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乳房再建術について
概説
乳がんの切除により変形あるいは失われた乳房をできる限り取り戻すための手術を乳房再建術といいます。乳房再建を行うことにより乳房の喪失感が軽減し、下着着用時の補正パットが不要になるなどの日常生活の不都合が減少します。乳房再建術は手術する時期や手術法が数種類あります。
乳房再建の時期
再建のタイミングによって以下の2つに大別されます。
一次再建 (同時再建、即時再建も同じ意味です)
乳がん切除と同時に再建まで行う方法です。
二次再建
乳がんの手術や化学療法などの補助療法が一段落したところで再建を行う方法です。
乳房再建の方法
大別すると「自分の体の一部(自家組織)を使用する方法」と「人工物を使用する方法」があります。
自分の体の一部(自家組織)を使って再建する方法
深下腹壁動脈穿通枝皮弁法
腹部の皮膚・脂肪に血管付けて採取し、顕微鏡を使って胸部の血管と皮弁の血管をつなぎます。これにより、腹部の皮膚・脂肪を血流がある状態で胸部に移植することができるため、それを用いて乳房を再建します。腹部の筋肉は温存します。手術時間は乳がん切除が終了した時点から6時間から9時間程度です。入院期間は手術後10日から14日程度です。
どのような人に適しているか
- 人工物を使用したくない人。
- 乳房の比較的大きい人。
適さない人
- 妊娠を希望している人。
広背筋皮弁法
背中の皮膚・脂肪・広背筋を血管がつながったままの状態で、脇の下を通して胸部に移動し、乳房形態を再建する方法です。
手術時間は乳がん切除が終了した時点から4~5時間程度です。入院期間は手術後10日から14日程度です。
どのような人に適しているか
- 人工物を使用したくない人。
- 乳房があまり大きくない人。
適さない人
- 力仕事をしている人。
- 腕を使うスポーツをしている人。
自家組織の利点
腹部・背部の皮弁に共通の利点
- 感染に強いです。
- 人工物と比べて術後のメンテナンスの必要性が少ないです。
- 自然な柔らかい乳房を再建できます。
- 仰向けになったときや動いたときに自然な乳房の移動があります。
自家組織の欠点
腹部・背部の皮弁に共通の欠点
- 体の他の部分に傷ができます。
- 手術時間、入院期間が長くなります(歩行や食事は手術翌日より可能)。
- 移植した皮弁が壊死する可能性があります。小範囲の壊死であれば自然治癒しますが、広範囲の壊死が生じた場合は乳房形態を再建することが困難となります。
腹部の皮弁の欠点
- 血栓形成による血管閉塞が生じる可能性があります(2-3%)。その場合は、緊急で血栓除去術を行います。
- 腹部がしばらく突っ張ることがあります。
- 将来妊娠の可能性がある方は使用できません。
背部の皮弁の欠点
- 皮弁を採取した部位の筋力の低下を感じることがあります。
- 手術後、時間がたつと移植した筋肉が痩せ、再建乳房がやや小さくなる可能性があります。
- 筋肉が移植されているため、再建した乳房がピクピクと動くことがあります。
- 背部に漿液腫(体液の貯留)が生じることがあります。針を刺して貯留した体液を抜くことが可能ですが、複数回の治療が必要になることがあります。
人工物を使って再建する方法:シリコンインプラントによる乳房再建術
乳がん手術では乳輪乳頭を含む乳房の皮膚が切除されることが多いため、まずは組織拡張器(ティッシュエキスパンダー)で皮膚を伸展させる必要があります。そのため2回の手術が必要になります。
シリコンインプラントによる乳房再建の流れ
- 1回目の手術では、乳がん切除後にティッシュエキスパンダーを大胸筋の下に挿入し、傷を閉じます。 手術時間は乳がん切除が終了した時点から1時間~1時間半程度です。 入院期間は手術後7~14日程度です。
- ティッシュエキスパンダーは外来で徐々に拡張させ(2~3週に1回程度通院)、皮膚を伸展させます。 皮膚が十分に伸展したところで伸展した皮膚が安定するまで6カ月程度待機していただきます。
- 2回目の手術で、ティッシュエキスパンダーを取り出し、シリコンインプラントに交換します。
シリコンインプラントによる乳房再建術の利点
- 乳房の他の部分に傷をつけなくてすみます。
- 手術時間、入院期間が短いです。
シリコンインプラントによる乳房再建術の欠点
- 感染や破損、広範囲の皮膚壊死がおきた場合には、人工物を取り出す必要があります(約3%)。喫煙している場合はそのリスクがさらに高くなります。
- 手術後に人工物の位置が移動し再手術が必要となることがあります。
- エキスパンダー挿入中はMRIを撮影することができません。
- 乳輪乳頭が温存されるとき、エキスパンダー拡張中に乳輪乳頭の位置が移動することがあります。
- 仰向けになったときや動いたときに乳房の自然な移動がありません。
- 再建乳房の形は変わらないので、年とともに健側乳房が下垂すると左右差が生じます。
- やや硬さのある乳房になります。
