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荘内病院×国立がん研究センター東病院 医療連載「つながる医療 がん治最前線」第6回 がんの克服をめざす薬物療法

2021年10月23日
国立がん研究センター東病院 副院長(研究担当)、先端医療科 科長 土井 俊彦

がんの薬物治療

がんを手術したのちも、再発、転移することがあります。人間の目、血液、最新のCTなどでも小さながん細胞を見つけることはできません。取り除くことが困難な場合、薬物療法が行われます。薬物療法は、がん細胞が増えるのを抑えたり、成長を遅らせたり、転移している小さながん細胞を排除し転移や再発を防ぎます。現在では、適切な支持療法によって副作用で治療を中止することは少なくなっています。薬物治療は、自宅で生活をしながら外来で治療が可能なものが増えていっています。

薬物療法の種類

抗がん剤は、いくつかの種類に分類されています(図1)。

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図1 薬剤療法の種類

薬物療法(分子標的治療薬)におけるがんゲノム医療

多数の遺伝子を調べ(がん遺伝子パネル検査)、体質や病状に合わせて治療薬を決めていく個別化医療の一つです。この検査によって効果が得られる薬物が選択されるのは、少数ですが、有効な薬剤が見つかる場合もあります。

新しい薬物治療のいくつかを紹介します。

ADC製剤(抗体薬物複合体)

抗体に抗がん剤を結合させ、がん細胞に強力な抗がん剤を届けて、がん細胞のみを攻撃し、かつ正常な細胞への影響を避けるがん治療薬です。ミサイル療法、武装化抗体ともいわれています。抗がん剤の代わりに放射線核種、光増感剤などが利用可能でがん細胞のいろいろな方法で制御が可能です(図2)。

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図2 ADC製剤(抗体薬物複合体)

CAR-T細胞治療

リンパ球細胞を、遺伝子医療の技術を用いてがん細胞を攻撃するように改変し、投与することにより、がんを治療するのがCAR-T療法です。非常に高い有効性を認めています。新しい免疫治療の一つです(図3)。

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図3 CAR-T治療法

腫瘍融解ウイルス

生体に感染したウイルスは細胞の中に入り込んで増殖し、細胞を次々と死滅させる性質をがん治療に利用した治療法です(図4)。

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図4 腫瘍融解ウイルス

標準治療で有効な薬剤がなくなってしまったら

標準治療とは、治療効果や安全性が確認され、ガイドラインで推奨されている治療です。

「標準」というと、「平均・並」と捉えられ、お金をかければより良い治療があるのではないか?と思う患者さんも多いと思います。しかし、標準治療は最も信頼性の高い、治療法なのです。これに対し最先端治療は、開発途中の治療であり治療効果や副作用は未知の治療です。最先端治療(治験や臨床研究)は、厳格な規制のもとで実施されています。

国立がん研究センター東病院は、国内外有数の治験実施施設です。新薬の使用経験の多い専門スタッフにより質の高い、安全な治験を実施し、標準治療を作り出していっています。

がんに対する治療法は、日々進化しています。多くのがんの患者さんに一日でも早く良い治療法が届くよう我々も努力しています。治験や最先端医療の情報に興味をお持ちであれば当院の医療相談を受けることも可能です。

執筆者

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  • 土井俊彦(どい・としひこ)
  • 1989年岡山大学医学部卒業後、国立病院四国がんセンターを経て、2002年より国立がんセンター東病院勤務。現在、副院長(研究担当)。早期新薬開発のほか再生医療、AI・IoT を利用したインフラ整備等にもかかわる。医学博士。日本内科学会認定医・指導医、日本消化器病学会認定指導医。

更新日:2022年3月10日