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~未分化型も内視鏡治療で胃の温存が可能~

未分化型早期胃がんに対する内視鏡治療(ESD)の有効性を10年間の長期にわたる経過観察で検証
~未分化型も内視鏡治療で胃の温存が可能~

2026年8月7日
国立研究開発法人国立がん研究センター
静岡県立静岡がんセンター
神奈川県立がんセンター
日本臨床腫瘍研究グループ

発表のポイント

  • 従来は外科的に胃の切除が行われていた未分化型早期胃がんに対し、胃を残せる内視鏡治療(内視鏡的粘膜下層剥離術、ESD)の有効性を10年間の長期経過観察によって確認しました。
  • 過去の検討から、未分化型早期胃がんでは、治療後5年以降の転移や再発の可能性が懸念されていましたが、ESDでがんを完全に取り切り、追加の手術が不要と判断された患者さんの5年以降の転移や再発は極めてまれであることが確認されました。
  • また、定期的な内視鏡検査によって、新たに胃がんが発生した場合にも、多くは再度のESDによって、胃を温存することが可能であることが証明されました。
  • 胃の切除後には、胃切除後症候群と呼ばれる様々な後遺症が生じるため、胃を残せるESDの長期的な有効性が示されたことは、多くの患者さんの生活の質に貢献する研究成果です。
  • 本研究の成果は、未分化型早期胃がんに対するESDの長期の治療成績を示した世界初の報告として、消化器分野を代表する国際的学術誌「Gastroenterology」に掲載されます。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:間野 博行、東京都中央区)中央病院(病院長:瀬戸 泰之)が中央支援機構(データセンター/運営事務局)を担い支援する日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG(ジェイコグ):Japan Clinical Oncology Group)では、科学的証拠に基づいて患者さんに第一選択として推奨すべき治療である標準治療や診断方法等の最善の医療を確立するため、専門別研究グループで全国規模の多施設共同臨床試験を実施しています。
胃がんは、早期であっても悪性度が高いと考えられている未分化型という組織型では、外科的な胃の切除が行われてきました。しかし、胃を切除すると胃切除後症候群1と呼ばれる様々な後遺症が生じるため、JCOG消化器内視鏡グループおよび胃がんグループでは未分化型早期胃がん2に対して、胃を温存できる内視鏡治療(内視鏡的粘膜下層剥離術3、以下ESD)の有効性を評価する臨床試験を進めてきました(JCOG1009/1010試験)。その結果、一定条件を満たす未分化型早期胃がんに対するESDの5年全生存割合は99.3%という治療成績を示し、2021年改訂の日本の胃がん治療ガイドラインで標準治療とされました。一方で、未分化型早期胃がんは生物学的に悪性度が高いことから、治療後5年を超えた時期に転移や再発が生じる可能性があり、5年の検証では不十分ではないかという指摘があったため、本試験の観察期間を延長し、10年でのESDの治療成績を評価しました。
その結果、ESD後の10年全生存割合は96.2%、無再発生存割合は95.7%と、胃を切除する外科手術に劣らない治療成績が示されました。また特に懸念されていた5年以降の転移や再発は、治癒切除(ESDでがんを完全に取り切り、追加の手術が不要と判断された状態)が得られた患者さん195名のうち10年間でわずか1名でした。また、ESD後は定期的に内視鏡検査を行うことにより新たに発生した胃がん(異時性胃がん)を発見した場合も、多くは再度のESDで治療が可能であり、10年後も胃を温存したまま生活できていることが証明されました。
本研究は、未分化型早期胃がんに対するESDの10年全生存割合を、世界で初めて前向きコホートで評価した報告です。本報告は、日本の胃がん治療ガイドラインで推奨されているESDの妥当性を強固に裏付けるとともに、未分化型早期胃がんに対するESDに慎重な海外のガイドラインにおいても、ESDが新たな治療選択肢として位置づけられることや世界中の患者さんの生活の質(QOL)の向上への貢献が期待されます。
本研究成果は、消化器分野の国際的学術誌である「Gastroenterology」に米国東部時間2026年8月6日(日本時間2026年8月7日)に掲載されました。

