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ミトコンドリアDNAの量が重要な因子に

がん細胞死が抗腫瘍免疫を活性化する機序の一端を解明 
ミトコンドリアDNAの量が重要な因子に

2026年11月2日
国立がん研究センター
京都大学
名古屋大学

発表のポイント

  • がん免疫療法の仕組みや効果を事前に予測する方法については、いまだ十分に解明されていませんが、研究グループは、がん細胞内のミトコンドリアが、抗腫瘍免疫の活性化に関わる重要な因子であることを明らかにしました。
  • がん細胞内ミトコンドリアのDNAとチトクロムcの量的バランスが、分子標的薬による細胞死に伴う免疫応答を左右することを見いだし、がん細胞死の最大化だけでなく、抗腫瘍免疫の活性化に着目する新たな視点を示しました。
  • KRAS遺伝子変異陽性がん細胞では、ミトコンドリアDNAが蓄積しており、マウスモデルにおいてMEK阻害薬とマイトファジー阻害薬に免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせると抗腫瘍効果が高まりました。
  • 今後、ミトコンドリアDNAの量が治療効果を予測する手がかりとなる可能性について検証を進め、分子標的薬と免疫療法を組み合わせた治療戦略の開発につなげるための研究をさらに進めていきます。

図1 本研究で明らかになったがん細胞死が抗腫瘍免疫の活性化につながる仕組み

図1 本研究で明らかになったがん細胞死が抗腫瘍免疫の活性化につながる仕組み

概要

国立がん研究センターと京都大学、名古屋大学らの研究チームは、がん細胞内のミトコンドリアDNAの量が、がん細胞死に伴って抗腫瘍免疫が活性化されるかどうかを左右する重要な因子であることを明らかにしました。

分子標的薬は、標的となる遺伝子異常を持つがんに高い効果を示す一方で、治療抵抗性や再発が課題となっています。免疫チェックポイント阻害薬との併用が期待されていますが、効果を高めるには、分子標的薬によるがん細胞死が免疫を活性化するかどうかが重要です。がん細胞死には、免疫を活性化する「免疫原性細胞死」と、免疫をほとんど刺激しない「アポトーシス」がありますが、この違いを生む条件は十分にわかっていませんでした。

本研究ではまず、KRAS遺伝子変異注1をもつがんではミトコンドリアDNAが蓄積していることを明らかにしました。次に、ミトコンドリアDNAを多く持つがん細胞に、特定の分子を狙って作用する分子標的薬と、細胞内でのミトコンドリアの分解を抑えるクロロキンを併用すると、ミトコンドリアDNAが細胞質へ放出され、免疫応答が誘導されることを示しました。また、ミトコンドリアDNAと、アポトーシスを誘導するたんぱく質であるチトクロムcとのバランスが、がん細胞死に伴う免疫応答を左右することを見いだしました。

さらに、マウス実験では、MEK阻害薬注2とマイトファジー阻害薬注3に免疫チェックポイント阻害薬注4を組み合わせると、抗腫瘍効果が高まりました。一方、ミトコンドリアDNAが少ない腫瘍では、この効果はみられませんでした。

今後、ミトコンドリアDNAの量が治療効果を予測する手がかりとなる可能性について検証を進め、分子標的薬と免疫療法を組み合わせた治療戦略の開発につなげるための研究をさらに進めていきます。

本研究は、米国科学誌「Immunity」に米国東部時間2026年10月30日(日本時間2026年10月31日)掲載されました。

背景

一部のがんでは、免疫チェックポイント阻害薬と抗がん剤の併用療法が標準治療として用いられています。併用によって効果が高まる理由の一つとして、抗がん剤によるがん細胞死が免疫を刺激する「免疫原性細胞死」が起こることが考えられています。

一方、分子標的薬は、対応する遺伝子異常を持つ一部のがんに対して有効性を示すものの、治療を続けるうちに薬が効きにくくなる「耐性」が課題となっています。分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせれば効果が長く続くと期待されます。しかし、有効性が示されたがん種は限られており、両者が相乗効果を生む科学的根拠も十分ではありませんでした。

ミトコンドリアは、細胞内でエネルギーをつくる小器官で、核とは別に独自のDNAを持っています。ミトコンドリアDNAが細胞質に漏れ出すと、異物として認識され、cGAS-STING経路注5を介してI型インターフェロン(IFN)注6が産生され、免疫が活性化されることが知られています。しかし、どのがんで、どのような条件でこの反応が起こるのか、またそれを治療効果に結びつけられるかについては、ほとんどわかっていませんでした。

研究成果(方法・結果)

1.KRAS遺伝子変異陽性のがん細胞にはミトコンドリアDNAが蓄積している

公開データベースを用いてがん細胞株を解析したところ、ミトコンドリアDNAの量に最も強く関連していたのは、がんの種類よりもKRAS遺伝子変異の有無でした。肺がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がんなどで、KRAS遺伝子変異のある細胞ではミトコンドリアDNAが多い傾向がみられました。KRAS遺伝子変異があると、細胞にストレスを与える活性酸素種が増え、ミトコンドリアDNAの複製が促されることで、ミトコンドリアDNAが蓄積していました。

2. 分子標的薬とマイトファジー阻害薬の併用で免疫応答が誘導された

KRAS遺伝子変異陽性がん細胞にMEK阻害薬を用いると、ミトコンドリアDNAが細胞質へ放出されました。一方で、MEK阻害薬は、傷ついたミトコンドリアを分解・除去する「マイトファジー」という仕組みも働かせ、ミトコンドリアDNAの細胞質への放出を抑えていました。そこで薬剤でマイトファジーを抑えると、ミトコンドリアDNAの放出が続き、I型インターフェロンによる免疫応答が強まりました。ミトコンドリアDNAが少ない細胞や、STINGを持たない細胞では、この応答はみられませんでした。

