[2]

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2018年に行われた日本国内の腫瘍治療医へのアンケート調査では、担当する患者さんがインフルエンザに罹患することによってがん薬物療法の延期または中止を余儀なくされた医師は40%にものぼり、インフルエンザの重症化のリスクだけでなく、がん治療にも影響を及ぼす可能性が指摘されています。[3]

<参考文献>
[1]Collins JPらの報告(Clin Infect Dis.2020) (外部サイトにリンクします)
[2]Li Jらの報告(ESMO Open.2020) (外部サイトにリンクします)
[3]Maeda Tらの報告(Cancer Sci.2021) (外部サイトにリンクします)

 

予防が重要

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予防で特に重要なのは日々の手洗い、うがいです。新型コロナウィルスの他、夏場にもインフルエンザと診断される場合や、夏場に流行するウイルス(パラインフルエンザウイルスなど)もありますので、一年中、手洗いやうがいをしっかりと行う必要があります。また、体調の優れない人との接触もなるべく避けましょう。

インフルエンザワクチンについて

ワクチンの効果

がん患者さんの対象に、インフルエンザワクチンがどの程度、インフルエンザを減らしたかについて調べた研究が行われており、ワクチンを接種することによって死亡割合を減らしたり、重症化を防いだりする可能性があることが示されています。

例えばカナダでの26000人を超えるがん患者さんを対象とした研究(2011-16年)では、ワクチン効果(注1)が21%、入院予防効果が20%と報告されています。この報告の中では血液腫瘍の患者さんは8%と低いワクチン効果でした[1]。しかし、イタリアからの報告(2019年10月-2020年1月)では、インフルエンザによる合併症の頻度を38%から12%まで減らしたという報告があり、重症化の防止に大きな役割を示す可能性が示されています[2]。また、接種したがん患者は死亡率が減少することが示されています。(デンマークのがん患者数万人の大規模データ解析[2007-2018年]では65歳未満もしくは65歳以上の固形がん患者さんのハザード比[注2]がそれぞれ0.91/0.81、同様に血液患者さんでは0.66/0.72という結果が報告されています[3])。免疫チェックポイント阻害剤を投与された固形がん患者さんにおいてインフルエンザワクチンを接種した方が接種しなかった患者さんより生存期間が長かったという報告も複数あります[3.4]。

2024年末に高用量インフルエンザワクチンが承認されました。主に高齢者において従来のワクチンよりも副反応を増やすことなく、効果が高いことが示されており[5]、米国では65歳以上のがん患者さんへは高用量のインフルエンザワクチン接種が推奨されています。

このように、ワクチン接種はがん患者さんのインフルエンザ関連リスクを軽減し、治療継続や生活の質の維持に寄与する可能性があります。
ぜひ担当医と相談し、適切な予防を心がけてください。


注1:ワクチン効果:ワクチン未接種のがん患者さん1万人が研究期間中に1000人がインフルエンザを発症し、ワクチンを接種したがん患者さんでは1万人中800人発症した場合のワクチン効果は20%となります。(1000人発症するところ、200人の発症を予防したという意味。)
注2:ハザード比:ワクチンを接種した患者さんとしなかった患者さんの一定の期間内における死亡する確率が同じ場合はハザード比が1となります。接種した患者さんの死亡する確率の方が低い場合にはハザード比が1を下回ります。(つまり、1より小さくなればなるほど接種した患者さんの死亡リスクが低く、逆にハザード比が1を超えて大きな値となるほど接種した患者さんの死亡リスクが高いということになります。)

<参考文献>
1.Blanchette PSらの報告(J Clin Oncol.2019)(外部サイトにリンクします)
2.Bersanelli Mらの報告 (J Immunother Cancer. 2021)(外部サイトにリンクします)
3.Amdisen Lらの報告(Cancer. 2025)(外部サイトにリンクします)
4.Bersanelli Mらの報告(EClinicalMedicine.2023)(外部サイトにリンクします)
5.Wilkinson Kらの報告( Vaccine. 2017)(外部サイトにリンクします) など

 

がん患者さんの周囲の方への接種も重要

がん患者さんへのインフルエンザワクチンが不十分なことを踏まえ、患者さんの周囲の方(家族やお世話をされる方)へインフルエンザワクチンを接種しインフルエンザにかからないようにすることで、間接的に患者さんを守ることも重要となります。

 

ワクチンの副反応

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健康な人よりもワクチンの副反応(副作用)が多くなるという心配はなく、ワクチン接種によるがんの増悪、重篤な副反応の増加もないとされています。もし何らかのアレルギーがあるようでしたら、接種時に必ず申告してください。
ワクチンを接種することによってワクチン由来のインフルエンザにかかる危険性はありません。しかし上記の通りワクチン効果は100%ではないので、ワクチン接種後でもインフルエンザにかかる可能性はありますのでご注意ください。
免疫チェックポイント阻害剤の投与を受けた場合には免疫反応の副作用が強く発現する可能性が危惧されました。しかし、最近の報告ではインフルエンザワクチンを接種しても免疫反応の頻度は増加しないという報告も増えてきており、接種が推奨されています。

<参考文献>
・Chong CRらの報告(Clin Infect Dis.2020) (外部サイトにリンクします)
・Spagnolo Fらの報告(Eur J Clin Invest.2021) (外部サイトにリンクします)

 

インフルエンザワクチンの注意点

リツキシマブ(リツキサン®)やオファツムマブ(アーゼラ®)、オビヌツマブ(カザイバ®)など一部の抗がん剤の投与を受けた場合、最低半年の間はワクチンの効果が期待できないとされるものがあります。また、免疫抑制剤を内服している患者さんなども効果が期待できない場合があります。現在がん薬物療法中の方や、心配がある場合には主治医にワクチン接種ができるか確認しましょう。インフルエンザワクチンは10月の終わりごろまでに1回接種することが勧められます。

 

<参考文献>
・Yri OEらの報告(Blood.2011) (外部サイトにリンクします)

 

インフルエンザにかかった(もしくは疑わしい)場合は

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がん薬物療法中のがん患者さんがインフルエンザにかかった場合は命にかかわる場合もあります。速やかにかかりつけの病院もしくは、お近くの内科を受診する必要があります。かかりつけ医以外の医療機関を受診する場合には、ご自身ががん患者であることや、現在受けているがん治療、内服中の薬剤などをしっかりと伝えるようにしましょう。
もし受診が困難な場合は、担当医へ電話で相談するようにしましょう。

 

お問い合わせ

国立がん研究センター東病院 医療安全管理部門 感染制御室
電話番号:04-7133-1111(代表)
受付時間:平日8時30分から17時(土曜日、日曜日、祝日、年末年始を除く)

更新日:2025年11月1日