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直腸がんの術後癒着抑制に粉末型癒着防止材SI-449が有効であることを確認無処置群と比較し癒着発生率を93%から45%に低減

2026年9月29日
国立研究開発法人国立がん研究センター

発表のポイント

  • 術後癒着は、腹部・骨盤内手術後にみられる代表的な合併症の一つであり、腸閉塞や慢性疼痛、再手術時の手術難易度の上昇などにつながります。
  • 術後癒着を防止するため閉腹前に、切開部周辺に癒着防止材を散布しますが、従来型であるシート型やスプレー型の癒着防止材では、凹凸のある組織表面に薬剤が行き渡りにくいことが課題となっていました。
  • 本試験では、粉末型癒着防止材SI-449を用い、直腸がんの開腹手術後にSI-449で処置を行ったグループと無処置のグループでの術後癒着の発生率や重症度等を全国53施設による多施設共同ランダム化比較試験で検証しました。
  • 本試験の結果、無処置のグループでの癒着発生率が93%であるのに対し、SI-449で処置を行ったグループでは45%で、SI-449で処置を行うことにより術後癒着の発生率が約半分に低下し、さらに癒着の重症度や範囲も有意に抑制されることを確認しました。
  • 本試験結果により、SI-449が腹部手術後の癒着抑制に有用である可能性が示され、今後、患者さんの身体的負担の軽減につながることが期待されます。

図1 粉末型癒着防止材

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(所在地:東京都中央区、理事長:間野 博行)中央病院(病院長:瀬戸 泰之)は、全国53施設による多施設共同ランダム化比較試験注1において、直腸がんの開腹手術の閉腹前に切開直下の組織表面へ、粉末型癒着防止材SI-449(以下、SI-449)を散布することにより、術後癒着の発生率、重症度および広がりが有意に抑制されることを確認しました。

術後癒着(手術後に臓器や組織が周囲の組織とくっつくこと)は、腹部や骨盤内の手術後に多く発生し、腸閉塞注2や慢性的な痛みの原因となるほか、再手術の際に癒着した組織をはがす必要が生じ、手術を難しくすることがあります。そのため一般的には、閉腹前に組織表面に癒着防止材を散布しますが、従来型であるシート型やスプレー型の癒着防止材では複雑な形状の部位への適用が難しいことが課題となっていました。

本試験では、粉末型の癒着防止材を用いて、直腸がんの開腹手術後、閉腹前にSI-449を散布するグループ(SI-449群)と処置を行わないグループ(無処置群)での、術後癒着の発生率と重症度および広がりを評価しました。その結果、癒着発生率は無処置群の93%に対し、SI-449群では45%で、SI-449群において術後癒着の発生率が有意に低下しました。また、癒着の重症度および広がりもSI-449群で有意に抑制されました。安全性については、本試験で確認された範囲では、SI-449と因果関係がある有害事象は認められませんでした。

本試験結果により、直腸がんの開腹手術において、閉腹直前にSI-449で処置を行うことで、術後癒着を抑制できる可能性が示されました。さらに、SI-449は凹凸のある組織表面や狭い部位にも散布しやすいという特徴を有しており、今回得られた知見を基盤として、今後、ロボット支援手術を含む腹腔鏡手術注3をはじめ、さまざまな手術への応用が期待されます。

なお、本研究成果は、外科学分野の国際医学誌「JAMA Surgery」に米国時間2026年8月26日付でオンライン掲載されました。

背景

腹部や骨盤内の手術後には、手術によって傷ついた組織の炎症などに伴い、術後癒着が一定の頻度で発生し、癒着性腸閉塞や慢性腹痛、不妊症、再手術時の臓器損傷などさまざまな問題を引き起こします。術後癒着を抑えるため、現在は主にシート型やスプレー型などの癒着防止材が使用されています。しかし、シート型では凹凸のある組織表面や狭い範囲には貼付しにくく、またスプレー型では使用前の準備が比較的複雑であることや、散布後の液だれにより散布範囲が分かりにくいなど、操作性に課題がありました。これらのことから、凹凸のある組織表面にも簡便に使用でき、十分な癒着防止効果を持つ新たな癒着防止材が求められていました。

SI-449は、粉末状であるため、凹凸のある組織表面や腹腔内の狭い場所にも散布しやすいという特徴があり、操作性や癒着防止効果が期待されていました。

研究方法

本試験は、2020年9月から2023年6月までに、日本国内の53施設が参加し、多施設共同のランダム化比較試験として実施されました。対象は、臨床病期I期からIV期の直腸がんに対して、開腹による直腸切除術と一時的な回腸人工肛門造設術を受け、後日、回腸人工肛門閉鎖術注4を受ける予定の20歳以上の患者さんとしました。適格基準を満たした患者さんは131人で、以下の2群にランダムに割り付けました。