背景

胃がんは胃の粘膜から発生するがんで、その組織学的特徴から大きく分化型胃がんと未分化型胃がんに分類されます。胃がんの治療方針は、がんの細胞型や深さ、大きさ、病変部の潰瘍の合併の有無、リンパ節転移のリスクに基づいて胃を温存できるESDまたは外科的な胃の切除などが決定されますが、未分化型早期胃がんは、がん細胞が胃の正常な組織構造を失って増殖するタイプで、分化型胃がんと比べて浸潤やリンパ節転移を起こしやすいと考えられていたため、どんなに小さくてもESDではなく、外科的な胃の切除と、胃の周囲のリンパ節を取り除くリンパ節郭清が行われていました。胃が切除されると、胃が小さくなり、あるいは無くなることにより、胃切除後症候群が生じる課題があり、患者さんの生活の質に大きく影響するためJCOG消化器内視鏡グループおよび胃がんグループは、未分化型早期胃がんの患者さんを対象にESDの有効性を評価する臨床試験(JCOG1009/1010試験)を2011年より行い、一定の条件を満たす未分化型早期胃がんでのESDによる良好な治療成績が示されたことから、現在では2 cm以下で潰瘍を伴わない未分化型早期胃がんに対しては、ESDが標準治療として推奨されています。本試験では、ESDによる治療が長期的にも安全かつ有効であることを確認するため、10年以上にわたる長期予後の検証を行いました。

図1図1 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
(出典:国立がん研究センターがん情報サービス)

研究方法

本研究は、潰瘍および潰瘍瘢痕のない2 cm以下の未分化型早期胃がんに対するESDの適応拡大を検証する非ランダム化検証的試験(JCOG1009/1010)の10年長期観察結果(最終解析)です。
対象は、20歳以上80歳以下で、内視鏡検査により潰瘍を伴わず、大きさ2 cm以下、壁深達度が粘膜内(T1a)と診断された単発の未分化型早期胃がん(低分化腺がんまたは印環細胞がん)の患者さんです。登録時には、CT検査によりリンパ節転移および遠隔転移がないことを確認しました。
登録患者さん全員に対してESDを実施し、切除した病変を「胃癌取扱い規約」に基づいて病理学的に評価しました。病理検査において、粘膜下層浸潤(pT1b)、脈管侵襲陽性、組織学的潰瘍の存在、腫瘍径2 cm超、粘液癌成分の存在、または水平断端・垂直断端陽性のいずれかを認めた場合は「非治癒切除」と判定し、追加の胃切除術を推奨しました。一方、これらの条件に該当しない場合は「治癒切除」と判定し、追加治療を行わず経過観察としました。
ESD施行後は、最初の3年間は少なくとも6か月ごと、4年目以降は年1回の定期検査を実施しました。経過観察では、定期検査(上部消化管内視鏡検査、胸部エックス線検査または胸部CT検査、腹部CT検査および腫瘍マーカー検査)を行い、転移や再発の有無を評価しました。

研究結果

5年解析結果

2011年2月から2013年5月に346名が登録され、年齢中央値は62歳でした。全登録例346名のうち、全適格例の337名で全員がESDを施行され、ESD後の病理診断結果で主組織型が未分化型優位の患者さんは275名でした。
主要評価項目であるESD後の病理組織診断結果で未分化型優位であった患者さんにおける5年全生存割合は99.3%(95%信頼区間:97.1-99.8)であり、95%信頼区間の下限値(97.1%)が閾値5年全生存割合89.9%を上回ったため、本試験の対象に対してESDが外科的切除と同等の治療成績であると判断しました。本結果は2020年にGastric Cancer誌にて公表済みで、この結果を受けて、日本のガイドラインでは本試験の対象となった未分化型早期胃がんがESDの適応病変となりました。

最終解析結果(10年)

ESD後、未分化型優位の早期胃がんと診断された275名を、観察期間中央値125.8か月(約10.5年)追跡した結果、10年全生存割合は96.2%(95%信頼区間 93.1-97.9%)、無再発生存割合は95.7%(95%信頼区間 92.4-97.6%) であり、外科手術と同等の極めて良好な成績が維持されていました。