- 下垂した乳房の再現が困難です。
- 最低でも手術を2回受ける必要があります。
- 被膜拘縮が出現して硬くなったり変形したりすることがあります。
- 被膜拘縮や変形、インプラントの破損により、将来的に入れ替えの必要があります。
- その他、稀ですが、ブレスト・インプラントに関連する未分化型大細胞リンパ腫の発生が報告されています。
どのような人に適しているか
- 乳房の下垂がない人。
- 乳がん手術で大胸筋や乳房の皮膚がしっかり残っている人。
- 身体への負担が少ない手術を希望する人。
適さない人
- 再建部位に放射線治療歴がある人。
- 喫煙している人。
- 術後治療の可能性が高い人。
手術後の経過
いずれの方法を選択しても乳房形態の左右差はある程度生じます。
形態の左右差や傷跡の二次修正術が必要となることがあります。
乳輪乳頭形成は乳房再建後6カ月以上経過してから行います。
乳輪乳頭再建
乳輪乳頭を温存できなかった場合、乳房再建の最後の仕上げとして乳輪乳頭の再建を行います。局所麻酔による通院手術が可能であり、入院の必要はありません。
再建方法
健側乳頭からの移植
健側の乳頭を半切して患側に移植します。再建側では、移植した乳頭の周囲にtattooや皮膚移植で乳輪を再建します。皮膚移植は大腿内側基部の色素沈着した皮膚や健側乳輪の一部を使用します。
どのような人に適しているか
- 乳輪乳頭のサイズが大きい人。
- 健側の乳輪乳頭の縮小を希望する人。
適さない人
- 将来授乳の可能性がある人(授乳ができる方法もあります)。
- 健側を傷つけたくない人。
- 放射線治療などで移植する部位の状態が良くない人。
- 乳輪乳頭を採取する側にも乳がんの既往がある人。
乳輪乳頭再建の利点
- 質感、色調の対称性が得やすい。
- 採取した側の乳輪乳頭の縮小ができる。
乳輪乳頭再建の欠点
- 完全に生着しないことがある(色素沈着、色素脱出、瘢痕などの原因となる)。
- 採取した側に傷あとが残る。
- 合併症:出血、感染、疼痛など。
局所皮弁による再建
再建した側の乳房の皮膚に皮下脂肪をつけた組織(皮弁)を立ち上げて乳頭の突出を作ります。その周りに乳輪を作ります。大きく分けて2つの方法があります。
- スター皮弁
突出の小さな乳頭の再建となります。 - スケート皮弁
突出の大きな乳頭の再建となります。乳輪部に植皮が必要であるため、他部位から皮膚を採取する必要があります。
スター皮弁
スケート皮弁
どのような人に適しているか
- 健側の乳頭が小さい人。
- 両側乳癌で乳頭乳輪が両側ともない人。
- 将来授乳の可能性がある人。
適さない人
- 患側皮膚に術後照射されている人(放射線治療後、十分な時間が経過していれば可能です)
局所皮弁による再建の利点
- 健側の乳頭を傷つけない。
局所皮弁による再建の欠点
- 長期的に見ると、皮弁は柔らかい組織で支持組織がないため、再建した乳頭が平らになります。
- スケート皮弁は皮膚採取をした他部位に傷が残ります。
- 合併症:出血、感染、疼痛など
後療法
抜糸などが終了したら、乳頭がつぶれないよう3カ月程度スポンジで乳頭乳輪を保護します。
色の再建
タトゥー(刺青)
乳輪乳頭の再建手術が終了して3カ月以上経過した後、乳頭や乳輪部にタトゥーをいれます。乳頭を移植した場合や、色素のある皮膚を植皮した部分以外は、タトゥー入れないと肌色のままとなります。 施術に伴う感染やアレルギー反応といった合併症はほとんどありません。
この方法の利点
- 皮膚の採取をしないため、他の部位を傷つけません。
この方法の欠点
- 一回の施術で十分な色を出すことができない場合があり、追加のタトゥーが必要となることがあります。
- 施術後、時間経過とともに色素は薄くなります。追加のタトゥーが必要となることがあります。
合併症
感染やアレルギー反応といった合併症はほとんどありませんが、金属アレルギーのある方はパッチテストを行います。
代替方法
人工の乳輪・乳頭など:シリコン性の乳輪・乳頭を必要に応じて装着。
その他
いずれの方法を選択しても形態・色調の左右差はある程度生じます。
遺伝性乳がんに対する予防的乳房切除術後の乳房再建
2020年の保険改定で遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の乳がんに対する予防的乳房切除が保険適用の対象になりました。それに伴い、遺伝性乳がんに対する予防的乳房切除術後のエキスパンダー・インプラントを用いた乳房再建術も保険適用の対象に追加されました。同様に、予防的乳房切除が保険適用の場合は、自家組織移植を用いた乳房再建術も保険適用の対象となります。詳しくはお問合せください。
乳房再建のご相談
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現在、乳房再建手術については当センターに通院中の方、または当センターでの治療歴のある方のみの受付となっております。ご了承ください。詳しくはお問合せください。