  • 対照群(無処置群):閉腹前に癒着防止のための追加処置を行わない群
  • SI-449群:閉腹直前に、正中切開創直下注5の臓器表面へSI-449を2~3g散布する群

割り付けられた処置を受けたのは、無処置群64人、SI-449群64人でした。このうち、後日行われた回腸人工肛門閉鎖術を完了し、癒着の状態を評価できた計118人を対象に有効性を解析しました。

主要評価項目は、正中切開創直下の癒着発生率と重症度、癒着の範囲とし、副次的に安全性、操作性についても評価しました。

研究結果

癒着発生率は、無処置群では93%であったのに対し、SI-449群では45%で、SI-449群での癒着発生率が統計学的に有意に低いことが示されました (P < .001)。また、癒着の重症度について、厚く強固で血管新生を伴う「重度の癒着」が認められた患者さんは、無処置群の28%に対し、SI-449群では5%で、SI-449群で重度の癒着が統計学的に有意に少ないことが示されました(表1)。

表1 癒着の発生率と重症度

癒着の有無と重症度

無処置群

SI-449群

癒着なし

7%

55%

癒着あり

93%

45%

 重症度(軽度)

(10%)

(16%)

 重症度(中程度)

(55%)

(24%)

 重症度(重度)

(28%)

(5%)

癒着の範囲について、正中切開創直下の広い範囲に及んでいた割合は、無処置群の66%に対し、SI-449群では22%で、癒着の広がりについてもSI-449群で有意に抑制されていました(表2)。

表2 癒着の範囲

癒着の有無と範囲

無処置群

SI-449群

癒着なし

7%

55%

癒着あり

93%

45%

 癒着範囲(切開創の3分の1未満)

(15%)

(14%)

 癒着範囲(切開創の3分の1~3分の2)

(12%)

(9%)

 癒着範囲(切開創の3分の2以上)

(66%)

(22%)

安全性の評価では、SI-449との因果関係がある有害事象は認められませんでした。SI-449との因果関係がない有害事象の発生頻度も、重篤な有害事象等を含め、両群で同程度でした。操作性については、SI-449群の全例で対象部位への散布が行われ、散布後のSI-449を目視で確認することが可能でした。術者による評価では、95%で「満足」または「概ね問題なし」とされました。

展望

本試験により、直腸がんでの術後癒着の発生率、重症度および範囲の抑制に、SI-449による処置が有効であることが確認されました。今後は、こうした癒着の抑制が、癒着性腸閉塞や慢性的な痛み、再手術時の合併症などの減少につながるかを長期的に検証するとともに、腹腔鏡手術やロボット支援手術など、さまざまな術式への応用についても検討が進むことが期待されます。

論文情報

雑誌名

JAMA Surgery

タイトル

Cross-linked Chondroitin Sulfate Adhesion Barrier System in Open Rectal Resection: A Randomized Clinical Trial

著者

Yukihide Kanemitsu, Eiji Hashizume, Takeshi Suto, Kazunori Yawata, Kenichi Inaoka,  Kazuhiro Hiramatsu, Koji Komori, Masataka Ikeda, Nobuhiro Ishido, Masahiko Watanabe,

DOI

10.1001/jamasurg.2026.3416

掲載日

2026年8月26日

URL

https://doi.org/10.1001/jamasurg.2026.3416(外部サイトにリンクします)

研究費

本試験は、生化学工業株式会社による治験として行われました。

研究費名(支援先):生化学工業株式会社
研究課題名:SI-449癒着防止システムの開腹による直腸切除術施行患者を対象とした無作為化試験
研究代表者名:佐川 健二

用語解説

注1 ランダム化比較試験

登録された患者さんをランダムに各治療群に割り付け治療成績を比較する、検証的な臨床試験のことです。

注2 腸閉塞

腸の中を食べ物や消化液などが通りにくくなったり、通らなくなったりする状態です。腹痛、おなかの張り、吐き気や嘔吐などの症状が現れることがあります。

注3 腹腔鏡手術

おなかに小さな穴を開け、そこからカメラや手術器具を入れて、モニターに映し出された腹腔内の映像を見ながら行う手術です。

注4 回腸人工肛門閉鎖術

小腸の一部である回腸をおなかの表面に出して、一時的に作った人工肛門を閉じ、便が再び本来の腸管を通るようにする手術です。

注5 正中切開創直下

手術のためにおなかの中央を縦に切開した部分の、内側にあたる範囲を指します。

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院
大腸外科 金光幸秀
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール: ykanemit●ncc.go.jp

広報窓口

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp

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