図2図2 全生存期間

図3

図3 無再発生存期間

懸念されていた治療後5年以降の転移や再発は、ESDで治癒切除と判定された患者群において10年間でわずか1名のみ(治療後100か月目に腹膜・傍大動脈周囲リンパ節転移)でした。
また、治癒切除と判定された195名は経過観察され、要追加外科切除と判定された79名のうち73名が追加の胃切除を受けました(評価不能1名)。経過観察された195名のうち13名に異時性胃がんが発見されましたが、そのうち8名は再度ESDで治療可能でした。
再発・追加の胃切除・全死亡をイベントとした10年無再発・胃温存生存割合(RGFS)は68.6% でした。イベントの大半は、ESD後1年以内に実施された追加の胃切除であり、1年以降には新たなイベントの発生はほとんど認められませんでした。このことから、ESD後に追加の胃切除が不要と判断された患者さんでは、その後も長期にわたり胃を温存できることが実証されました。

展望

本研究成果により、一定の条件を満たす未分化型早期胃がんに対するESDの長期的な有効性が確立され、今後は世界的にも標準治療として普及が進むことが期待されます。
ただし、本治療の良好な成績は、「腫瘍が粘膜内にとどまり、潰瘍がなく2 cm以下」という厳密な条件を満たしたがんを正確に診断・切除し、さらに治療後も定期的な内視鏡検査による適切な経過観察を継続することによって初めて成り立つものです。今後は、より精緻な術前診断技術の向上を目指すとともに、異時性胃がんの早期発見・再治療体制の構築に取り組み、患者さんの手術による負担を抑えながら、胃を温存した質の高いがん医療の普及を目指します。

本試験の詳細

試験名

未分化型早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術の適応拡大に関する非ランダム化検証試験(JCOG1009/1010)

患者さんの登録時期

2011年2月1日から2013年5月17日

登録人数

346名

年齢中央値

62歳

観察期間中央値

125.8か月(約10.5年)

研究の実施体制

JCOG消化器内視鏡グループ代表:矢野 友規(国立がん研究センター東病院)
JCOG消化器内視鏡グループ事務局:阿部 清一郎(国立がん研究センター中央病院)
JCOG1009研究代表者:小野 裕之 (静岡県立静岡がんセンター)
JCOG1009研究事務局:滝沢 耕平 (神奈川県立がんセンター)、蓮池 典明 (有床診療所はすいけクリニック)
JCOG胃がんグループ代表者:吉川 貴己(横浜市立大学)
JCOG胃がんグループ事務局:朴 成和(東京大学医科学研究所附属病院)
JCOG胃がんグループ事務局:黒川 幸典(大阪大学医学部)
JCOG1010研究代表者:寺島 雅典 (静岡県立静岡がんセンター)
JCOG1010研究事務局:滝沢 耕平 (神奈川県立がんセンター)、小野 裕之 (静岡県立静岡がんセンター)
JCOG中央支援機関(データセンター/運営事務局):福田 治彦、片山 宏(国立がん研究センター)

目的

早期胃がんのうち、潰瘍および潰瘍瘢痕のない2 cm以下の未分化型優位の粘膜内癌(T1a(M))を対象としたESD の有効性と安全性を評価する。

対象

一次登録適格規準

  1. 登録前内視鏡下粘膜生検にて、組織学的に未分化型(por、sig)の成分を含む一般型腺癌と診断されている。
  2. 当該施設における病変周囲での生検において癌陰性が確認されている。
  3. 再発以外の、発見時単発の胃癌。
  4. 壁深達度が内視鏡検査にてT1a(M)(粘膜)と診断される。
  5. 内視鏡検査にて、腫瘍の最大径が2 cm以下と診断される。
  6. 内視鏡検査にて、明らかな潰瘍所見(UL)を有さない。
  7. ESD 後に狭窄をきたす可能性が低いと判断される。
  8. 腹部骨盤 CT 検査(造影を推奨)にて、リンパ節転移、遠隔転移のいずれも認めない(N0、M0)。
  9. 登録時の年齢が20歳以上、80歳以下である。
  10. PS(ECOG)が0、1のいずれかである。
  11. あらゆる胃切除の既往、食道癌に対する胃管再建術の既往がない。
  12. 他のがん種に対する治療も含めて、化学療法・内分泌療法・放射線治療の既往がない。
  13. 主要臓器機能が保たれている。
  14. 試験参加について患者さん本人から文書で同意が得られている