3. ミトコンドリアDNAとチトクロムcの量的バランスががん細胞死の機序に関わる

ミトコンドリアDNAが多い肺がん細胞(KRAS遺伝子変異、ALK融合、ROS1融合)では、分子標的薬とマイトファジー阻害薬の併用により免疫応答が誘導されました。一方、チトクロムcが多いEGFR変異肺がん細胞では、主にアポトーシスが誘導されました(図2A)。チトクロムcを減らすと、免疫原性細胞死へと切り替わりました。また、薬剤の刺激が強すぎるとアポトーシスが優位になり、免疫応答は弱まりました(図2B)。

図2 ミトコンドリアDNA/チトクロムcの含有比率によるがん細胞死の違い
図2 ミトコンドリアDNA/チトクロムcの含有比率によるがん細胞死の違い

4. マウス実験で抗腫瘍効果が高まった

マウス実験では、KRAS遺伝子変異陽性大腸がんに対し、MEK阻害薬、マイトファジー阻害薬、抗PD-1抗体(免疫チェックポイント阻害薬の一つ)の3剤併用で腫瘍の増殖が抑えられ、12匹中2匹で腫瘍が消失しました(図3)。この効果は、がんの目印を免疫細胞に伝える樹状細胞や、がん細胞を攻撃するCD8陽性T細胞の働きによるものでした。ミトコンドリアDNAが少ない腫瘍では、3剤併用の効果はみられませんでした。

図3 分子標的薬+マイトファジー阻害薬による免疫チェックポイント阻害薬の効果増強
図3 分子標的薬+マイトファジー阻害薬による免疫チェックポイント阻害薬の効果増強

展望

今後、ミトコンドリアDNAの量が治療効果を予測する手がかりとなる可能性について検証を進め、分子標的薬と免疫療法を組み合わせた治療戦略の開発につなげるための研究をさらに進めていきます。

論文情報

雑誌名

Immunity

タイトル

Mitochondrial DNA Abundance Is a Determinant of Immunogenic Cell Death in Cancer

著者

Kosuke Tanaka#*, Yasuki Adachi#, Takuma Irie, Tomoko Yamamori-Morita, Kazuhiro Kumagai, Takuya Owari, Genki Okumura, Yoshihisa Kobayashi, Hideaki Bando, Yuichiro Tsukada, Shogo Kumagai, Kota Itahashi, Eri Sugiyama, Hiroki Izumi, Yuji Shibata, Koichi Goto, Akihiro Ohashi, Susumu S Kobayashi, Shohei Koyama, Hiroyoshi Nishikawa*
(#共同筆頭著者、*責任著者)

*責任著者:国立がん研究センター研究所 腫瘍免疫研究分野長 西川 博嘉(国立がん研究センター先端医療開発センター 免疫トランスレーショナルリサーチ分野 分野長、京都大学大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センター がん免疫多細胞システム制御部門 教授、名古屋大学大学院医学系研究科 微生物・免疫学講座 分子細胞免疫学 教授)

DOI

10.1016/j.immuni.2026.10.002(外部サイトにリンクします)

掲載日

2026年10月30日

主な研究費

  • 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
    ・次世代がん医療加速化研究事業(P-PROMOTE)「ミトコンドリアDNAに着目した免疫原性を高めるKRAS遺伝子変異がんの新たな治療開発」
    ・ムーンショット型研究開発事業 目標7「慢性炎症の制御によるがん発症ゼロ社会の実現」

用語解説

注1 KRAS遺伝子変異

KRAS遺伝子は、細胞の増殖を促す信号を伝えるたんぱく質をつくる遺伝子です。この遺伝子に変異があると増殖の信号が出続け、がんの発生や進行に関わります。KRAS遺伝子の変異は、肺がん、大腸がん、膵臓がんなどで多くみられます。

注2 MEK阻害薬

KRASから始まる細胞増殖の信号は、複数のたんぱく質を順に経由して伝わります。MEK阻害薬は、その途中で信号を伝えるMEKというたんぱく質の働きを抑え、増殖の信号を遮断する分子標的薬です。

注3 マイトファジー阻害薬

細胞内で損傷を受けたミトコンドリアを分解する仕組み(マイトファジー)を抑える作用を持つ薬です。本研究では、この作用が報告されているクロロキンをマウス実験に用いており、がんの治療に使えることを示すものではありません。

注4 免疫チェックポイント阻害薬

免疫細胞には、過剰に働かないようにブレーキをかける仕組み(免疫チェックポイント)があり、がん細胞はこの仕組みを利用して免疫の攻撃から逃れています。免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキを外し、がんを攻撃するT細胞の働きを回復させる薬です。

注5 cGAS-STING経路

本来は核やミトコンドリアの中にあるDNAが細胞質に現れると、cGASというたんぱく質がこれを感知し、STINGというたんぱく質を介して自然免疫を活性化する仕組みです。I型インターフェロンなどの産生を促します。

注6 I型インターフェロン

ウイルス感染などに応じて細胞がつくる、免疫に関わるたんぱく質の一群です。免疫細胞を呼び寄せたり活性化したりする働きを持ち、がんに対する免疫応答の誘導にも関わります。

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター研究所
腫瘍免疫研究分野 分野長 西川 博嘉
Eメール:hnishika●ncc.go.jp

広報窓口

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp

国立大学法人京都大学
広報室 国際広報班
電話番号:075-753-5727
Eメール:comms●mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学
医学部・医学系研究科 総務課総務係
電話番号:052-744-2228
Eメール:iga-sous●t.mail.nagoya-u.ac.jp

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