評価項目

主要評価項目:ESD 後の病理組織診断結果で未分化型優位であった患者さんにおける5 年生存割合
副次的評価項目:全生存期間、無再発生存期間、無遠隔再発生存期間、5 年無再発胃温存生存割合、ESD による病変一括切除割合、ESD による病理学的治癒切除割合、ESD 後の病理組織診断結果で分化型優位であった患者さんにおける 5 年生存割合、ESD にて治癒切除と判定された患者さんにおける5 年生存割合、有害事象発生割合、重篤な有害事象発生割合

実施施設

国内施設49施設

UMIN臨床試験登録システム

https://rctportal.mhlw.go.jp/detail/um?trial_id=UMIN000004995(外部サイトにリンクします)

論文情報

雑誌名

Gastroenterology

タイトル

10-year follow-up after endoscopic submucosal dissection for clinical T1a undifferentiated-type early gastric cancer ≤2cm without ulceration in a non-randomized, single-arm confirmatory trial (JCOG1009/1010)

著者

Seiichiro Abe, Kohei Takizawa, Hiroyuki Ono, Haruhiko Fukuda, Takaki Yoshikawa, Tomonori Yano

DOI

10.1053/j.gastro.2026.06.028

掲載日

日本時間2026年8月7日午前10時

URL

https://doi.org/10.1053/j.gastro.2026.06.028(外部サイトにリンクします)

研究費

  • 国立がん研究センター研究開発費
    2026-J-3/成人固形がんに対する標準治療確立のための基盤研究

日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG:Japan Clinical Oncology Group)の概要

国立がん研究センター研究開発費、日本医療研究開発機構研究費を主体とする公的研究費によって助成される研究班を中心とする多施設共同臨床研究グループで、がん診療連携拠点病院を中心とした医療機関の研究者で構成される専門分野別研究グループと国立がん研究センターが管轄する中央支援機構(国立がん研究センター中央病院臨床研究支援部門)、各種委員会から構成されており、法人格を有さない任意団体です。
JCOGウェブサイト: http://www.jcog.jp/index.html(外部サイトにリンクします)

用語解説

注1 胃切除後症候群

胃がんなどの治療で胃の一部または全部を切除した後に生じる、さまざまな症状の総称です。体重減少、腹痛や下痢、飲み込んだ食物が急速に小腸に入ってしまうダンピング症候群、貧血、骨粗症、逆流性食道炎、胆石症などがみられることがあります。

注2 早期胃がん

がんの深達度が粘膜および粘膜下組織にとどまるT1のものを示します。

注3 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

病変の周りの粘膜下層を切開し、粘膜下層から病変をはがしとる治療法です。ESDでは、まず、がんの下の粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどを注入してがんを浮き上がらせます。次に、がんの周りの粘膜を高周波ナイフで切開し、粘膜下層から病変をはがしとります。

参考文献

  1. 患者さんのための胃がん治療ガイドライン 2026年版 日本胃癌学会 編

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

神奈川県立がんセンター
消化器内科 滝沢 耕平
電話番号:045-520-2222
Eメール:takizawa.1a70o●kanagawa-pho.jp

日本臨床腫瘍研究グループに関するお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター
中央病院 臨床研究支援部門 研究企画推進部 多施設研究支援室
Eメール:webmaster●ml.jcog.jp

広報窓口

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp

静岡県立静岡がんセンター
マネジメントセンター 医療広報担当
電話番号:055-989-5222(代表)
Eメール:info●scchr.jp

神奈川県立がんセンター
総務企画課 岸上 浩子
電話番号:045-520-2222(代表)
Eメール:kishigami.17058●kanagawa-pho.jp

 

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